召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
国王の帰還 (最終幕)
30分後、物部かすみが設置したポータルの世界から全員が無事に戻って来た。そしてこういう時、真っ先に口を開くあの人は、口を開くどころかずっとだんまりである。するとこの時、意外な人物から玲に声が掛けられた。
「レイ・モカミ師、あれは一体...
どういうことなのだ!?」
ロメロ5世は不思議な感覚から抜けきれないまま、何となくそんな言葉を玲に向けて呟いた。彼を始めとするロムリア人達は、ポータルが作り出す世界には何もない、エンペラールやタチアナであれば、それこそ霊界のような空間を想像していたようだ。ところが
「まさか、この建物がそのまま存在するなんて...」
と今度はタチアナが、ロメロ5世の言葉の後を継ぐようにそう呟くが、その言葉には自分達の予想が見事に外れたことに対する衝撃が含まれていた。ただ、なぜそうなるかについては、玲も、ましてやかすみと神室霊華も、その理由は分かっていない。ただし目的は恐らくこうだろうということは伝えておいた。
「そうなると、何か集中して取り組みたい時などには
便利ということなのでしょうか?」
と今度はヴェレニエラがそう尋ねた。玲は、
「はい、先程も申し上げた通り、
この空間では自分に向き合って
精神修養をするというか、
そんな目的があったのではと推測されます。
そのため、何かに集中したいという目的は、
その中に含まれてもおかしくありません。
ただ...」
時間の概念が存在しない、言い換えると、空間は作れるが時間は作れないというべきか、そのために
「出来た! と喜んでこの空間から出て来た時に、
もしかしたら数十年後とか、下手すると...」
「数百年後になってしまうのですね...」
とヴェレニエラは玲の言葉を継いでそう呟いた。その時タチアナが
「でも、レイ君。そんな危険な空間を
精神修養に使うメリットってあるのかしら?」
との質問をぶつけて来た。これに対して玲は、常々その点については考えていたのだが、多分こうだろうという推測の下で
「初めからそうなることを分かった状態で、
仏教徒は悟りを開くべく修業をしたのではないか
と思っています」
と答えた。これにはかすみと神室霊華は驚いた表情を示し、
「れ、玲。そんなこと有り得るんか?」
と指摘したのだが、玲は自分が無神論者で、神も仏も信じないということをまず断った上で
「確か仏教だと、悟りの妨げになる
煩悩だったっけ。あれを取り除くことが
重要だと何かで読んだんだけど...」
遂に悟りを開いてあの空間から出て来たのであれば、そこに自分の友人や親が当然いないことに対し、後悔することはないのではないかとの持論を展開した。
「逆に後悔したら、現世に対する未練が
まだ残っているということで、
修行が足りないと思って、
再度あの空間を作って修行をしたとか、
考えられないかな?」
とかすみに問い掛けた。確かにそう言われると、その時の後悔はまさに悟りの妨げとなる煩悩その物である訳で、もしそうなら自分の未熟さを悔いて、再び修行に出ても不思議ではない。そう考えるとかすみも「せやな、それは十分ありそやな」と納得した。
さて、何やらしんみりとしてしまったロメロ5世の送別会に対し、玲は
「本来なら陛下を気持ちよく
お送りしたかったのですが、
何やらしんみりとさせてしまい、
大変申し訳ありません」
とロメロ5世に向かって謝罪の言葉を伝えた。それに対しロメロ5世は
「レイ・モカミ師、
余は全くしんみりとはしておらぬよ。
むしろあの様な空間が作られるという事実に、
ただ驚いただけであるぞ」
と玲の心遣いに気を配りながらも、
「それよりも、あの不思議な空間は、
この星だけでしかできないのだろうか。
ロムリアでは無理なのか?」
と玲の思いもよらぬ質問がロメロ5世の口から発せられた。それには、逆に玲がショックを受けたようにじっとロメロ5世を見つめてしまうのだが、直ぐにこれは失礼な行為だと言うことで目線を下に向けつつ、
「多分、場所は選ばないと思います。
ただし...」
ここにある物がロムリアにあるのかどうか、そしてこの呪文を正確に口に出来るかどうかがカギになるのではと指摘した。その時タチアナが急に「えっ、それってサモナルド語でって...」と言った途端黙り込んでしまった。玲はその理由が分かっており、日本語のこの呪文をサモナルド人が正確に発音することは多分無理だと睨んでいる。ただし、
”タチアナさんは、地球での生活が長かったので、
もしかしたらできるかもしれないが...”
