悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきが少しずつ収まっていく。
王太子アルフォンスはゆっくりと振り返った。
その視線の先にいるのは――
リリア・フェイン。
彼女はずっと俯いたまま、王太子の背後に立っていた。
アルフォンスは、柔らかな声で言う。
「リリア」
その呼びかけに、少女の肩が小さく震えた。
「話してくれ」
静かな声だった。
だが舞踏ホールの全員が、その言葉を聞いていた。
リリアはゆっくりと顔を上げる。
その瞳は赤く潤んでいる。
多くの視線が向けられていることに気づき、彼女は思わず目を伏せた。
細い指がぎゅっと握られる。
震えている。
「わ、私は……」
声はかすれていた。
言葉がうまく出てこない。
その姿を見て、周囲の貴族たちの表情が変わる。
令嬢の一人が小さく呟く。
「かわいそうに……」
リリアは必死に言葉を探す。
「レティシア様は……」
そこで声が詰まる。
唇が震え、視界が滲む。
そして。
ぽろり、と。
涙がこぼれ落ちた。
その一滴が頬を伝う。
舞踏ホールの空気が、わずかに揺れた。
「……もういい」
誰かが小さく言った。
「無理させるな」
別の令嬢が扇子で口元を隠しながら囁く。
「怖かったのね……」
「きっとずっと我慢していたのよ」
同情の声が広がっていく。
リリアは俯いたまま、涙を拭う。
言葉はほとんど出ていない。
だが、それで十分だった。
震える声。
涙。
弱々しい姿。
それだけで、人々の心は動く。
舞踏ホールの視線は、
完全に彼女へ寄り添っていた。