悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場中央。
巨大魔法陣の上。
参加者たちが順に配置につき、
大会開始の準備が進んでいる。
歓声。
ざわめき。
結界の光。
すべてがいつも通り。
――のはずだった。
レティシアの視界だけが違う。
魔法陣は、
円ではなく、
構造として見えている。
線。
流れ。
順序。
式。
空間いっぱいに広がるルーン。
表示が浮かぶ。
MAGIC STRUCTURE VIEW
FLOW
STABLE
SCRIPT
RUNNING
彼女はゆっくりと息を吐く。
(……やっぱり)
視線を下げる。
足元の魔法陣。
処理順が見える。
起動順が見える。
接続先が見える。
どこから命令が来ているかも見える。
(これ全部…)
そのとき。
一瞬だけ。
流れの奥が、
揺れた。
ほんのわずか。
普通なら気付かない。
だが彼女には見えた。
線のさらに奥。
式のさらに奥。
もう一段、
深い層がある。
光が変わる。
色が違う。
文字が違う。
今のルーンとは別の形。
もっと古い。
もっと単純で、
もっと重い。
表示が割り込む。
ANCIENT LAYER
LOCK
彼女の呼吸が止まる。
(……今の)
目を凝らす。
奥を見る。
さらに奥を見る。
魔法陣の下。
構造の下。
スクリプトの下。
別の層がある。
隠されている層。
封じられている層。
彼女の中で言葉になる。
(……ある)
心臓が強く打つ。
(まだ下がある)
もう少し見ようとした瞬間。
表示が点滅する。
LOCK
ACTIVE
ACCESS
DENIED
光が走る。
式が閉じる。
線が消える。
奥の層が一瞬で隠される。
元の構造だけが残る。
FLOW
STABLE
SCRIPT
NORMAL
MAGIC FIELD
ACTIVE
何も起きていないように見える。
観客の歓声。
結界の光。
参加者のざわめき。
全部いつも通り。
だがレティシアだけが、
動けない。
(今の…)
少し間。
ゆっくり息を吸う。
(古い)
さらに小さく。
(もっと前の式…)
視線を上げる。
空の結界。
巨大魔法陣。
全部同じ構造。
全部同じ流れ。
でも。
その下に、
もう一つある。
彼女の胸の奥で確信が生まれる。
(この世界…)
少し間。
(作り直されてる)
風が吹く。
結界が光る。
何事もなかったように、
大会開始の鐘が鳴った。