召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿3: 事故物件編 (中編)
さて、大阪に出発する土曜日を迎えた。物部かすみは何やら朝からウキウキしている。やはり地元というか、彼女の実家から一番近い大都市が大阪なので、その点では馴染み深い所となる訳で、やはり浮足立つのは仕方ない所か。なお、大阪に着いたらまずは相田桃に連絡を入れて、彼女の勤め先にて手続きをする必要がある。そこで必要事項を確認してサインをしてから、相田桃と担当営業が問題の物件にかすみを案内することになった。そして、1週間滞在する際にその証拠として、必ずビデオを回し続ける必要があるとの注意を受けていた。かすみも、まあこれは仕方ないな、と妥協して、ビデオ撮影を了承した。なお、ビデオカメラは不動産屋から借りることにした。
かすみが向かう相田桃の勤める支店は、大阪キタの繁華街梅田のど真ん中にある。そこで、かすみは転移先を市内にある寺の墓地に設定した。なぜ墓地なのかと言うと、仮に防犯カメラで映像が撮られていたとしても、あたかも幽霊が現れてどこかに去って行った、と見られるだけで、人に見られないことのメリットの方が大きいと判断したからである。そして無事転移できたので、そこからは愛用のかすみチャリを召喚して相田桃の勤める梅田のとあるビルに向かった。時刻は午後2時であった。
「すいません、今日こちらの相田桃さんと
約束があるのですが、
相田桃さんはおられますでしょうか?
と受付で対応をお願いするかすみである。すると、かすみの声を聴いて早速、相田桃が出てきて
「あー、かすみ、待ってたよ。
とりあえず、こっちに来て」
と言って通されたのが、オフィスの一角にある応接室。と言うかオープンになった応接テーブルという所か。そこでかすみは暫しの間待っていると、相田桃が一人の男性を連れて戻って来た。
「どうも、私営業2課の谷山と申します」
と言って名刺を手渡された。どうやら相田桃の先輩社員のようだ。その後、谷山と相田桃から物件の情報を聞いて、後は注意事項を読んだ上でかすみはサインをした。そしてビデオカメラを受け取り、これで事故物件1週間宿泊チャレンジがスタートとなった。ちなみに、このネーミングは、かすみが勝手に名付けたものである。
さて、問題の物件だが、中央区にある10階建ての総戸数が80戸と言う比較的中規模なマンションであり、その8階の802号室が問題の部屋だという。そこで早速相田桃が運転する車で現地に向かうのだが、車中で
「ねえ、かすみ、荷物ってそんだけなの?」
と相田桃から疑問が呈された。これはかすみも想定していたので、
「モモ、そんな訳ないよ。ちゃんと持ってきたけど
重すぎるので、駅のコインロッカーに
保管してあるんだ。
まあ、後で戻って取りに行けばいいんで、
気にしないで」
と伝えたのだ。相田桃もそんなに深く考えて話したわけではないので、「そうなんだ、良かった」で済んだのだった。なお、実際は何も用意しておらず、泊まる場所が決まった時点で一旦自宅に転移して、必要な物を転移で持ってくる算段にしていたのだ。そして、車で御堂筋を南下すること10分ちょっとで目的のマンションに到着した。このマンションはオートロック式でエントランスは部屋の鍵を使用するタイプである。これはかすみが以前住んでいた市の女性専用マンションの時と同じなので、扱いについては全く問題ない。そしてエレベーターで8階に行き、エレベーターから出て左に折れて2つ目の扉が802号室であった。
「どう、かすみ、何か感じる?」
「うん、居るね、確かに。とりあえず開けてみて」
と言われて相田桃は玄関の鍵を開けた。そして、相田桃、谷山、かすみの順番で中に入った。
相田桃と谷山は、この部屋がどういう所かを熟知しているためか、入って早々、かなり緊張している様子がかすみには手に取るように分かった。
「へー、なるほど。浴室に1体、居間で2体か。
