召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
色々あった年末 (前編)
新年を迎えるまで後数日と迫った師走のある日、美土路神社のリニューアルされた社務所は、新築された日本家屋が持つ白木の心安らぐ香りに包まれながら、何やら賑やかな雰囲気を醸し出している。社務所には何時もの2人、最神玲と物部かすみだけでなく、神薙家の長女であり、今は東京の服飾専門学校に通うと、華蓮の高校時代の親友で、今は大学1年生のが巫女の手伝いのために駆け付けてくれた。美土路神社としては、これから人出が多くなることを予想して巫女の手伝いを募集していたのだが、幸いにも今年は華蓮と陽菜の2名が帰省の合間を利用して手伝いに来てくれたことは非常に心強くて頼もしい。と言うのも、この2人の助っ人は、既に巫女の実務を経験済みであるため、そのまま実践投入しても問題はない程に頼もしい助っ人たちであったからだ。ちなみに、昨年は陽菜が大学受験で手伝いに来られなかったが、その代わりに華蓮の後輩のが助っ人としてやって来た。だが今年は、彼女が大学受験のため巫女の手伝いをすることは出来ないのだった。そして勿論、毎年のように手伝いに来てくれる神室霊華も社務所にて巫女の衣装に着替えて仕事を手伝っている。そんな賑やかで華やかな美土路神社の社務所では、何やらお互いに近況報告がされていた。丁度今の時間は、参拝客も少ないため、誰かに遠慮することなく話に花が咲いていた。
そんな中、朽木陽菜は、今年から玲とかすみが通っていた東洛総合大学に通っているということを話し始めた。それを聞いたかすみは目をぱちりと瞬かせて驚きを示しつつ、それから何やら先輩風を吹かせようとするかに思われるが、むしろ可愛い後輩が出来たことに喜んでいたりした。しかも
「まっ、まじかー......でもあかんかったんやなー」
とかすみは何やらビックリして目を見開くが、直ぐに肩を落として落胆している。実は陽菜は心霊サークルへの入部を希望していたというのだ。ところが、
「なんかね、あの入部試験、
ぜぇーんぜん分かんなくて」
結局落ちてしまったという。これにはかすみもそうだが、耳をダンボにしていた玲もいたまま苦笑いをしてしまう。もっとも、無条件に入部を認めようものなら、今頃心霊サークルは優に百人を超える大所帯となってしまい、恒例の夏合宿が無茶苦茶になる予感しかなかったのだが。
ところで陽菜は、心霊を全く知らないにもかかわらずなぜ入部を希望したのかと言うと、
「神室霊華様にお会いしたくって」
とハニカミながらそう答えた。すると玲の隣で仕事をしている神室霊華が一瞬ビクッと反応するのだが、まさか直ぐ近くにその当人が居るとは陽菜は想像できなかったようだ。木を隠すには森の中とは言うが、あえて自分たちの中に隠すことで以外にも気づかないようだ。とは言え、神室霊華も、この時期の美土路神社の手伝いでは、眼鏡にマスクをし、更に腰まで伸びる黒髪を左右に分けて三つ編みにしているため、ぱっと見その人が神室霊華と分かる人はまずいない。なお、社務所に待機している4人の巫女と玲は、インフルエンザ予防のために、冬のこの時期はマスクをするようにしており、そのお陰で余計に神室霊華は目立たずに済んでいる。そしてそんな会話をしながら和気あいあいとした雰囲気の社務所では、昼休みになったところで、かすみと華蓮と陽菜が集会室にて先にランチをとることにした。
氏子衆が用意したランチを食べながら3人が他愛もない会話で楽しんでいるとき、かすみが「そや、華蓮ちゃんに見せたいものがあんねん」と言って、仕事で使っている手提げカバンの中から自分のスマホを取り出した。そしてある動画をその場で華蓮に見せたのだが、そこに現れた人物を目にした途端、華蓮は両手で口元を押さえたまま「う、うそ...」と呟いて固まってしまった。と言うのは、そこに現れた人物、ファッションブランド・ロムリアの創設者であるタチアナ・エグリスコバが画面に現れたからである。しかもそのタチアナが画面に向かって
