召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲とタチアナの召喚術談義3 (+玲の誕生日会)
11月中旬になると神社の境内に植えられている楓は見事に赤く色づき、また美土路山は赤、橙、黄色の錦をまとったように、秋の彩りに包まれていた。町の住人は、この時期になると美土路神社に参拝がてら紅葉狩りを楽しむのである。小春日和の頃になると、弁当を持参して紅葉を愛でながらの昼食を楽しむ年配の方々が来られたりする。そんなで少し賑やかな美土路神社である。尤も、最神玲と物部かすみにとっては、毎日のように落ち葉を片付ける作業が発生するので、見事な紅葉であっても彼らには有難迷惑な存在であった。
そんな賑やかな美土路神社の社務所で作業をしている玲とかすみだが、夕方になって
「玲、今週は私が料理当番なんで、
ちょっと買い出しに行ってくるよ」
と言ってかすみは自宅に戻って着替えてから買い物に出掛けた。本来なら今週は玲が料理当番なのだが、何やらかすみは最近料理に凝り始めたようで、しかも玲が召喚する調理家電を使わず、自分で全て調理することをし出したのである。そこで、今週も少し料理をやりたいから来週の私の当番と代わって、と言われて交代したのだ。玲も別段、交代して問題がある訳ではないので、特に気にすることもなかったのだ。
午後5時になって社務所の戸締りをした玲は、そのまま自宅に向かい、帰宅早々そのまま自室に向かった。実は今、玲は召喚術式の研究に没頭している。いや、今もだろうか、あるいは召喚術の研究をしていない日はないと言うべきか。とにかく、暇さえあれば新しい召喚術を開発するか、既存の術式を改良するかなど、召喚術に関する事を何かしらしないと落ち着かない性格なので、特に驚くことではないのだが。そんな彼が今夢中になって取り組んでいるのが、かすみが以前発見した降霊転移門、そこに使われたいた時限タイマーの解明であった。残念ながら、未だに降霊転移召喚における時限タイマーの設置に関しては全く何の進展も見られないものの、色々と試すうちにちょっとした機能を彼は見出した。それは…
「レイ君、来ちゃったー」
「うわー」
玲の背後で聞こえたその声がタチアナに似ていたので、びっくりした玲はそちらに振り向いた。するとそこには紛れもなくタチアナ本人が玲の部屋に居たのである。もしかしてかすみに内緒で逢引きなのか?と思われるが、残念ながらそうではない。勿論、彼も男であるから逢引きが有ってもおかしくないのだが、彼とタチアナに限ってはそれはないと断言できる。というのは、玲にとって、タチアナ=セラスティナは召喚術に関する偉大なる先人であり尊敬すべき偉人であり、そこには恋愛感情は一切入り込む余地はない。ではなぜ、タチアナは玲の部屋に現れたのか?それは玲がある術式を編み出して、それをタチアナにメールで知らせていたためである。尤も彼としては、今度日本に来た時にでも披露するでいたのだが、タチアナが今の時期は少し余裕があるようで、結果直接来てしまったということだった。
「もう、タチアナさん、
ビックリさせないでくださいよ」
「あら、ゴメンね。
でも、何か逢引きしている感じじゃない?
カスミさん、やきもち焼いたりしてネ!」
などとお道化た雰囲気で玲を揶揄うのである。玲としては堪ったものではないが(特にかすみのやきもちにだが)、折角タチアナが来たのだから、かすみも誘って披露することにした。そこでタチアナを伴ってかすみの部屋に行ったが不在だったので、そのままリビングに向かうと「パーン!」とクラッカーが鳴らされた。そして
「玲、誕生日おめでとう!!」
とかすみが言うや否や、後ろから
「レイ君、誕生日おめでとう」
とタチアナからも声を掛けられた。え、これって、2人で仕組んだのか?
