悪役令嬢は世界のバグを修正する
証言が終わると、舞踏ホールの空気は完全に傾いていた。
視線はゆっくりと、王太子の背後へ向けられる。
そこに立つ少女。
リリア・フェイン。
彼女はずっと俯いていた。
細い指を胸の前で握りしめ、肩を小さく震わせている。
長い睫毛の下。
その瞳には、涙が浮かんでいた。
ぽたり、と。
一粒の涙が頬を伝う。
それを見た瞬間。
周囲の貴族たちの表情が変わる。
「……可哀想に」
誰かが小さく呟いた。
令嬢たちが扇子の陰で顔を寄せ合う。
「平民なのに……」
「きっとずっと耐えていたのよ」
「怖かったでしょうね……」
同情の声が広がる。
リリアは何も言わない。
ただ静かに涙を拭い、顔を上げようとして――
すぐにまた俯いた。
まるで人々の視線に耐えきれないかのように。
その弱々しい姿が、さらに人々の心を動かす。
アルフォンスはそんな彼女を見て、すっと前へ出た。
そして自然に、彼女を庇う位置に立つ。
王太子が守る少女。
そしてその涙。
それだけで、十分だった。
人々の心の天秤は、完全に傾いている。
被害者。
リリア・フェイン。
加害者。
レティシア・アルヴェルン。
舞踏ホールの空気は、すでにその物語を信じていた。