この作品について
2075年。地球と火星をむすぶ輸送船〈アルバトロス号〉が、漆黒の宇宙で“それ”と出会う。
直径十メートル。熱を放たず、質量では説明のつかない時空の歪み。観測値は、人類の物理学を静かに裏切っていく——。
渡海亜希子、二十九歳。量子重力理論の研究者。クルーは彼女を「アキ」と呼ぶ。仲間との軽口、音のない宇宙、そして名前のない球体。亜希子たちは、それを「SEED(種)」と名づけた。
観測し、仮説を立て、検証し、否定し、また組み立て直す。一歩ずつ近づくほど、SEEDは問いを返してくる——これは何か。そして人類は、これをどう扱うのか。
やがてクルーは、巨大AIがはじき出した“合理的な結論”の前に立たされる。数字が示すのは、最も効率のよい未来。けれど、それに従うかどうかを決めるのは——いつだって、人間だ。
亜希子の胸には、ひとつの言葉が残っている。かつて染め物の工房で、ある人がこう言った。「外から塗るんやなくて、内側から染まるんや」。表面に乗せただけの色は、洗えば落ちる。内側で結びついた色だけが、消えない。それは染料の話で、宇宙の話で、そして——人の意志の話だった。
『星の染め方 ── DYE THE UNIVERSE ──』は、本格的な科学描写と人間ドラマを五分五分で両立させたNASA系リアルSF長編。SFガジェットを“魔法”にせず、〈観測→仮説→検証→否定→再構築〉の手順で謎をほどいていく知的興奮と、染色という一本のメタファーが貫く静かな感動を、同時に届けます。
科学が好きな人には深く。物語が好きな人には熱く。「わからなくても面白い、わかるともっと深い」——そんな読書体験を目指しました。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』『インターステラー』『コンタクト』、そしてカール・セーガン氏の宇宙観が好きな方へ。
10⁻³⁶秒から始まった、宇宙を染める意志の物語。