悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきが広がる舞踏ホール。
噂の連鎖。
その構造を理解した貴族たちは、ようやく一つの疑問に辿り着いていた。
この騒動は、
どこから始まったのか。
その空気を静かに見渡しながら、
レティシアはゆっくりと手を動かした。
彼女はドレスの袖の内側から、
一枚の紙を取り出す。
白い封書。
それは折りたたまれた文書だった。
その動きに、
何人かの貴族が身を乗り出す。
レティシアはそれを軽く掲げた。
「こちらです」
短い言葉。
しかしその一言で、
舞踏ホールの視線が一斉に集まる。
「今回の騒動の」
「始まり」
静かな声。
「この手紙です」
ざわっ――
空気が揺れる。
王太子アルフォンスの表情が変わった。
「……それは」
レティシアは紙を開く。
そして読み上げる。
「“王太子殿下へ”」
「“レティシア・アルヴェルンは平民リリア・フェインを日常的に虐めています”」
「“どうか調査をお願いします”」
舞踏ホールに、低いざわめきが広がる。
告発文。
しかも、
王太子へ直接送られた手紙。
貴族の一人が呟く。
「告発……?」
別の貴族。
「最初の情報源か」
そして。
アルフォンスが一歩前に出た。
彼の顔にははっきりと驚きが浮かんでいる。
「待て」
低い声。
「なぜ」
彼はその紙を見つめる。
「それをお前が持っている?」
確かにおかしい。
この手紙は、
王太子へ送られたもの。
つまり、
通常なら王太子しか知らないはずの文書だった。
舞踏ホールの視線がレティシアへ集まる。
レティシアは落ち着いたままだ。
そして、静かに答える。
「簡単なことです」
彼女は軽く紙を振る。
「王太子へ届いた告発文は」
一拍。
「公的記録になります」
貴族たちがざわめく。
公的記録。
つまり。
王家に提出された文書は、
王宮の文書庫に保存される。
レティシアは続けた。
「王家の公文書は」
「閲覧記録が残ります」
「そして」
わずかに微笑む。
「公爵家には、その閲覧権があります」
アルフォンスの目が見開かれる。
つまり。
この告発文は、
王宮の記録として残っていた。
そしてレティシアは、
それを調べていた。
最初から。
舞踏ホールの空気がまた変わる。
貴族の一人が呟いた。
「つまり……」
別の貴族が続ける。
「噂の始まりは」
その紙を見つめながら。
「この手紙か」
レティシアは静かに頷いた。
この断罪劇は、
偶然ではない。
噂でもない。
一通の告発文から始まっていた。