「カレンさん、初めまして、
タチアナと言います」
と手を振りながらフランス語で挨拶をしたとき、最初 カレンって誰だ? と思ったのかキョトンした表情を漂わせていた。だが、その後で、以前かすみの所に家出して逃げ込んだ時に描いていたデザイン画が画面に映されると、「まっ、まじかー!」と叫んでしまった。まさか、あの時何となく思いついて描いたデザイン画が、よりによって、敬愛して止まないタチアナの目に止まるとは夢にも思っていなかったのだ。そして画面の中ではタチアナが、真剣な表情でデザイン画のコンセプトに感心したことや、華蓮の独特の感性に対し手放しで称賛すると、華蓮は顔を赤くして俯いてしまった。どうやら穴があったら入りたい心境であったようだ。
その後、今度は真剣なアドバイスが始まると、華蓮は真剣な表情で食い入るように画面を見つめ、タチアナのアドバイスに耳を傾ける。否、正確には、その下に表示される日本語の字幕を見入ったのだ。ちなみに、玲もかすみもフランス語は理解できないが、後からタチアナがサモナルド語で説明をし、それを玲が日本語に翻訳しただけである。だがこの時の動画は、華蓮にとって一生の宝物になったことは言うまでもない。そして10分ほどの動画が終わったとき、華蓮は目に涙を溜めていた。勿論、かすみによるサプライズに感動しただけでなく、あのタチアナからの真剣なアドバイスに感銘を受けたのだった。するとかすみは、
「ごめんな、華蓮ちゃん。勝手にタチアナさんに
華蓮ちゃんのデザイン画を見せてもうて」
と華蓮にまずは謝罪した。勿論、華蓮はそんなことを気にしておらず、むしろこのような機会を与えくれたかすみに感謝した。ちなみにこの動画を撮ろうと言い出したのはタチアナである。と言うのも、M Mの別荘に滞在中、かすみの所でファッションに関する話をしていた時、自分の従妹が最近デザイナーを目指して勉強中であることを伝えた。するとタチアナが、その子のデザインがどんな感じなのかをかすみに尋ねたので、かすみは美土路神社の自宅で以前描いていた華蓮のデザイン画が残っていることを思い出し、それを取りに行ってタチアナに見せたのだ。すると
「へぇー、凄い独特のセンスの持ち主なのね、
この子」
とすごく興味を持ち始めたようで、そのうち「折角だから、動画に撮って彼女に見せたらどう?」とかすみに提案したのが始まりであった。勿論、詳細な背景は語れないため省略しつつ、だがタチアナからの提案で動画を撮ったことをかすみは華蓮に伝えると、感動のあまり遂に泣き出してしまった。すると一緒に動画を見ていた陽菜が驚いて「華蓮、大丈夫?」と華蓮の背中を優しく撫でながら心配し出すのだが、どうやら感動しただけでなく、何やら思い詰めていたところがあるようで、そのために感情が制御できなくなって泣いてしまったことを告白した。そして意を決してと言うか、かすみに今抱えている悩みを伝えたのだった。
神薙華蓮の悩み、それは自分のデザインの方向性に関してである。どうも学内、と言うか教官の間では自分のデザインに関してあまり評判がよくないというのだ。むしろもっと保守的にした方がいいなどのアドバイスを教官から受けたりするのだが、そうなると自分の思い描いたデザインから遠ざかる気がしてしまう。だからといって、無理にでも自分を通そうとすると、それこそ卒業が怪しくなる恐れがあるため、果たしてどう進めればいいのかずっと悩んで迷っているのだという。そんな時
「このタチアナさんからの
アドバイスを見ていたら、
やっぱ、自分の道を進むべきだ
ということに気づかされたんです!!」
と口にするように、タチアナは華蓮が今の方向性をそのまま大事にしたら必ず成功すると確信しており、その上で的確なアドバイスをしていたのだ。そして長い間自分を苦しめていたこの問題がタチアナのアドバイスで見事に解決に導かれたことで、安心したのか、自然と涙が出てきたのだという。その後気持ちが落ち着いたところで3人は授与所に戻り、玲と神室霊華と交代することになった。