悪役令嬢は世界のバグを修正する
舞踏ホールの視線が、
ゆっくりと一人の人物へ集まっていく。
王太子アルフォンス。
つい先ほどまで、この場の中心に立ち、
断罪を宣言した男。
しかし今――
その表情は、先ほどとは明らかに違っていた。
硬い。
いや、
揺らいでいる。
アルフォンスの視線は、まだ魔法水晶のあった場所に向いていた。
頭の中で、状況を整理しようとしている。
カイルの証言。
崩れた。
教科書事件。
誤解だった。
そして。
階段事件。
映像が示したのは――
事故。
アルフォンスの喉がわずかに動く。
「……」
何か言おうとする。
だが言葉が出ない。
その沈黙を、貴族たちは見逃さなかった。
小さな声が広がる。
「待て……」
「では」
「レティシア嬢は……」
別の貴族が言う。
「無実ではないか?」
さらに別の声。
「証言はすべて誤認」
「証拠は存在しない」
ざわめきが大きくなる。
社交界の空気が変わっていく。
つい先ほどまで、
“悪役令嬢の断罪”だった場は、
いつの間にか
王太子の判断を問う場へ変わっていた。
アルフォンスはそれを理解する。
胸の奥が冷える。
今まで信じていたもの。
取り巻きの証言。
リリアの涙。
それらを元に、
彼は
婚約破棄を宣言した。
王族として。
この国の未来の王として。
だがもし。
それが間違いだったとしたら。
それはただの失言ではない。
王太子の判断ミス。
王族の権威そのものが揺らぐ。
アルフォンスの手が、わずかに握られる。
初めて、
彼は理解した。
この場で揺らいでいるのは、
レティシアの立場ではない。
揺らいでいるのは――
自分の権威だ。