召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿4: 神薙家の幽霊画鑑定(前編)
4月の終わりから世間は大型連休に突入する。最神玲と物部かすみも各々が連休中は休みとなるので、好きな時間を過ごすことになる。こういう時はどこかに旅行でもと思うのだが、玲とかすみに関しては、行きたいときに何時でも行って直ぐに帰ることが出来るので、別に連休中に行く必要性を感じてはいない。それよりも、玲にとっては大好きな召喚術の研究に没頭できるので、みすみす無駄なことに時間を使いたくないと思っている。一方のかすみだが、こちらはと言うと少し様子が異なった。実はかすみは、今なぜか町の家に来ている。特に必ずこの時期には神薙家に挨拶に出向かないといけないとか、そんな仕来りはない。むしろかすみの場合は、現神薙家当主であり、かすみの母物部京子の弟であり、かすみの叔父である神薙からの呼び出しを受けたからである。ちなみに、かすみが何か呼び出されるような失態をしたのかと言うとそれはなく、むしろ相談を持ち掛けられたから、と言うことであった。そして神薙家の応接室に通されたかすみは、叔父の宗座衛門からある相談をされたのだった。その内容とは。
神薙家には江戸時代以降の骨董品、絵画、掛け軸、手紙、甲冑、刀などの美術工芸品や文化的な価値を持つ資料など様々なお宝が敷地内に建つ蔵の中に収められている。そして、数あるお宝の中で少し異質なコレクションも収蔵されている。それは幽霊画。そう、文字通り幽霊を描いた掛け軸のことである。そして幽霊画のコレクションの中には、足のない幽霊を描いたことで有名な丸山応挙の作品もあるというのだ。勿論真贋のほどは分からないままらしい。ちなみに、この幽霊画は、現当主から4代程遡った当主が集めたものらしい。さて、かすみだが、丸山応挙の作品の真贋を鑑定する訳ではなく(と言うか、かすみからすると「誰その人?」なのだが)、実はある幽霊画だけは昔から曰く付きだということを宗座衛門は聞かされていた。そこで、その幽霊画がどれなのかを判別してほしい、と言うのがかすみへの依頼であった。
「姉さんから聞いてるけど、かすみと最神さん、
2人共かなりの霊能力者ということらしいね。
それで、どうだろう、どれが問題ありそうか
判別してもらえないかな?」
それ位ならお安い御用だ、と言うことで
「全然問題ないよ、叔父さん。ただね...」
場合によっては費用が掛かるんだけど、まあ、叔父さんの頼みなのでそこはまけとくね、などと何やら恩を売ろうとするかすみである。尤も、M Mの仕事内容に、霊の鑑定と言うか霊を見るだけと言う項目は入ってない。なので、本来なら費用は発生しないのだが、ここはかすみのかさというべきか。叔父の宗座衛門としては、別段費用を出すことには何も問題ないので、かすみには遠慮せず請求すればいいよ、と言うのだが。そうなると、かすみもお金にするか、恩にするかで、迷うのだ。やはり後々玲からではなく、母の京子から何を言われるか分からないので、ここは恩を売ることにした。
「有難う、叔父さん。まあ霊を見るだけな
らタダなんだけど、除霊とかになるとね、
色々厄介だからその時にはお願いしますね」
と言うことで、一応交渉成立となった。ちなみに、丸山応挙の作品が本物かどうかについては、もし本人が霊界に留まっていて、降霊術で召喚して本人だと分かれば、その作品は本物だとわかるよとに付け足したのだが、宗座衛門はこれには驚きの反応を示したのだ。
「かすみは真贋鑑定も出来るのか?」
うーん、絵画とか彫刻とかを見ても本物とかは分からないけど、それを作った人物を霊界から召喚は出来るんで、もし本人が召喚されればそれは本物と言うことになるんだよ、ということをかすみは説明した。その後黙り込んで何やら考え事をし出す宗座衛門だったが、今回の目的はそれではないことを思い出し、かすみを伴って屋敷の奥に向かった。