「ピンポーン。当りです。でも景品はありません」
とは相変わらずのかすみのボケである。あっ、そうか、僕の、と言うか、最神玲の誕生日だったっけ。全く自覚無いから、全然忘れてた、と言うことだが、それにしても何と言うか、
「あ、有難うね、かすみとタチアナさん」
と今はこれが精一杯の玲である。それから、かすみは玲をダイニングテーブルに誘って、上座に座らせた(この家に上座があったのかは謎だが)。テーブルの上にはかすみの手料理が並べられていた。最近のかすみの得意料理である肉じゃがを始め、醤油で下味をつけたかすみ特製唐揚げ、旬の秋鮭としめじを使ったバターホイル焼き、それと里芋、大根、人参、椎茸を出汁で炊いた根菜の炊き合わせ。決して見栄えが良い訳ではなく、色々とちぐはぐなところはあって悪戦苦闘するも、かすみが心を込めて作った料理であることは彼女と、彼女の後ろにある台所の様子からよく分かった。そして、
「じゃあ、まずはケーキにロウソク立てるね」
と言って、数字の書かれたロウソクをケーキに立てたのだが、
「おい、かすみ、何で41なんだ?」
「えー、玲の中身のカーンは、
確かこれくらいのおっさんじゃなかった?」
「こらー、かすみ、お前わざとだろう。
僕はサモナルドでは20歳、
こっちの最神玲は23歳なの」
「ちっ、おもんない奴」
と玲はかすみに文句を言っても、悪びれた様子は一切なくどこ吹く風である。しかも、「ちっ」と舌打ちする始末。結局、ロウソクの順番を逆にして14にしたのだが、それもなーと言いそうになるが、何も言わず黙ってロウソクの火を吹き消した。ちなみにタチアナは、玲とかすみのコントに笑い声をあげて眺めていた。
「では、私からプレゼントがあります」
と言ってかすみは自分の部屋に戻っていき、何やら袋を手に持って戻って来た。「玲、開けてみて」と言われて早速袋を開けた玲だが、そこに在ったのは
「おー、これって、かすみの手編みの
マフラーですか?」
かすみが贈ったのは毛糸で編んだ濃いベージュのマフラー。そして、
「ん、何だ。この数字は?」
端に数字の[0]かアルファベットの[O]が織り込まれていた。何かのデザインかマークなのかとかすみに聞くと
「あー、それね、本当は[Rei]って入れようと
思ったんだけど、難しかったんで、
れい=数字の0にした、ということ」
なんだそれダジャレかよ、と突っ込んだが、これはかすみの思惑通りのリアクションであったようで、かすみはご満悦であった。
「まあ、ダジャレでも、有難うねかすみ」
と礼を言った。しかし何かよくできてるな、このマフラーと、感心していると、
「じ、つ、は、編み機で作っちゃいました。てへ」
とかすみは頭の後ろをかきながら照れ笑いするのである。でも、有り難く貰っておくよ、かすみ。
「さーて、次は私の番だねー」
とタチアナが言うや否や、一度転移でどこかに行ったかと思ったらすぐに戻って来た。これは?
「私からはねー、まあ、ロムリアの洋服なんだけど。
それとは別にもう一つね」
と言って洋服の入った箱とは別に何やら小さな箱を玲に手渡した。中を開けてみると、イヤリングか?
「イヤリングに見えるけどね、カフリングという
穴をあけないピアスなのよ。あとねサイズが合えば
指輪にもなるのだけど、でも普通のカフリング
ではなくって、召喚術師同士なら
これを通じて会話が出来るの。
要するに召喚術師用の通信機なのよ。
ちなみに、誰とでも通話できるという訳ではなく、
このカフリングをしている人同士に
限定されるんだけどね」
要するに召喚術師専用のトランシーバーという所か。タチアナの説明では、召喚術師の召喚エネルギーをほんの微量消費するだけで、会話可能だという。ただし、有効範囲は数キロ程度らしいので、使い方には注意が必要な模様。また、自然回復量をはるかに下回る召喚エネルギーを消費するだけなので、ずっと着用しても問題ないそうだ。そして2つあるということは、一つはかすみに渡しておくか。
「え、良いの、貰って?」
「だって、僕の周りにいる召喚術師は
かすみしかいないからね。まさか、
タチアナさんに渡すわけにもねー」
「あらー、レイ君と逢引きするには便利だけどね。
でも、レイ君はカスミさんのことが気になるしねー」
などと冗談とも本気ともとれることを言うのである。流石にかすみも、顔を赤らめて
「い、いえ、別に、そんなこと、
き、気にしないですけどね」
と言いながら、玲を睨みつけるかすみである。とりあえず、一つをかすみに貰ってもらい、もう一つは早速耳につけて見ることにした。かすみも何だかんだと言いながらも、玲と同じように耳に装着した。すると、
「あー、かすみ、聞こえる?」
「はー、アホか玲、こんな間近でやっても
意味無いだろー」
と言うことで、かすみは玲を彼の部屋に押し込んで、自分は自分の部屋に行った。そして、
[おーい、かすみ、聞こえるかい?]