こちらが恐らく無理心中でなくった人達かな」
と呟くかすみである。そして、相田桃と谷山に、霊視グラスを渡して、
「モモはこれ分かるよね。この眼鏡もどきは
霊体を可視化できるんですよ。
それを掛けてもらって、居間を見てください」
と言われたので、相田桃と谷山は言われたように霊視グラスをかけて居間を見た。すると
「え、え、えー、あ、あれっててて、
な、な、なんなの、で、ですか?」
そこには男女の成人の霊体が佇んでいるのである。序に
「あっ、ちなみに、風呂場には子供の霊体がいるので、
良かったら確認してください」
と普通に物件を案内している不動産屋を演じるかすみである。まあ、彼女の実家も不動産業なので、心得たものなのだが。ところで、相田桃と谷山は、目の前の霊体を見てから流石に風呂場に確認しに行くことはなく、二人揃って「も、もう、結構です」と言うのであった。そしてかすみは、
「では、除霊しておきますけど、除霊の代金は
10万円になりますが、宜しいでしょうか?」
と相田桃と谷山に確認した。谷山は相田桃から除霊がある場合は有償ですよ、と伝えられていたので、それでお願いしますとなった。そこでかすみは、降霊召喚門を設置して霊体を霊界にお見送りした。序に風呂場にいた子供の霊体も同じように霊界にお見送りしたのであった。これでこの家に住む霊体は除霊完了となったのであるが、不動産屋からするとこれからが本番になる。そこでかすみは
「まあ、これで除霊できたので
モモでもここに住めると思うけど、
一応契約なので、私が1週間ここに住みますね」
と軽い口調で話し出した。相田桃も谷山も、まだ心の動揺が収まらず、唖然としながらただ頷くだけであったが、目の前から霊体が消えるのを確認した以上、かすみの言う様に問題はなくなったのだろうと、少しだけ安心した。
「じゃあ、かすみ、鍵を渡しておくので後は宜しくね」
と言って、相田桃と谷山は、除霊されて問題なくなった部屋なのだが、それでもなぜか直ぐにでも外に出たい一心で急ぎ部屋から出て行った。
さて一人残されたかすみであるが、一応他の部屋も点検することにした。そして一通りチェックして問題ないことを確認してから、必要な荷物を取りに一旦自宅に転移して行った。そして、玲の部屋に行って報告するのだが、
「かすみ、どうだった?何か問題とかなかった」
「特に問題なかったよ。一応無理心中した
3体の霊体が佇んでいたけど、
霊界に送っておいたのでそれは片付いたんだけど…」
と何やら気になることがあるのか、途中で言い淀むかすみである。
「ん?何か気になることがあるのかい?」
「うーん、何と言うか、私がお見送りした
3体の霊体だけど、彼らが住人に対し何か影響を
与えることが想像できないんだよね。
それ位大人しいというか、今まで見て来た
荒ぶる霊体とは確実に違うんだけど。
玲、どうなんだろう?」
どうやら、かすみがお見送りした霊体が問題の根源ではないのではと言うのがかすみの見解であった。そして彼女の直感は、気のせいとかでは済まないことは、玲も経験から分かっている。なので、
「それは気のせいとかではなく、
やはり大本の何かがまだ
解決されてないのではと思うけどね。
だけど、それが何なのかは今の段階では
全く分からないというところかな。
だけど、用心に越したことはないからね。」
と言ってかすみにアドバイスした。それを聞いたかすみは、玲と不安を共有できたことで安心したのか、「分かった」と言って部屋に戻り、荷物と一緒に転移して行った。
事故物件部屋に戻ったかすみは、まず寝るためのベッドを召喚しようとしたが、そう言えばカメラで寝ている所も撮影しろと言われていたことを思い出した。そうなるとベッドを持ち込んだことをどう説明すれば良いのかと考えてしまい、結局はアウトドアで使われるコットを出すことにした。これと寝袋があれば、取りあえず寝るのは問題ない。ちなみに、電気は通っているので、エアコンは使えるし、スマホの充電は大丈夫。と言うことで、まだ日も高いので、一旦外に出てこの近辺の様子をチェックすることにした。
