7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
「王立・竜の子学園」での賑やかな日々から少し離れ、休日の昼下がり。
王都の郊外にある静かな丘陵地帯に、二人の男の姿があった。
「……久しぶりだな、ここに来るのは」
爆炎龍将軍フレアが、手にした酒瓶の蓋を開ける。
「ああ。平和ボケした身体には、この坂道すら堪える」
不動の防衛将ガイアが、苦笑いしながら巨体を揺らす。
二人の視線の先には、一本の巨木と、その根元に置かれた簡素な石碑があった。
そこには、『古王軍編入部隊総司令官 ユグドラ・アースロード ここに眠る』と刻まれている。
8年前の魔王軍との戦いで散った、かつての戦友であり、古王軍出身の武人の墓標だ。
彼の犠牲がなければ、今の平和な世界はなかったかもしれない。
「よう、ユグドラ。……そっちはどうだ? 退屈してないか?」
フレアが石碑に酒をかける。
「こっちは平和すぎて退屈だぜ。剣を握るより、子供のオムツを替える方が上手くなっちまった」
「違いない。私も最近は、テラ様の料理の味見役ばかりだ」
ガイアも腰を下ろし、自分たちの猪口に酒を注ぐ。
二人は酒を酌み交わしながら、かつての激戦の日々を語り合った。
死と隣り合わせだった緊張感。背中を預け合った信頼。そして、失った仲間たちへの想い。
平和は尊い。だが、戦いの中にしか見出せない「何か」があったことも、武人である彼らは否定できなかった。
「……俺たちは、錆び付いちまったのかな」
フレアが空を見上げて呟く。
「平和な時代に、俺たちのような武力馬鹿は不要なのかもしれん」
「……そうかもな」
ガイアが頷く。
「だが、それでいい。俺たちが錆び付くほど、世界が平和だということだ。……ユグドラも、それを望んでいたはずだ」
その時、風に乗って柔らかな光の粒子が漂い、花の香りがふわりと鼻をくすぐった。
「あら、先客がいらしたのですね」
木漏れ日の中から現れたのは、純白のドレスを纏った光の竜姫、ルーナだった。
彼女の手には、白く輝く百合の花束が抱えられている。
「ルーナ様……!?」
フレアとガイアが慌てて酒瓶を隠し、姿勢を正そうとする。
だが、ルーナは聖母のような微笑みでそれを制した。
「楽になさってください。今日は私も、一人の追悼者として参りましたから」
ルーナは静かに石碑の前へ歩み寄ると、膝をついて花を手向けた。
「ユグドラ殿……。あの日、貴方が命を賭してテラ姉さまと、そして魔力尽きて倒れていた私を護ってくださったから、今の光があります」
あの日、魔王軍の奇襲を受けた際、ルーナは直前の戦闘(光土ユニゾン)の反動で動けなくなっていた。
迫りくる絶望的な暴力に対し、テラの防御結界ごと彼女たちを守り抜いたのが、ユグドラの最後の「土の盾」だったのだ。
「貴方の献身が繋いでくれた命と未来、大切に育んでいます。……どうか、安らかに」
ルーナは長い間、祈りを捧げていた。その背中は、かつてよりも少し小さく、けれど遥かに強く見えた。
やがて立ち上がったルーナは、二人の将軍に向き直った。
「お邪魔してごめんなさいね。武人の方々の語らいに、私がいては無粋でしょう」
「め、滅相もございません!」
「いえ、良いのです」
ルーナは、いたずらっぽく茂みの方へ視線を流した。
「それに……どうやら、可愛い『次のお客様』も控えているようですし」
「え?」
フレアたちが振り返る前に、ルーナは光の粒子と共にふわりと姿を消した。
後に残ったのは、清らかな空気と、供えられたばかりの花の香りだけ。
「……相変わらず、底知れないお方だ」
フレアが溜息をつく。
「ああ。だが、あの方の祈りがあれば、ユグドラも浮かばれるだろう」
しんみりとした空気が流れる中、ルーナが視線を送っていた茂みの奥から、ガサリと音がした。
「……誰だ?」
フレアの目が鋭くなる。
「ひゃっ!」
「……見つかりましたね」
茂みから出てきたのは、二人の子供だった。
シリウス(炎・水/十歳)と、ソイル(土/七歳)。
フレアとシエルの息子と、テラの娘だ。
「お前たち……。なぜここに?」
フレアが驚く。ここは子供たちが遊びに来るような場所ではない。
「父上たちが、こっそり出かけていくのを見たから……気になって」
シリウスがバツが悪そうに答える。
ソイルは、小さな野花の花束を胸に抱えていた。二人はたまたま途中で一緒になったらしい。
「……ルーナ様も、いらしてたんですね」
ソイルが、供えられたばかりの百合を見て呟く。
「ああ。……ユグドラは、なんだかんだで、みんなに愛されていたからな」
ガイアが優しく答えると、ソイルはとことこと歩み寄り、百合の横に自分の花束を供えた。そして、小さな手を合わせて祈りを捧げる。
その姿は、母であるテラによく似ていた。
「……ユグドラ様のこと、ママ(テラ)から聞いたことがあります」
祈りを終えたソイルが振り返る。
「とっても強くて、優しくて……ママの『お師匠様』だったって」
「そうだ。テラ様の防御術は、実は、わしとユグドラが鍛え上げたものだ。……そして、あいつは最期まで、テラ様と王を護る『盾』であり続けた」
ガイアが懐かしそうに目を細める。
「盾……」
ソイルは自分の手を見つめた。
「私……もっと強くなりたい。ユグドラ様みたいに、みんなを守れる盾に」
彼女の瞳には、幼さの中にも確かな意志が宿っていた。
ユリウスを守りたい。家族を守りたい。その想いが、彼女を突き動かしている。
シリウスもまた、フレアを見つめていた。
「父上。……父上たちは、錆び付いてなんかいません」
「シリウス?」
「僕には分かります。父上の背中は、いつだって大きくて、頼もしい。……僕も、いつか父上のような『王の剣』になりたいんです」
シリウスの言葉に、フレアは目を見開いた。
「……ははっ。参ったな」
フレアは頭をかいた。
「子供だと思ってたら、いつの間にかしっかり見てやがる」
「ああ。我々の意志は、ちゃんと継承されているようだ」
ガイアも満足げに頷く。
「よし! ならば稽古をつけてやる!」
フレアが立ち上がる。
「錆び付いたなんて弱音は撤回だ! 俺たちの技、全部お前たちに叩き込んでやるから覚悟しとけ!」
「えっ、今からですか!?」
シリウスが驚くが、その顔は嬉しそうだ。
「私も! ガイアおじちゃん、教えて!」
ソイルも身を乗り出す。
「うむ。ユグドラ直伝の『絶対防御』の極意、伝授しよう」
夕暮れの丘に、剣戟の音と魔法の光が舞う。
かつての英雄たちが、次世代の希望たちに、その魂を受け渡していく。
石碑の前のユグドラも、きっと苦笑しながら見守ってくれているだろう。
「……悪くないな、こういうのも」
フレアが汗を拭いながら笑う。
「ああ。平和も、捨てたもんじゃない」
ガイアも同意する。
武人たちの約束は、形を変えて守られていく。
彼らが守った世界で、新しい芽が確かに育っていた。
【第143話につづく】