[おー、何か玲の声が聞こえた。そっちはどう?]
[こっちも聞こえた。何か凄いなこれ]
取りあえず二人は無事通話が出来たようなので、各自の部屋から出て来た。そして、
「タチアナさん、こんな凄い物有難うございました。
これってタチアナさんが作ったんですか?」
「ええ、そうよ。少し手間はかかるけど、こういう
アイテム作るのは結構楽しいから、
ちょっとした息抜きには丁度いいのよ。
喜んでもらってこちらも嬉しいわ」
かすみとタチアナからプレゼントをもらってご満悦の玲である。この後は、かすみの手料理を堪能して、今年の玲の誕生日会は無事終了した。
暫し歓談の後、折角タチアナが来ているので、玲は最近開発した召喚術を披露するために、皆で外に出ることを提案した。日が暮れて辺りが暗くなっているものの、やはり境内は人目に付く危険性があるので、
「僕らの家の裏側にちょっとした空き地があるので、
そこにしますね」
と言ってタチアナを家の東側の空き地に案内した。ちなみに、玲が言う空き地は、元々そこで家庭菜園でもすれば、とのかすみの母京子の提案で作られた一角であるが、玲もかすみも土いじりは全く経験がない。そのため、今も空き地のままなのである。
「えっと、では、タチアナさん、
その辺に立っていてもらえますか?」
と言って空き地の真ん中あたりを指示した。そこにタチアナが立つと
「では、始めますね」
と言って、玲はタチアナの周りに小さな降霊召喚門を設定した。そして、
「では、タチアナさん、少し歩き回ってください」
と指示されたので、タチアナはその通りに歩き回るのだが、すると
「えー、何これ、レイ君の召喚門が
勝手について来るんだけど、何で?」
と奇声を発するタチアナである。それを見ているかすみも、「はー?」と一言発しただけである。そう、玲がタチアナに紹介する新しい召喚術とは、目標を追尾する召喚門の事なのであった。
「ねえ、ちょっとレイ君、
これってずっと私について来るの?」
「はい、何なら、走り回っても構いませんよ」
と言われてタチアナは、空き地だけでなく、近くの雑木林の中も走り回るのだが、それでも降霊召喚門はタチアナにピタリとくっ付いて離れない。これにはタチアナも、最後は走り疲れて両手を膝につき、荒い息を吐きながらも、動ける気力が残っていない状態で立ち尽くすしかなくなった。
「レイ君、はぁはぁ、こんなの、はぁはぁ、
見たこと無いけど、はぁはぁ、
一体どうなってるの?」
と息も切れ切れに尋ねるので、玲はタチアナとかすみに、この術式を解説した。
「この召喚術式は、この間の降霊転移門で見つかった
カウンター、覚えてますよね?
