7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
演習グラウンドでの地獄の模擬戦を終え、視察団は校舎の奥にある「魔導工房」へと足を運んだ。
そこは、ドワーフ族の技術側妃ボルタと、エルフ族の知識側妃イリスが共同で受け持つ特別授業の場である。
「……フン。さっきの模擬戦で、とびきりいいデータは取れたがな」
ドワーフ族長ジオ・アイアンハンドは、懐のデータ記録結晶を満足げに撫でながらも、工房内を見渡して鼻を鳴らした。
「だが、戦いと『物作り』は別だ。竜と人の合いの子とはいえ、ガキどもにドワーフの繊細な技術が扱えるもんか」
彼は生粋の職人であり、技術に対しては誰よりも厳しい。
先ほどの模擬戦での子供たちの破壊力(ハイブリッドな身体能力)には目を見張ったが、「物作り」となれば話は別だというのが彼の持論だった。
「まあまあ、親父。そう言わずに見てやってよ」
ボルタが苦笑いしながら工房の扉を開ける。
◇◆◇◆◇
中では、子供たちがゴーグルをつけ、真剣な表情で作業台に向かっていた。
あちこちで魔法の火花が散り、金属を打つ音が響く。
「今日は『生活に役立つ魔道具』の制作課題です」
イリスが涼しい顔で解説する。
「戦闘用ではなく、日常の不便を解消するための道具を作ることで、魔力制御の繊細さを学びます」
「へぇ……。生活用品か」
ジオは興味なさそうに呟きながら、作業台の間を歩き回る。
最初に目に留まったのは、ライオス(炎)とシズク(水)の班だった。
「おい、そこの温度調整もっと下げろ! 爆発するぞ!」
「論理的に計算済みです。蒸気圧を動力に変換するには、この温度が最適解です」
二人は喧嘩腰で作業しているが、その手元にあるのは奇妙な装置だった。
「なんだ、これは?」
ジオが尋ねると、ライオスが得意げに答えた。
「『全自動・超高速・洗濯乾燥機』だ! 水流で洗って、蒸気で乾かす! これがあれば、が洗濯物を焦がすこともなくなる!」
「……な、なるほど。水と熱の相反する属性を、回転運動で相殺しながら利用しているのか」
ジオは内心で少し感心したが、口には出さなかった。
「ふん、うるさそうな機械だ」
次に、ソイル(土)とユリウス(人)の班。
ユリウスが設計図を引き、ソイルが土魔法でパーツを成形している。
「これは?」
「『自動追尾型・お掃除ゴーレム』です」
ユリウスが説明する。
「ソイルの土魔法でゴミを感知して、内部に取り込んで肥料に変えます。庭の掃除が楽になるように」
「……ほう。循環システムを組み込んでいるのか」
これも悪くない。だが、ジオを唸らせるほどではない。
そうして工房を一周し、最後にたどり着いたのは、一番奥の作業台だった。
そこには、リオ(風)とリベル(風)、そしてクロノス(闇)とミスティ(闇)という、珍しい組み合わせの四人が集まっていた。
彼らの前にあるのは、一見するとガラクタの山に見える、歪な金属の塊だった。
「なんだこれは? スクラップか?」
ジオが眉をひそめると、リオが元気よく答えた。
「違うよ! これは『究極・癒やしの肩たたきマシーン・改』だよ!」
「肩たたき……だと?」
世界を救う英雄の子供たちが、肩たたき機を作る。
そのギャップに、ジオは呆気に取られた。
「も母上たちも、毎日忙しいでしょ? だから、疲れを取ってあげたいんだ」
リベルが無邪気に笑う。
「風の魔法で優しく叩いて、闇の魔法で安眠効果をプラスするの!」
「……くだらん」
ジオは吐き捨てるように言った。
「そんな子供騙し、手で揉んでやれば済む話だ。技術の無駄遣いだな」
その言葉に、無口なクロノスがむっとした顔で反論した。
「……無駄じゃない。手だと、疲れて長く続けられない。王(父上)の疲れは深い。だから、ずっと癒やし続けられる機械が必要なんだ」
「へえ……。言うじゃねえか、小僧」
ジオは葉巻を噛み砕き、その機械を指差した。
「なら、試してみろ。俺の肩は鉄より硬いぞ。生半可な機械じゃ、逆に壊れるぜ」
「望むところだ!」
子供たちがスイッチを入れる。
ガガガガッ……!
不格好な機械が、不穏な音を立てて動き出す。風の魔力でアームが振動し、闇の魔力が周囲に漂い始める。
ジオは椅子に座り、腕組みをして待ち構えた。
「来い!」
バシュッ!!
アームがジオの肩にヒットする。
「ぬおっ!?」
ジオの目が飛び出そうになった。
痛い。いや、気持ちいい。
風の振動が筋肉の奥深くまで浸透し、凝り固まった鉄のようなコリを粉砕していく。
そして、闇の魔力が神経に作用し、強制的にリラックス状態へと誘導する。
「こ、これは……!?」
ただ叩くだけではない。風の「浸透圧」と、闇の「精神干渉」を組み合わせた、物理と魔法のハイブリッド施術。
しかも、アームの先端にはドワーフの技術である「衝撃吸収合金」が使われており、打撃の反動を完全に殺している。
「う、うおおおお……! そ、そこだ……! 効くぅぅぅ……!」
ジオの厳つい顔が、見る見るうちにとろけていく。
長年の鍛冶仕事で蓄積された疲労が、嘘のように消えていく。
「ど、どう? おじちゃん」
リベルが心配そうに覗き込む。
「……ああ。……ああ、最高だ」
ジオは、震える声で呟いた。
そして、目頭を押さえた。
「親父!?」
ボルタが驚く。
「泣いてるの!? あの『鉄仮面』の親父が!?」
「うるせえ! 目にゴミが入っただけだ!」
ジオは涙を拭い、子供たちに向き直った。
「……お前ら、これをどうやって思いついた?」
「えっとね、ボルタ先生が『道具は使う相手への愛だ』って言ってたから」
リオが答える。
「イリス先生は『効率的なエネルギー伝達』って言ってたけど、僕たちは『気持ちいい』が一番大事だと思ったんだ」
「……そうか」
ジオは、黒焦げの機械を、まるで宝物のように撫でた。
「愛、か。……忘れてたな。俺たちが鉄を叩くのは、誰かを守るため、誰かを助けるためだった」
技術の極致を追い求めるあまり、いつしか忘れていた「原点」。
それを、この小さな子供たちが教えてくれた。
「……合格だ」
ジオは、ぶっきらぼうに言った。
「この機械、俺が買い取る。……いや、共同開発させろ。俺の技術を足せば、もっといいモンになる」
「えっ!? 本当!?」
子供たちが歓声を上げる。
「ああ。……孫ができたみてえだ」
ジオは小さく呟き、ボルタを見た。
「ボルタ。お前の教育、悪くねえな」
「……ふふん、当たり前でしょ!」
ボルタは誇らしげに胸を張った。
その様子を見ていたヒカルは、安堵の息を吐いた。
(よかった……。どうやら、一番の難関は突破できたみたいだ)
◇◆◇◆◇
後日。
ドワーフの里では、ジオが開発した「魔導肩たたき機」が大ヒット商品となり、彼がそれを孫(のような子供たち)との共同開発だと自慢して回る姿が目撃されたという。
頑固オヤジの涙は、新たな技術交流と、世代を超えた絆の証となったのだった。
【第142話につづく】