と思ったりもする。
その後、丁度送別会も一区切りついたようで、ロメロ5世はこのままロムリアに帰還するという。そこで召喚門が設置されているリビングの片隅に全員が集まり、それぞれがロメロ5世との別れの挨拶を行った。
「レイ・モカミ師、大変世話になったな。
今度ロムリアに来た時は、
是非王宮にも顔を出してくれ」
「カスミ・モノベ師、レイカ・カムロ師、
今宵の料理は、余の人生で味わったことのない
素晴らしい物ばかりであった。
願わくば、これらの料理を
ロムリアでも味わえたらと、
それだけが心残りである」
そして最後に娘のヴェレニエラが甘えるように父親に抱きついて
「ヴェラ、ロムリアの半年後、
しかと待っておるぞ。
後、孫たちにも宜しく伝えておいてくれ」
その言葉を聞いたヴェレニエラは、涙を流しながら父親の言葉を胸に刻んだ。そして最後に
「エンペラール師、セラスティナ師、
余は先に戻る。そちらはまだ
ここに残るのであろう?」
エンペラールは頷きながら「はい、私はもう少しこちらに居ようかと思います」と答えるが、タチアナはエンペラールの返答に少し怪訝な表情を示しつつ、「私は、少ししたらロムリアに戻る予定です」と答えた。すると
「では両名が戻られたら、
一度王宮に来てもらいたい。
少し相談したいことがあるのでな」
とのメッセージを2人に伝えた。国王からの相談と聞いた途端、エンペラールとタチアナは少し緊張の面持ちをするのだが、直ぐに元に戻りエンペラールが「分かりました。戻り次第ご連絡差し上げます」と答えた。そして
「皆の者、大変世話になった。
では余はロムリアに帰還することにしよう。
レイ・モカミ師、頼むぞ」
と玲に向かって頷きながらそう伝えた。玲は
「では陛下、半年後にお会いしましょう
......『召喚解除!』」
と召喚解除した途端、ロメロ5世の姿はその場から消えた。
「国王様、無事に戻られましたでしょうか?」
と神室霊華は送別会の後片づけをしながらそう呟くが、片づけを手伝っている玲は神室霊華に向かって
「はい、大丈夫ですよ。
以前かすみを使った時のように、
元の場所に戻るだけですから。
ただですね...」
向こうの重力に慣れるかどうかは少し心配な所があることを伝えた。その時、かすみはと言うと、
「ヴェラさん、片づけはうちらがやりますから、
ええですよ」
と伝えるも、
「何時もやっていることなので全然平気ですし、
何かやってないと落ち着かないんですよ」
自分も地球の生活に長く浸かり過ぎたかなと、楽しそうにそう口にしながらヴェレニエラは片づけを手伝った。実はヴェレニエラだが、まだこの別荘に残って片づけを手伝っている所である。なぜ彼女が残っているかと言うと、現在、彼女の娘たちはサマーキャンプ中で暫く留守になるということで、束の間の自分の夏休みではないが、結果としてM Mの別荘に滞在することになったからである。
「本当に滞在しても宜しいんでしょうか?」
とヴェレニエラはM Mの3人からこの別荘に泊まってはどうかと提案された時、遠慮がちにそう尋ねるが、
「1部屋空いてますから、
全然使ってもらってもかまへんですよ」
とかすみが言うように、3部屋のゲストルームのうち、今はエンペラールとタチアナが使っている2部屋を除く1部屋が空いている。そこで、一度玲はヴェレニエラを連れて彼女の自宅に戻り、宿泊の用意を済ませてから、再び別荘に戻って来た。こうしてM Mの別荘は暫くの間賑やかな雰囲気に包まれるのだった。
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ロメロ5世は無事にロムリアに帰還を果たした。ただし、重力の違いがやはり直接体への負荷として跳ね返るようで、しかも自分では如何ともし難いところがある。そのため、王宮の私室に戻るやいきなり膝から崩れ落ちてしまい、今は四つん這いになって何とか耐えている所である。
“これ程までに重力の影響はかくも大きいのか”
と思わずにはいられない。最神玲からも、重力が違うのでその点注意してくださいと念を押されていたが、実は余り大事として考えていなかった。ところがいざ身をもって体験すると、彼の忠告が如何に大事であったかが痛感させられる。それでも何とかソファーに落ち着くことはでき、暫くの間はソファーに横になっていた。そして横になりながらも、やはり心の中では
“しかし、地球とは何とも不思議な
惑星であったな”
と思わずにはいられない。とにかく、街は人が多く騒がしいし、しかも空気が汚い。よくあのような劣悪な環境で人が生活できるものだと感心してしまう。そして、やはり住む環境としてはロムリアが一番だと実感するのだ。だがその一方で、街ゆく人達が活気に満ちていたのは肌で実感していた。ロムリアでは残念ながら国王自ら外に出ることはほぼ無いのだが、それでも側近の話やニュースなどを見聞きする限り、普段は本当に静かな街であるという。勿論、ロムリア市民も騒がない訳ではなく、何かお祝い事とかイベントがあるときは、人々は街に繰り出して大騒ぎするという。それでも地球に比べると大人しい印象をうけてしまう。
“果たしてどちらが良いのか...いや、
そもそも優劣を判定すること自体
間違っているのだろうか...”
