悪役令嬢は世界のバグを修正する
空に浮かんだルーンは、
次の瞬間、
何事もなかったように消えた。
青空だけが残る。
白い雲がゆっくり流れている。
いつもの空。
さっきまで見えていた線も、
文字も、
構造も、
どこにもない。
レティシアはしばらく動かなかった。
目を細めたまま、
空を見続ける。
(……今の)
見間違いじゃない。
そう思った瞬間だった。
遠くの空の端で、
何かが光った。
小さな点。
昼なのに、
星みたいに光った。
レティシアの視線が止まる。
(……?)
もう一度、
光る。
今度ははっきり見えた。
空の高い位置。
青の奥。
普通なら見えないはずの場所に、
小さな星のような光。
昼なのに、
瞬いている。
次の瞬間。
その光が揺れた。
チカッ。
ノイズみたいに点滅する。
一瞬、
形が崩れる。
四角い粒みたいに分かれて、
また戻る。
まるで、
画面の乱れみたいに。
レティシアの呼吸が止まる。
(……なに)
空が、
ほんの少しだけ歪む。
波打つ。
輪郭がズレる。
雲の形が一瞬だけ崩れる。
すぐ戻る。
誰も気づかない。
歓声は続いている。
学生は笑っている。
教師は話している。
騎士団は評価を続けている。
研究所は記録を見ている。
誰も空を見ていない。
誰も、
揺れに気づかない。
レティシアだけが見ている。
遠くの空。
星みたいな点。
ノイズ。
歪み。
ピクセルみたいな揺れ。
胸の奥が冷える。
その瞬間。
視界の奥に、
赤い文字が浮かんだ。
SYSTEM
一行表示。
WORLD STRUCTURE UNSTABLE
レティシアの瞳が揺れる。
意味が分かる。
分かってしまう。
世界構造。
不安定。
次の瞬間、
文字がノイズに崩れる。
ピッ――
表示が消える。
空も元に戻る。
星も消える。
歪みもない。
ただの青空。
何もなかったみたいに。
レティシアだけが動けない。
ゆっくり息を吸う。
手が少し震えている。
(……世界が)
小さく思う。
(壊れてる)