あれをヒントに導いたんですよ。
ただ、残念ながら、降霊転移門への
カウンターの再現は全く分からないんですが、
近い物についてはもしかしたらと思って、
アニュラス型で試したんです。
そして何回かの試行で辿り着いたのがこれです」
なお、ペンタグラム型はどうも上手くいかないらしく、今のところはアニュラス型だけと言うことのようだ。更に、
「今は降霊召喚門ですが、
実は創成召喚でも可能なんですよ」
と言って、今度は空き地にかすみを立たせた。そして、
「召喚」
と叫んでかすみの少し後ろに創成召喚門を作り、そこに掃除機らしきものを創成した。そして、
「かすみ、少し歩いてみて」
と言ってかすみを歩かせると、召喚された掃除機もかすみに追随するようにして掃除を始めた。勿論似たような機能は玲のお得意の自立型でも可能ではあるが、こちらは純粋に追随するという点で異なる代物である。
「ねえ、玲、これだったら、他の物、
例えばボディーガードを召喚すると
常に一緒に歩きながら警戒してくれるの?」
「まあ、理屈の上ではそうだね。
ただ、ボディーガードは対象が襲われたときに
自分が身代わりになって庇うけど、
この自動追尾型で召喚したボディーガードには
そんな機能はないから、この自動追尾型
だけだとはっきり言って役立たずだね。
でもまだ試してないけど、自立型を併用すれば
あるいはボディーガードになるかもしれない」
まあ、もしかしたら召喚の仕方次第で、と言うことである。
次に、玲はもう一つ面白い物を見せるよ、と皆に伝えた。そこで、まず通常のアニュラス型召喚門を地面に設置した。次に、召喚タイプを書き込む...かと思ったら、突然召喚門の真上で右腕を前に出して親指と人差し指を召喚門をつまむ動作をした。そして親指と人差し指を離すと、
「おー、すご。召喚門が大きくなってる。
これって、玲、あれじゃないの?」
そう、かすみが言う「あれ」とは、スマホでお馴染のピンチアウト操作。それを玲は召喚門に取り入れたのであった。逆に召喚門をつまむような操作をするとスマホのピンチインと同じく召喚門は小さくなった。
「かすみ、元々召喚門は大きさが自由なんだよ。
ただ、僕らが何時も何気なく色々なサイズの物を
召喚する時、なぜか丁度いい大きさになるだろ?
あれって、そう言う、何ていうのか、
制限が働くようになっているからなんだよ。
つまり...」
その制限かリミッターかを外せばサイズ場自由になる。だが、大きなサイズの召喚門を作ろうとすると、それこそ気球に乗って上空から召喚門を作らないとならない。それは面倒なので、ちょっとした細工をすることで、スマホみたいな感じにできたのだという。それと、この機能はペンタグラム型とバレル型にも適用できることを付け加えた。
「ちなみに、タチアナさんはご存じでしたよね?」
「勿論、サイズの自動調整機能は、
元々エンペラール先生が考案したものなのよ。
それ以前は、レイ君の言う様にサイズは任意だけど、
使いずらかったのは事実ね。
でも、レイ君、スマホのピンチイン、
ピンチアウトを取り入れるなんて...」
と何やら思い悩んでいるのか、言い淀むタチアナであった。
「レイ君、あなた、・・・
恐らくエンペラール先生を越える存在になるよ、
きっと。いや、絶対ね!」
と断言するタチアナであるが、玲はそんな恐れ多いことと恐縮してしまう。しかし、このタチアナの言葉に嘘偽りは全くなく、彼女は真剣にエンペラールではなく玲ことカーンフェルトに師事しようかと考えていた。だが、彼女にはそれ以上に、生まれ故郷に帰りたいという郷愁の念が勝っていたのではあったが。
さて、玲から細かい術式を伝授されたタチアナは大いに満足したが、やはり気になるのはあの降霊転移門のことであった。
「そうなんですよ、タチアナさん。
あの降霊転移門って、前も話しましたけど、
変な術式と言うか間違った術式は
一切受け付けないんですよね。
そのため、どこにどう記述すれば
あれを再現できるのかは、
それこそ天文学的というか、
それくらいの確率を引き当てないと
駄目みたいなんですよ。
まあ、僕はまだまだ時間はありそうなんで、
地道に解決に向けてやって行きますが」
と言いながら、玲は伏し目がちになった。それ位、この問題への対応は難しいということを物語っている。
「レイ君、あまり無理しないでね。
それとね、あなたには、
カスミさんと言う素敵なパートナーがいるでしょ?
彼女に色々と相談してみるのは、必要なことよ」
と玲にアドバイスするのである。それを聞いたかすみは、顔を赤くしながら、「タチアナさん、ありがとうございます」と礼を述べたのであった。
今回の玲とタチアナの召喚術談義は、玲の誕生日会のついでということで短時間で終わったが、何時もと同じくらいに内容の濃い物であったので、タチアナも満足して帰って行った。