と思わずにはいられない。
そして今も忘れられないことは、地球の自然の豊かさであろうか。こうして目を閉じると、その時の光景が瞼の裏に焼き付いたまま離れない。ロメロ5世は娘のヴェラと孫達と一緒に湖水地方に車で出掛けた。そして山々に囲まれた湖と森林地帯が織りなす見事な調和に心が癒され、思わずじっと見入ってしまった。ロムリアも森林地帯や湖は点在するものの、必ずと言っていいほど野獣や猛獣の類がそこにはいる訳で、そのためのんびりと湖に船を浮かべてバカンスを楽しむということは不可能であると聞く。だが地球では、船の上から猛獣の襲来に怯えることなく絶景を楽しむことが出来る。これはロムリアでは決して味わえない贅沢であった。
地球において得難い経験をしてきたロメロ5世だが、彼の本来の目的である娘のヴェレニエラを正式な後継者にすること、これを果たせない限り簡単に帰国することは出来ない。そのため、滞在中はヴェレニエラと何度も衝突を繰り返すことになったのだが、そんな時に何時も孫達が心配そうにやって来ては、両者の仲裁に入ったりする。残念ながら孫達にはサモナルド語が分からないため、何で言い争っているのかを理解できないものの、その場の雰囲気から、深刻な問題が話し合われていることは察知したようだ。そしてそう言う時、ヴェレニエラは母親としての顔を覗かせるのだが、その何気ない佇まいを目にした時、自分の妻であり王妃であった今は亡きパメラの面影と重なった。その時ふと
“もし妻が生きていたら
一体どうなっていたことだろうか?”
と思わずにはいられなかった。もしかして、今この時、隣のソファーで同じように横になりながら、思い出話に花を咲かせていたかもしれない。いや、そもそも地球に行くこと自体、存在しなかったのではないだろうか。そして妻が健在であれば
“あの子たちも、もう少し人の心を
理解できるように育てられたかもしれない”
と後悔することもなく、息子のハーシュフェンがそのまま後継者となっていたかもしれない。だが運命は一体どのように決まるのか、妻は既にこの世になく、一番下の娘は遠い異世界で暮らしている。そして自分の後継者には、その異世界に住む末っ子にしようとしている。自分の人生は、先代、先々代と同様、平穏無事に過ごせるものと思っていたロメロ5世は、一体自分の何がいけなかったのか?何に原因があるのか?と日々悩まずにはいられない。だがそんな悩みも、ヴェレニエラが何とか承諾してくれたお陰で、少しだけだが緩和されたようだ。だがまだ油断はできない。やはり彼らを何とかしないといけないと思いつつ、だが実の子供たちに対して、冷酷になれるだろうかと迷ってしまう。だがその迷いも、もしかしてあれで解決できるのではないかと期待してしまうのだが、その答えは彼女達が帰還してからになるだろう。
さてこのままソファーから立ち上がる気力はなさそうなので、今日はこのままここで横になるとしよう、とロメロ5世は諦めてそのまま眠りに就いたのだった。