7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
演習グラウンドには、精鋭部隊が担架で運ばれていった後の静寂(と破壊の爪痕)が残っていた。
「王立・竜の子学園」の生徒たちは、暴れすぎて少し疲れたのか、あるいはヒカルに怒られるのを察したのか、神妙な顔つきで整列している。
「……ふん。力はある。だが、それだけだ」
沈黙を破ったのは、辺境連合軍総帥リヒターだった。
歴戦の武人である彼は、マントを脱ぎ捨てると、グラウンドの脇に置かれていた巨大な金属製のケースを開いた。
「ジオ殿。例の『試作品』、借りるぞ」
「おうよ。データ収集も兼ねてだ、派手にやってくれ」
ジオ・アイアンハンドがニヤリと笑って葉巻を吹かす。
リヒターがケースから取り出したのは、無骨な鋼鉄と魔導回路が複雑に絡み合った、全身を覆う追加装甲――『対竜用魔導外骨格《ドラゴンスレイヤー・フレーム・プロトタイプ》』だった。
ガシャン、ガシャン!
重厚な装着音と共に、リヒターの全身が鋼の筋肉で覆われていく。背部の魔力炉が唸りを上げ、彼の身体能力を物理的・魔術的に強制強化する。
「ヒカル王よ。許可をいただきたい。この若き獅子たちに、『戦い』とは何かを教える機会を」
ヒカルは、リヒターの真剣な眼差しと、その物々しい装備を見て、静かに頷いた。
「承知した。……手加減は無用だ。頼む、リヒター」
リヒターは子供たちの前に立ち、鋼鉄の腕を組んで仁王立ちした。
「聞け、若造ども! 貴様らの力は確かに強大だ。素のBPIならば、私など足元にも及ばん」
彼の声は、魔力拡声機能によってビリビリと空気を震わせた。
「だが! 戦場では『道具』と『知恵』が力を凌駕する! そして何より、貴様らには『連携』も『規律』もない! ただ力を振り回しているだけだ! そんなもので、王の背中を守れると思っているのか!!」
その一喝に、ライオスがむっとした顔で反論する。
「なんだよ、おっさん! なんかズルそうな鎧着やがって! 俺たちは勝ったぞ! 強いほうが偉いんじゃないのかよ!」
「愚か者め! 戦場では勝った者が強いのではない、生き残った者が強いのだ! ……来い! 私がそれを体に叩き込んでやる!」
リヒターが、外骨格に連結された巨大な演習用ブレードを構えた。
「へへっ、後悔すんなよ! その鎧ごと溶かしてやる!」
ライオスが炎を纏って突っ込む。
BPI 150超えの加速。常人なら目で追うことすら不可能だ。
だが、リヒターのヘルメットには、ジオとイリスが共同開発した「予測演算バイザー」が搭載されていた。
「直線的すぎる!」
リヒターは最小限の動きで身体を逸らすと同時に、外骨格のブースターを噴射。鋼鉄の脚による強烈な足払いをかけた。
「なっ!?」
ドゴォン!!