特に近所に墓とか廃墟と言った心霊スポットになりそうな場所は見当たらないので、地縛霊絡みと言うことでもなさそうだとみた。それからかすみは、かすみチャリを召喚して少し足を延ばしてみたが、所々で霊体を見かけるものの、特に悪さする訳ではなさそうなので、そのままスルーした。そして折角なので、チャリでミナミに向かった。相変わらず人が多いものの何となく懐かしさを感じてしまうかすみであった。夕飯の時間より少し早い時間だが、何やらお腹が空いたので、大阪と言えばあれ、と言うことでお好み焼き屋に入って至福の時を過ごした。それから少し商店街を歩くのだが、行く先行く先で必ず声を掛けられてしまう。要するにナンパである。高校生の時も友達と大阪に遊びに来た時は、頻繁にナンパされてうんざりした経験があるかすみだが、今こうして同じようにナンパされると、何やら昔をふと思い出してしまう。だが、決してナンパされることはないのだが。ちなみに、今のかすみに下手にナンパしてどこかに連れ込もうとしても、召喚術で如何様にも対応されるため(下手すると転移で飛ばされるだろう)、近寄らない方が無難なことだけは付け加えておく。そんな感じで久し振りの大阪ミナミを満喫したかすみは、再びチャリを召喚して事故物件の部屋に戻って行った。
「さて、カメラはこんな感じでセッティングして、
メモリーカードはこれを差し込んでと…」
と一人呟きながら作業を進めるかすみである。これから就寝だが、その前にカメラをセッティングすることを忘れていたので寝る前に急ぎセッティングし、そのまま寝ることにした。おっとその前に「召喚!」と何やら召喚してから眠りについた。かすみが寝付いてからおよそ3時間後に上の階の住人だろうか、「カサ、カサ」とスリッパをはいて歩きまわる足音や「ダダダダ」と駆け出す足音が天井から響いてきた。
「ん?何だ、何か天井から音がしたけど…」
と寝ぼけながら天井を見上げるかすみである。そう言えば、この部屋の天井意外と高いよな、と何気なく思ったが、天井が高い=床が薄いということを、思い出していた。それはかすみの東洛総合大学への入学が決まって後は一人暮らしをするための部屋を探していた時に、不動産関係の会社を経営する父親から「天井が高い物件は圧迫感がなく開放感があって人気なんだが、賃貸の場合はその分床が薄くなっていることがあるから、選ぶときには注意した方が良いぞ」とアドバイスされたことを思い出した。そうだ、ここも賃貸だからその可能性が高いのかな、と思うに至り納得したのだが。そうすると、自分の歩く音とか生活音が階下に響いている可能性もあるので、歩く時とかは注意しようと思ったのだった。さて、もう一眠りするかと思った時、かすみの視界の端に何かが蠢くのを捉えた。「え?」と思ったのも束の間、その何かがかすみに向かって来たのである。
「うわー」
と叫びながら目を閉じたが、その後は何も起こらず。少しずつ目を開けてそちらを見ると、それは明らかに霊体、いや怨霊と言うべきか、何やら禍々しい雰囲気を出した物体が、かすみに襲い掛かろうにも先に進めない状況にあるのだ。
「あー、あれを設置しておいて良かったー」
と安堵の表情になるかすみである。ちなみに、あれとは、降霊召喚門である。かすみは寝る前に自分の周りにアニュラス型の降霊召喚門を設置しておいたのだ。これだと外部からの霊体によるかすみへの接近を阻止できるので、見知らぬ場所に行くときは必ずこれを設置しておいた方が良いよと玲にアドバイスされたのだった。
「くそー、こいつがこの部屋の問題の大本なのか?」
と悪態をつきながら、「召喚」と叫んでこの怨霊を霊界に送った。その後かすみは眠れなくなったので、寝袋から起き出して、今の状況を玲にLINEで報告し、その後スマホの動画を見たりしてその夜を明かした。