かすみが神薙家に遊びに来るときは、大抵玄関口に近い部屋に案内される。そこは主に来客の宿泊で使用される部屋であるが、当主以下家族の者達は当然奥にある部屋で過ごしている。今かすみが案内された部屋は、恐らくこの屋敷の一番奥に位置するであろう座敷である。広さは12畳程で、床の間はあるが特に掛け軸とか花器の類はなく、要するに普段は全く使われていない座敷であった。そんな座敷の畳の上に、妙な色気と妖しさを感じる女性の幽霊画や、やせ細って殆ど骨と皮だけの老婆の幽霊画など、全部で5の掛け軸が広げられていた。そしてその中の1幅、子供と母親らしき姿が描かれた幽霊画、その幽霊画の雰囲気とは似ても似つかない禍々しい物をかすみはそこに見た。見たところ男の霊体のようだが、何やら憎悪というか怨念の籠った視線をかすみに送り続けている。
「叔父さん、この掛け軸だね。
でも、よく叔父さん、この掛け軸を持てたね。
私なら、躊躇していたよ」
と本気とも冗談とも取れるような雰囲気で話し出すかすみである。その言葉を聞いた宗座衛門、一瞬動きが止まってしまった。本当は、曰くつきなどなく、ご先祖様が何か勘違いしたのだろうと軽く受け流していたのだが、かすみの言葉を耳にした途端、気が動転してしまったのだった。多分、叔父さんの持つ霊力がはるかに強いんだろうね、とかすみは一応フォローすることは忘れない。だが宗座衛門は、かすみからこれだね、と指さされた掛け軸を見た途端、「そうか」と呟いたのだ。「ん、叔父さんも分かってたの?」、と問い返すかすみ。すると、
「何となくだがね。そうか。これなんだね。
実はね、この掛け軸だけは誰が買ったのか、
あるいは誰が持ち込んだのかが分からないんだ」
何じゃその怪しげな来歴は、と感じたかすみだが、それよりもかすみはカバンの中から霊視グラスを取り出して宗座衛門に渡した。「一応、この眼鏡で霊体が見えるんで、確認してみます?」と言われて、何やら怪しい眼鏡だと思いながら、そう言えば姉さんもかすみから変てこな眼鏡をかけさせられて、それで幽霊を見たとかいっていたな、と言うことを思い出し、早速霊視グラスを掛けて問題の掛け軸を見た。すると、
「えー、かすみ、何なんだあれは!!」
と絶叫してしまった。「何か凄―くやばそうよね、叔父さん」とさり気ない口調で問いかけるかすみ。ところで、宗座衛門としては気になることがあり、
「かすみ、このままにしておいても大丈夫なのか?」
であった。それに対しかすみは、この霊体は何かしらこの幽霊画と因縁めいたことがあるためにここに縛られている印象を受けること、もし仮に彷徨い出るのであればの昔に彷徨い出てただろう、と言うことを宗座衛門に語った。それによって、確かにかすみの言う通りだと納得した宗座衛門は、とりあえずそのままにしておくことにした。だがかすみも、降霊術師としての実績を積んでいるため、やはり気になってしまい、「召喚」と降霊召喚門を設置した。そして、その霊体との会話を試みたのだ。
「あなたの名前を教えてください」
「・・・わ、か、ら、な、い」
「えー、幽霊が喋った!かすみ、幽霊が喋ったぞ」と何やら落ち着きなく興奮し出す宗座衛門に対し、かすみは一旦無視して、霊体との会話を続けることにした。
「なぜこの絵に憑りついているのですか?」
「・・・し、じ、さ、れ、た」
ん、指示された、と言うことは誰かが召喚してここに縛り付けたということか?そこで、
「誰に指示されたのですか?」
「・・・き、の」
きの?苗字だと「木野」とかかな、などと考え出すかすみである。そして肝心のことを聞くのを忘れていたことに気づいたので、
「あなたは、何をするつもりですか?」
「・・・の、ろ、う、の、ろ、う」
「誰を呪うのですか?」
「・・・た、い、ぞ、う」
「え…太蔵!」と突然大声で叫び出した宗座衛門であった。その声にびっくりしたかすみは、思わず召喚を解除してしまった。尤もこれ以上は聞いても分かることはなさそうなのだが。それよりも、叔父の反応が気になったかすみは、まずは状況を整理するが如く落ち着いて宗座衛門に語りかけた。
「叔父さん大丈夫?