勢い余ったライオスが地面に転がり、さらにリヒターの篭手による追撃(寸止め)を受ける。
「力に頼りすぎて動きが大味だ! 次の者!」
「なら、広範囲魔法で!」
シズクが氷の礫を放つ。
リヒターは外骨格の肩部から「」を展開。氷の礫を蒸発させながら、ブースターによる高速機動でシズクの懐に飛び込んだ。
「予測が甘い! 敵が魔法対策をしていないとでも思ったか!」
リヒターはシズクの目の前まで肉薄し、ブレードの腹で軽く額を小突いた。
「くっ……!」
「ボクたちが翻弄してやる!」
リオとリベルが風に乗って空から襲いかかるが、リヒターは背部のウェポンラックから「捕縛用粘着弾」を射出。
「空を飛ぶということは、隠れる場所がないということだ!」
「うわぁっ! ベタベタするー!」
次々とあしらわれていく子供たち。
ドワーフの技術とエルフの理論、そしてリヒターの歴戦の技が融合した「大人の本気」の前に、子供たちの個の力は封じ込められた。
「どうした! バラバラに攻めてくるだけか! それでは烏合の衆だ!」
リヒターの檄が飛ぶ。
その時、混乱する子供たちの中に、一人の少年が声を上げた。
「全員、下がれッ!!」
生徒会長、シリウスだ。
彼は唇を噛み締め、悔しさと、そして冷静さを瞳に宿して前に出た。
「……総帥の言う通りだ。僕たちは、力に溺れていた」
シリウスは振り返り、弟妹たちに指示を飛ばす。
「ライオス! 突っ込むな! 右翼に展開して熱波でセンサーを攪乱しろ! シズクは左翼から地面を凍らせて機動力を奪え! ソイル、正面に壁を作って総帥の視界を塞げ! リオ、リベルは上空で待機、僕の合図で粘着弾を風で弾き返せ!」
「えっ、でも……」
「いいからやれ! 僕の指揮に従え!」
普段は温厚なシリウスの、鬼気迫る命令。
子供たちは反射的に従った。
「ライオス、放て!」
「うおおおっ!」
ライオスの熱波がセンサーを焼き、リヒターの視界にノイズが走る。
「むっ、目眩出か!?」
回避しようと左へ動くが、そこは既にシズクによって凍結されていた。外骨格のグリップが効かない。
体勢を崩したリヒターの目の前に、ソイルの土壁が隆起する。
視界が塞がれる瞬間。
「今だ! 風よ!」
上空からの合図で、リオとリベルが突風を巻き起こす。土壁が砕け、砂煙がリヒターを包み込む。
「……ここだッ!!」
シリウスが、煙の中へと突っ込んだ。
炎と水を螺旋状に纏わせた剣閃が、リヒターの胸部装甲と激突する。
ガキィィィン!!
重い金属音が響き渡る。
シリウスの一撃は防がれたが、リヒターの鋼鉄の足は大きく地面を削り、後退していた。
「……見事だ」
砂煙が晴れると、リヒターはブレードを収め、ヘルメットのバイザーを上げた。その顔には、心からの称賛の笑みが浮かんでいた。
「個々の特性を理解し、瞬時に役割を与え、装備の弱点を突き、私の退路を断った。……これぞ、用兵の妙」
リヒターは、シリウスの肩を外骨格の手で(力加減をして)掴んだ。
「うおおおおん! 素晴らしい! これぞ新時代の戦いだ! 力だけでなく、知恵と絆で戦う……! ヒカル王の理念が、確かにここに息づいている!」
リヒターは感極まってシリウスを抱きしめた(金属なので痛い)。
「シリウス君! いや、シリウス総司令官! 君には指揮官の才能がある! どうだ、将来は人類軍の、いや、連合軍の総帥にならないか!?」
「え、えええ……? く、苦しいです、総帥……硬いです……」
シリウスは白目を剥きかける。
「ふふん、当然だろ! 俺たちの兄貴んだからな!」
ライオスが鼻をこする。
「……まあ、兄さんの指示なら、従わざるを得ませんね」
シズクも眼鏡を直しながら満更でもない様子だ。
ジオが満足げに葉巻を吹かした。
「へっ。俺のに傷をつけるたぁ、大したガキどもだ。データも取れたし、改良のしがいがあるぜ」
ヒカルは、その様子を見て安堵の息を吐いた。
「……やるじゃないか、シリウス」
「王よ!」
リヒターがシリウスを抱えたまま、ヒカルに向かって叫んだ。
「この少年は、国の宝です! 私が責任を持って、武人の魂と、この『対竜用外骨格』の操縦法を叩き込みます! 週末は私の道場へ通わせてください!」
「あはは……。シリウスが良ければな」
ヒカルが答えると、シリウスは助けを求めるような目でこちらを見たが、最後は覚悟を決めたように敬礼した。
「……光栄です。僕は、王の臣下として……最強の盾になるために、学びます!!」
「うむ! 良い返事だ!」
こうして、シリウスの「苦労人」としてのキャリアに、「熱血総帥の直弟子」および「パワードスーツのテストパイロット」という新たな(そして胃の痛い)肩書きが加わったのだった。
【第141話につづく】