悪役令嬢は世界のバグを修正する
部屋の中は静まり返っている。
ランプの光だけが机を照らしている。
その上の空間に、
ルーンが浮かび続けている。
配置図。
評価式。
派閥構造。
婚約分岐。
補正処理。
全部の層が、
重なったまま回っている。
レティシアは椅子に座ったまま、
一度も目を逸らしていない。
小さく息を吐く。
「……全部」
その瞬間、
ルーンが大きく広がる。
机の上だけでは収まらない。
部屋いっぱいに広がる。
さらに広がる。
屋敷を越える。
王都を覆う。
空まで届く。
巨大な円。
何重にも重なる輪。
無数の線。
無数の点。
その中に、
今まで見ていたすべてがある。
社交の流れ。
会話の順番。
評価の計算。
派閥の関係。
婚約の条件。
全部が同じ図の中にある。
社交の線。
政治の線。
婚約の線。
派閥の線。
全部が重なって、
一つの巨大な構造になっている。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
SOCIAL SYSTEM
さらに表示。
WORLD SCRIPT
さらにもう一行。
STRUCTURE CONTROL
巨大ルーンがゆっくり回る。
人が動く。
評価が変わる。
派閥が動く。
婚約が決まる。
全部が同時に動く。
全部が同じ中心に従っている。
レティシアの瞳に、
巨大なルーンが映る。
彼女は小さくつぶやく。
(社交も)
ルーンが回る。
(政治も)
線が動く。
(婚約も)
数値が変わる。
(全部)
少し間。
(同じ)
さらに静かに。
(世界も)
ルーンの中心が光る。
(同じ構造)
表示が重なる。
SCRIPT
FLOW
VALUE
NODE
ROUTE
CONTROL
レティシアの目が細くなる。
ゆっくり、
はっきり言う。
(プログラム)
その瞬間、
ルーンの回転が止まる。
中央に文字が出る。
SYSTEM
STRUCTURE ANALYSIS COMPLETE
光が強くなる。
すぐに消える。
部屋は元の静けさに戻る。
机の上には何もない。
ただ、
レティシアだけが動かない。
少しだけ視線を上げる。
夜の天井。
何もない。
でも、
彼女にはまだ見えている。
小さくつぶやく。
「……分かった」