召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル14: 消えた容疑者 (第1幕)
物部かすみがアメリカのラスベガスで開催された超常現象に関する国際会議から帰国して数日経ったある平日の午後、かすみは臨時に作られたプレハブの社務所にて最神玲と2人で何時もの業務を行っている。10月も最終週になると、日中の気温も25℃を下回り過ごし易い季節を迎えたからか、参拝客が再び増えだした。そのためかすみは何時もの遠出が出来なくなった。とは言え、遠出が出来ないことに不平があるかと言うと、別にそのような事はない。と言うのも、どうやら先日の国際会議の余韻が彼女の心の奥で反響し続けているからである。特に晩餐会のかすみを始めとしたM Mの女性陣の装いは特に目を引いたようで、かすみも大満足であったし、今もその時の様子を思い出したのか顔がニヤついている。そんな相方の様子を横目に、玲は火除け札やお守りの販売を真面目に続けている。するとある時、彼の鞄の中からスマホの振動音が聞こえて来た。マナーモード中のスマホにどうやら電話があったようだが、いかんせん今は参拝客への対応中のため、電話に出ることは出来ない。仕方なく心の中で すいません、後でちゃんと対応しますね と謝った。
そんな2人も漸く定時を迎えて、早速かすみは夕飯の準備のために先に自宅に戻って行った。玲は臨時の社務所の戸締りをしてから家路に就いたのだが、昼間に着信があったことを思い出し、鞄の中から自分のスマホを取り出した。そして着信履歴を確認すると
「あれ?滝沢ってあの人か?」
と独り言を呟いた。スマホの着信履歴には「大阪府警滝沢」と表示されていたからだ。もし警察関係の依頼となると、かすみを無視すると後が怖いことを玲は身をもって経験しているため、先ずは自宅に戻り、自室で着替えを済ませてからキッチンで夕飯の準備中のかすみに
「かすみ、大阪府警の滝沢さんから、
何か電話があったみたいだよ」
と声を掛けてから、早速滝沢に連絡をすることにした。数回の呼び出し音の後、「滝沢です」とのドスの効いた懐かしい声がスマホのスピーカーから流れて来た。かすみはその声に敏感に反応するも、目はフライパンに向けたままである。そして玲が昼間に出られなかったことに対するお詫びをしてから、どのような要件なのかを早速尋ねた。すると、
[最神さん、ご無沙汰してますな。
突然電話してしもうてすいません。
実はですな――]
と滝沢が語ったのは、世にも奇妙な話であった。
先月、大阪府警捜査一課の滝沢が指揮する捜査員数名が、ある事件の重要参考人に話しを聞くためにその人物が勤める会社に出向いた。会社と言っても都心の高層ビルにオフィスを構えるような大企業ではなく、繁華街の雑居ビルに居を構える社員10名程の小規模な零細企業であり、主に外部から講師を招いての有料セミナーを企画している会社だという。そしての人物だが、その日も午後からセミナーが開かれるということでその準備のために不在であった。現地に赴いた捜査員の1人がその会社の事務所でどこでセミナーが行われるのかを尋ねると、この事務所内ではなく近くのレンタル会議室を利用して行われるというのだ。そこでそのレンタル会議室の場所を聞き出して早速そこに向かった捜査員達だが、問題の会議室内にやってきた時、そこには誰の姿も見られなかった。てっきり、先程の事務所から本人に電話が入り、それで直ぐに逃げ出したものと思われた。ところが
[妙な話なんですが、入口近くの床に
スーツと下着が脱ぎ捨てられていたんですわ]
しかもご丁寧に、衣服は全て丸めて置かれていたのではなく、着ていた姿形のままの状態だったという。少なくとも衣服が現場に残されたままだとなると、まるでその場で全裸になってどこかに向かったようだ、と滝沢は説明した。ただし、こういう変質者は意外といるようで、現場の捜査員達もその手の趣味を持つ奴だと思い、むしろ行為の現行犯で逮捕できると息巻いたという。そこで近隣の建物の捜査に数名を向かわせつつ、残りの捜査員達はビルの管理室に向かい、そこで監視カメラの映像を確認することにした。その結果、確かに問題の人物が会議室に入った様子が廊下に設置された監視カメラに記録されていたのを確認するのだが、その人物が部屋から出たという映像は見つからなかったという。しかも
[その10分程後にうちの捜査員達が
その部屋にやって来たのは
映像として残ってるんですわ]
と言うのだ。部屋に入ったのは確認されるが部屋から出たことは確認されない、この矛盾はどう解釈すれば良いのか?滝沢の悩みはその点に尽きるのだった。
そして玲へのお願いと言うか依頼は、もし自分達が追っていた重要参考人が既にこの世にいないのであれば、その衣服を使って本人の魂を呼び出してもらえないか、と言うことであった。もしそうであれば、この捜査は重要参考人=被疑者死亡か不明のまま片付けるしかないのだが、それでもやはり理由は知りたいようだ。玲としては拒否する理由は全くなく、今は手を休めてこちらのやり取りを好奇な眼差しでじっと見つめているかすみの表情からも、滝沢には喜んで協力すると伝えたのだが、何やら滝沢の口調には奥歯に物が挟まっているのえのように、何やら歯切れの悪いように返事をする。そしてどうやら何か決心がついたのか、滝沢は更に奇妙な事を電話口で話し始めた。
[実はですな最神さん、その会議室の中にも
監視カメラがありましてな、
そこにも確かにその人物は映っているんですわ。
ただ――]
と言い淀むが、どうやら言い難いことを言おうとするのではなく、どういえば良いのか迷っていたようだ。そして
[まぁ、とりあえず、部屋の中の映像と
廊下の映像をそちらに送りますわ。
まずはそれを見て頂けると
私の悩んでいることが分かると思います]
とお茶を濁すような表現でそう伝えた。玲は分かりましたと答えつつ、念のためにその部屋の出入り口や窓の存在を確認するのだが、
[まぁ、その映像見たら分かりますけどな、
出入り口は1カ所のみ、窓はあらしまへんわ]
と言うのだ。玲は、とりあえず直ぐに映像を送ってもらうように伝えて電話を終えた。
ところで、玲と大阪府警の滝沢との間でやり取りがされている時、神室霊華が何時ものようにやって来た。そして「師匠、玲さん、こんば...」と挨拶をするも尻すぼみになってしまったのは、何やら電話で真剣な話し合いがされているのを耳にしたためである。そこで何時ものエプロンに袖を通しつつ料理中のかすみの傍に向かい事情を聞くことにしたのだが、
「ゴメンな霊華さん、挨拶でけんへで。
実はな今、大阪府警の刑事さんから
連絡があってな」
と言うことでかすみから小声で説明を聞いた神室霊華は、「そんなこと、有り得るのでしょうか?」とかすみに対し囁くような声で疑問を呈した。かすみは首を横に振るだけだが、玲が「じゃあ、映像の件お願いします」と言って電話を切ったところで、かすみが早速玲に対し、部屋から人が消えるなんてあるんか、と言うことを尋ねた。むしろ
「うちらみたいな召喚術師やったら、
転移しましたで片付くねんけどなー」
と呟くのだが、それならそれで話は早い。だがもしそれが事実なら、実はそれこそ大問題で、自分達が知らない召喚術師、しかも転移が出来る召喚術師が存在するということは、その人物が果たして敵なのか、それとも味方なのか、今後のM Mの行動にも大きな影響を与えかねない。もっとも残念ながら、今の段階で何があったのかを指摘することは出来ないため、先ずは映像を見てからと言うことで一旦落ち着き、3人は早速かすみと神室霊華が用意した夕飯を頂くことにした。