まあ、確かに最初はビックリするけどね。
それよりも、この幽霊だけど、
「きの」という人に指示されて
ここに縛り付けられてるのは分かったわ。
そして目的はと言うと、
「たいぞう」と言う人を呪うことらしいのよね。
叔父さん、もしかして心当たりあるの?」
宗座衛門は漸く落ち着きを取り戻してから、
「あ、あー、かすみ。うん、そう、太蔵は
これらの幽霊画を収集していた私ののことだよ。
まさか曾祖父に恨みを持つ存在だったとはね。
いやー、まだ心臓がバクバク言っているよ」
と額から汗を流しながらかすみに説明した。そうすると、後はこれを贈って来た「きの」と言う人が誰なのかだなと言うことで、宗座衛門は掛け軸の傍に置かれていた箱を手にして戻って来た。箱の中には何も入っていないが、蓋の裏側には何やら文字が書かれていた。尤もかすみは昔の書体を読むことが出来ないのだが、残念ながら宗座衛門も解読できないという。そこでかすみは、この箱に対する降霊召喚を行うことを提案した。ちなみに、もし降霊召喚を行った場合、箱の持ち主なのか、箱書きをした人物なのか、箱を作った人物なのか、その区別は残念ながらできないが、一つだけ分かっていることは、この箱に収められていた絵の作者や関係者は召喚されないことである。なぜかと言うと、先ほどの霊体に対して降霊召喚門を設置したとき、本来この幽霊画の作者なり所縁の人物が霊界に留まっているなら必ず召喚されたからである。だが実際は、何も召喚されなかった。
さて、かすみは早速その箱に対して降霊召喚を行った。すると、
「うーん、出てきたけど、果たして誰なんだろう?」
と確かに男性の霊体が1体召喚された。それを霊視グラス越しに見ていた宗座衛門は、曾祖父ではないな、と呟いた。この頃になると宗座衛門も慣れてきたのか、落ち着いた表情で霊体を見ていた。
「あなたは、誰ですか?」
「・・・」
かすみはその後幾つか尋ねたが、何も答えることはなかったので、そのまま召喚を解除した。稀に霊体が持つ記憶が薄れてしまい、自分が何者だったのかを思い出すことが出来ないケースはあったので、今回も多分そうだと考えたかすみである。一応、今回の目的はこれで終えられたと思ったのだが、それよりもどうしてもかすみには確認したいことがあった。
「叔父さん、多分目的は果たせたと思うんだけど、
それよりも、なぜ、こんなことをし出したの?」
そう、かすみへの依頼であれば、それこそ何時でもよかったはずである。それこそ、かすみが母の京子と共に差間見町の指子家での除霊の後であれば、タイミング的には十分ありだと考えたのだ。ところがあれから半年近く経つ今のタイミングがどうにも解せなかったのだ。すると、宗座衛門は事の真相をかすみに語りだした。
1週間ほど前に宗座衛門宛に1通の電子メールが送られてきた。送り主はとなっていた。実はかすみも宗座衛門もその名前を知らなかったのだが、霊能力者界隈では有名な霊能力者であった。念のためかすみは自分のスマホでその名前を検索したところ、顔写真とプロフィールが書かれたブログを見つけた。写真から判断すると、30歳前後か、背中まで伸びた長い黒髪に眉毛の上で真横に一直線に切り揃えた前髪、アイシャドーで目元を妖しく強調している、いかにも霊能者っぽい印象を受けたのだ。ところで、なぜ宗座衛門はこの女性からのメールに目を通したのかと言うと、たまたま差出人の最初の文字が「神」で始まっていたので、てっきり親戚か誰かが送って来たのだろうと思って開けたのだという。残念ながら見間違いであったのだが、その内容を読んだ時、何やら自分でも思うところがあったようで、早速先方に返信した。そして先方の申し出だが、神室霊華はある掛け軸を探しており、しかもその掛け軸は所謂幽霊画であった。なぜそのような物を探しているのかを尋ねたが、残念ながら答えられないとのこと。ただし、もし所有されているのであれば、そちらの言い値で買い取らせてもらいたいとの申し出があった。宗座衛門としてはそこまで言うのであれば、一度拙宅に見に来られてはと誘い、その結果明後日の午後2時にお邪魔したいということで、了解をしたというのだ。そして宗座衛門としては、まず問題の幽霊画がどれなのかを予め知っておきたいということで、かすみに声をかけた次第であった。そこでかすみは、
「で、叔父さん、幾らで譲る気なの?」
とニコニコしながら宗座衛門に尋ねた。それに対する宗座衛門の考えは明確であり、もし探している掛け軸が先程の霊体が出てきた物であれば、金は要求せずそのまま譲るという。ただし、出来れば理由だけは聞かせて欲しいとお願いするのだが。それ以外の掛け軸であれば、後日きちんと鑑定してもらい、その値段で譲ると決めていた。これに対してかすみは、「それが一番良いね。さすが叔父さんね」と笑って答えた。とりあえずこの日はそれでお開きとなり、かすみは幽霊画を箱に仕舞う手伝いをした。流石に問題の幽霊画をもはや触れたくなさそうな宗座衛門であったので、それだけはかすみが仕舞うことにしたのだ。それからかすみは神室霊華と宗座衛門の対面の時、別室から見ていたいけど良いかとお願いしたところ、宗座衛門の方でもかすみが傍に居る方が心強く安心できるから是非そうしてくれと許可が出たことで満足し、そのまま神薙家を後にして自宅に戻って行った。