悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜は深まり、
学園の灯りも少しずつ落ちていく。
だが、
見えない場所では、
別々の思考が同じ一点へ向かっていた。
レティシアは、
誰もいない廊下に立っている。
壁際を走る薄い線。
空間へ刻まれた、
消えない痕跡。
視界には淡い表示が残る。
SCRIPT TRACE
DETECTED
彼女には分かる。
これは魔法ではない。
現象の残り香でもない。
誰かが世界へ触れ、
何かを書き込んだ跡だ。
(……書かれてる)
その理解は、
もう揺らがない。
同じ頃、
カイルは屋上の手すりにもたれていた。
夜風の中、
事故現場を見下ろしている。
彼に痕跡そのものは見えない。
だが、
流れの歪みは読める。
自然に崩れた力の線と、
途中からねじ曲げられた線。
その境目だけは、
はっきりと分かった。
(途中で変えられてる)
最初から事故だったわけじゃない。
途中で誰かが手を入れ、
結果だけを作り替えた。
(……構造ごと弄ってやがる)
彼の中で、
答えは形になっていた。
地下の研究所では、
観測盤が静かに回転している。
解析術式の中央に、
事故地点の結界構造が立体投影されていた。
正常な循環線。
そこへ割り込む異物の線。
接続の継ぎ目。
外部入力の痕跡。
FIELD STRUCTURE
MODIFIED
EXTERNAL WRITE
CONFIRMED
研究員たちは息を潜める。
主任だけが、
冷静に告げた。
「外部書き換えだ」
「内部事故ではない」
数値と証拠が、
それを確定していた。
場所は違う。
見ているものも違う。
能力も立場も違う。
レティシアは、
“書かれた跡”を見る。
カイルは、
“変えられた流れ”を読む。
研究所は、
“書き換えの証拠”を解析する。
それでも、
辿り着く答えは同じだった。
事故ではない。
自然現象でもない。
誰かが、
この世界へ手を入れている。
三つの視点が、
一つの真実へ重なる。
そしてその瞬間、
見えない対立は、
もはや疑惑ではなくなる。
確定した敵意として、
静かに姿を現した。