7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
結界の内部は、異様な重圧に満たされていた。
『エラー・ビースト』が咆哮するたびに、空間にノイズが走り、物理的な衝撃波となって子供たちを襲う。
「グオオオオオッ!!」
「くっ! 防御! ソイル!」
「はいっ! !」
ソイルが地面に手を叩きつけ、巨大な土壁を隆起させる。
魔獣の爪が土壁を粉砕するが、その一瞬の隙に子供たちは散開した。
結界の中央には、ベビーチェアに乗せられたまま取り残されたルーナの娘、アルテミス(0歳)がいた。
その小さな背中を守るように、ともに取り残されてしまった王室メイド長リリア・シャイニングが立ちはだかっていた。
「リリアさん! 危ない!」
ライオスが叫ぶ。
「大丈夫ですよ、ライオス様。……皆様の背中は、私がお守りします」
リリアは短剣を抜き、震える手で魔獣を睨みつけた。
母のような厳しさはなく、ただそこにある絶対的な安心感。
それが、恐怖で強張っていた子供たちの心を解きほぐした。
「……うん! やるぞみんな!」
シリウスが剣を抜き、叫んだ。
「みんな! 僕に合わせろ! 母上たちの『ユニゾン』じゃない! 僕たちだけの『最強の』だ!」
シリウスは理解していた。男である自分やライオス、クロノスには、女系王族特有の共鳴魔術である『ユニゾンブレス』は使えない。
だが、だからこそ彼らは、遊びの中で独自の戦法を編み出していたのだ。
男たちが「力」で土台を作り、女たちが「共鳴」で魔力を練り上げ、それをぶつける物理と魔法の融合技を。
「総員、配置につけ! 前衛、僕とライオス、クロノスで時間を稼ぐ!」
シリウスが指示を飛ばす。
「おう! 燃え尽きろ!」
ライオスが炎を噴射して加速し、魔獣の懐に飛び込む。
「……影縫い」
クロノスが影から魔獣の足を拘束し、動きを鈍らせる。
「そこだッ!」
シリウスが炎と水の螺旋剣で斬りつける。
しかしながら、魔獣の装甲は硬い。三人の攻撃でも傷一つ付かない。
「硬ってぇ! 父上たちはこんなのと戦ってたのかよ!」
ライオスが悪態をつく。
「でも、足止めはできている! 今だ、みんな!」
シリウスの合図で、後方に控えた女子チームが動き出す。
「お兄ちゃんたちが作った隙、無駄にしないわ!」
ノア(炎)が、ライオスが残した熱源を集め、巨大な火球を形成する。
「熱量を逃がしません。圧縮を!」
シズク(水)とマリン(水)が、その火球の外側に冷却水の膜を作り、熱を内側に閉じ込めて圧力を高める。
「固めちゃう!」
ソイル(土)が、圧縮されたエネルギー弾の周りに土の殻を作り、物理的な弾頭へと成形する。
「届けるよー!」
リベル(風)が風の道を作り、ミスティ(闇)が幻影で弾道を隠蔽する。
属性も、性別も、役割もバラバラ。
本来の「ユニゾンブレス」のような美しい和音ではない。
けれども、そこには親世代にはない「ごちゃ混ぜの爆発力」があった。
「な、なんですって……!?」
結界の外で、レヴィアが目を見開く。
「あの子たち、属性反発を無視して魔力を練り上げている!? あんなの、私たちがやったら爆発するわよ!」
「論理的にありえません……! 異なる属性を物理的に圧縮して弾頭化するなんて……!」
アクアも計算機を取り落とす。
「いっけええええッ!!」
女子全員の魔力が込められた弾頭が、リオ(風)の突風によって撃ち出された。
魔獣が反撃の咆哮を上げようとした、その時。さらに驚くべきことが起きた。
「あー、うー!」
ベビーチェアのアルテミスが、キャッキャと笑いながら小さな手をかざす。
キィィィィン……!
純白の光が溢れ出し、子供たち全員を包み込むドーム状の障壁となった。
「なっ……!? あの光は……! 『光の揺り』!?」
魔獣の衝撃波は、その光に触れた瞬間に霧散した。
ルーナが口元を押さえる。
「私の調律魔法よりも、遥かに純度が高い……。魔術というより、奇跡そのもの……」
彼女は震える声で呟いた。
「これが……信仰の側妃シルヴィアが仰っていた、『人と竜が真に交わり、魂が溶け合った先に生まれる奇跡』……シルヴィアの予見した、次世代の光なのでしょうか……!?」
光の加護を受けた弾頭は、魔獣の胸部コアに直撃した。
「今だ!! 喰らえぇぇぇッ!! 『ごちゃまぜバスター・キャノン』!!!」
ドガァァァァァァンッ!!
虹色に輝く物理と魔力の塊が、魔獣の装甲を貫通し、内部で炸裂した。
熱と圧力、そして相反する魔力が内部で暴れまわり、回路を焼き切る。
「ギャァァァァァ……!!」
魔獣は断末魔を上げ、光の粒子となって消滅した。
同時に、グラウンドを覆っていた赤黒い結界がガラスのように砕け散った。
「やった……! やったぞー!!」
「勝った! 僕たちだけで勝った!」
子供たちが抱き合って歓声を上げる。
そして、真っ先に駆け寄ったのは、親たちの元ではなく、リリアの元だった。
「リリアさん! やったよ!」
「怖かったよぉ……!」
「よしよし、えらいですねぇ……」
子供たちがリリアにしがみつく。リリアは彼らを抱きしめ、涙を流した。
実の親の前では見せない甘えた顔を、彼らはリリアだけに見せていた。
結界の外から駆けつけたヒカルたちは、その光景を見て足を止めた。
「……負けたわね」
レヴィアが苦笑する。
「悔しいけど、認めざるを得ないわ。論理的に見て、リリア殿の精神的支柱としての役割は、私たち母親以上ですもの……」
アクアも眼鏡を直しながら認める。
ヒカルは、リリアと子供たちの輪を見つめ、胸を熱くした。
(リリア。……お前はやっぱり、俺たちの『家族』の要だ)
その光景を見つめる空の彼方で、不気味な星が一つ、瞬いた気がした。
神の干渉は、これで終わりではない。
だが、この日、子供たちは証明した。
次世代の希望は、どんな理不尽な運命にも抗える「強さ」と、それを支える「愛」を持っていると。
「さあ、帰ろう。……今日はご馳走だぞ!」
ヒカルの言葉に、子供たちの歓声が再び上がった。
リリアに手を引かれ、誇らしげに歩く子供たちの背中を、夕陽が優しく照らしていた。
【第149話につづく】