悪役令嬢は世界のバグを修正する
衝突。
拮抗。
押し合い。
カイルの魔法と、
レティシアの魔法が、
空間の中心で絡み合っている。
崩れない。
押し切れない。
互いに譲らない。
カイルは一歩踏み込む。
さらに詠唱を重ねる。
圧を増す。
密度を上げる。
だが。
違和感があった。
(……おかしい)
視線を細める。
レティシアを見る。
その動き。
その発動。
その結果。
(発動が見えない)
魔法は見える。
普通なら。
構築。
接続。
展開。
すべて段階がある。
だが――
彼女の魔法には、
“過程”がない。
(飛んでいる)
いや、
違う。
(省略されている)
もっと正確に言えば――
“最初から完成している”。
カイルの思考が加速する。
観察する。
読み取る。
解析する。
レティシアの魔法。
その流れ。
その接続。
その順序。
一瞬。
わずかな“ズレ”が見えた。
(そこだ)
彼は視線を固定する。
流れの奥。
構造の裏側。
通常なら見えない位置。
そして。
理解する。
「……その詠唱」
小さく漏れる声。
レティシアは詠唱していない。
だが、
“詠唱に相当する何か”は存在する。
順序。
構造。
接続。
それが――
違う。
一瞬の確信。
「違う」
それは現代の魔法ではない。
体系が違う。
前提が違う。
構造が違う。
カイルの瞳がわずかに細まる。
(……古い)
知っている。
断片だけ。
文献で。
理論で。
失われたはずの体系。
(まさか)
再び衝突が強まる。
だが、
もう見方が変わっている。
レティシアの魔法は、
速いのではない。
(短い)
最初から、
工程が削られている。
(最適化じゃない)
違う。
もっと根本。
(構造が違う)
カイルは初めて、
わずかに息を吐く。
「……そういうことか」
視線を上げる。
レティシアを見る。
その姿は変わらない。
静かで、
無駄がなく、
感情も薄い。
だが。
彼の中で、
位置づけが変わった。
ただの強者ではない。
“同じ領域に触れている存在”。
そして。
(危険だな)
小さく、
誰にも聞こえない声で呟く。
「それ、触っていいものじゃない」