悪役令嬢は世界のバグを修正する
王宮・小会議室。
厚い扉に囲まれた静かな部屋。
壁には王国の紋章。
長い机の周りに、
数人の男たちが座っていた。
貴族。
官僚。
王宮魔法研究所の術士。
そして、
騎士団の代表。
机の中央には、
水晶板が置かれている。
そこに映っているのは、
大会決勝の記録映像だった。
巨大結界が発生した瞬間で止まっている。
誰もすぐには話さない。
やがて、
年配の貴族が口を開いた。
「……確認する」
ゆっくり言う。
「これをやったのは」
資料をめくる。
「レティシア・アルヴェルン」
研究所の男が頷く。
「間違いありません」
別の官僚が言う。
「公爵家の長女だな」
騎士団の男が腕を組む。
「学園大会で満点」
「構造干渉を確認」
「未知術式」
短くまとめる。
部屋が静まる。
最初に口を開いたのは、
軍務寄りの貴族だった。
「問題ない」
全員が見る。
男は言い切る。
「国家戦力になる」
机を軽く叩く。
「これほどの魔導士は必要だ」
騎士団の代表も頷く。
「同意する」
「前線に出せば一騎当千だ」
研究所の男がすぐ反論する。
「待ってください」
資料を指す。
「術式ログが存在しない」
「発動過程不明」
「干渉範囲不明」
声が低くなる。
「制御不能です」
空気が変わる。
別の貴族が言う。
「ならなおさらだ」
全員が見る。
政治派の男だった。
「王家に入れるべきだ」
静かに続ける。
「婚約でも養子でもいい」
「管理できる位置に置く」
官僚が頷く。
「放置する方が危険です」
だが、
向かいに座っていた古参の貴族が首を振る。
「軽く考えすぎだ」
低い声。
「魔法を壊す人間だぞ」
一拍。
「次は何を壊す?」
誰も答えない。
沈黙。
研究所の術士が言う。
「古代魔法ではありません」
「禁術でもない」
「分類不能です」
さらに静かになる。
騎士団の代表が言う。
「暴走はしていない」
研究所が返す。
「今は、です」
視線が交差する。
政治派が言う。
「なら監視下に置く」
古参貴族が言う。
「近づけるな」
騎士団が言う。
「戦力として欲しい」
研究所が言う。
「解析したい」
官僚が言う。
「王家の管理下に」
意見が割れる。
誰も引かない。
机の上の水晶板だけが、
静かに光っている。
その時、
奥に座っていた一人が口を開いた。
今まで黙っていた男だった。
王宮直属の監察官。
「結論は出ないな」
誰も否定しない。
監察官は続ける。
「なら順序を踏む」
ゆっくり言う。
「いきなり囲うな」
「いきなり排除するな」
一拍。
「まず測る」
官僚が聞く。
「どうやって」
監察官は資料を閉じる。
静かに言った。
「社交界だ」
空気が止まる。
監察官は続ける。
「春の茶会がある」
「夜会もある」
「令嬢サロンもある」
視線を上げる。
「貴族社会に入れてみろ」
少し間。
「そこで分かる」
騎士団が聞く。
「何が」
監察官は短く答える。
「使えるのか」
さらに低く。
「危険なのか」
最後に、
はっきり言う。
「制御できるのか」
沈黙。
そして、
全員がゆっくり頷いた。
誰かがまとめる。
「……では」
一拍。
「社交界で様子を見る」
その瞬間、
水晶板の光がわずかに揺れた。
誰も気づかない。
ほんの一瞬だけ、
表面に赤いノイズが走った。