7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
「王立・竜の子学園、第一回防衛演習(大運動会)! これより開会を宣言しますッ!!」
生徒会長シリウスの号令が、晴れ渡った青空に響き渡った。
ファンファーレと共に、色とりどりの魔法花火が打ち上がる。
学園の巨大な演習グラウンドには、生徒たちが紅白に分かれて整列していた。
そして、それを取り囲む観客席には、国賓級のVIPたちが「保護者」として集結していた。
そのVIPたちの席とは別に、生徒たちの近く、本部席の片隅で、一人の女性が目を細めて子供たちを見守っていた。王室メイド長、リリア・シャイニングだ。
彼女の周囲には、お茶を運んだり、怪我の手当の準備をしたりと、忙しく立ち回る王室メイド隊の姿がある。
だが、リリアだけは、まるで母親のような、あるいは乳母のような慈愛に満ちた瞳で、グラウンド全体を眺めていた。
「リリアさん! 今日のボク、どう?」
開会式直前、セフィラの息子リオが、風に乗ってリリアの元へ飛んできた。
「リオ様、とても凛々しいですよ。でも、あまり飛び回ると、セフィラ様が興奮して結界を壊してしまいますから、ほどほどになさってくださいね」
リリアが優しく諭すと、リオは「はーい!」と元気に返事をして列に戻っていった。
「リリア。……あの、僕のネクタイ、曲がってない?」
次にやってきたのは、緊張で顔を強張らせたシリウスだ。
「大丈夫ですよ、シリウス様。完璧です。……深呼吸して。貴方は立派な生徒会長です」
リリアがシリウスのネクタイを整え、背中をポンと叩く。シリウスの表情がふっと和らぐ。
「リリアー! 喉乾いたー!」
「はいはい、グラウンド様。特製ジュースを用意してありますよ」
テラの息子グラウンドが駆け寄れば、リリアはさっと冷たい飲み物を差し出す。
彼女は魔力を持たない人間だ。だが、この学園に通う「次世代」の子供たちにとって、リリアは特別な存在だった。ヒカルの最も古い理解者であり、母たち(竜姫)とは違う、静かで変わらない愛情を注いでくれる「もう一人の母」。
いや、半分乳母のような、絶対的な安心感の象徴。それが、リリア・シャイニングだった。
「リリア殿は、本当に子供たちから慕われていますな」
背後から、エルフの賢者イリスが声をかけた。
「恐縮です、イリス様。……ただ、可愛くて仕方がないのです。ヒカル様と、皆様の愛の結晶ですから」
リリアは謙遜しながらも、嬉しそうに微笑んだ。
そんな温かな光景をよそに、保護者席の熱気は既に臨界点に達しようとしていた。
「ライオスーーッ!! 母さんが見てるわよーーッ!! その炎でグラウンドごと焼き尽くしなさい!!」
最前列で巨大な応援旗(燃えている)を振り回しているのは、紅蓮の激情竜姫レヴィアだ。
「シズク! マリン! 冷静な判断と効率的な魔力運用を! 勝利への最短ルートを計算しなさい!」
蒼玉の理性竜姫アクアは、双眼鏡と計算機を片手に、既に戦術解析モードに入っている。
「ソイルちゃーん! グラウンドくーん! お弁当は特大サイズで作ってありますからねー!」
磐石の守護龍テラは、観客席の一角を占拠して、炊き出しレベルの食事を並べている。
「リベル、リオ! 一番高いところまで飛んだら勝ちだよ! ルールなんて風に飛ばしちゃえ!」
疾風の遊撃竜姫セフィラは、自身も空中に浮きながら声援を送っている。
「……ふん。クロノス、ミスティ。闇の眷属たるもの、影に紛れて勝利を掠め取れ」
深淵の孤高竜姫ヴァルキリアは腕を組んで座っているが、その膝の上には「息子・娘専用応援うちわ」が隠されているのを、隣のシェイドは見逃さなかった。
「……相変わらず、保護者席の圧がすごいな」
来賓席の中央、ヒカルは苦笑しながら額の汗を拭った。
隣には、人類側摂政レオナルドと、辺境連合軍総帥リヒター、ドワーフ族長ジオ、そしてエルフの賢者イリスらが座っている。
「ははは! 元気があっていいではないか! 我が軍の演習よりも殺気立っているぞ!」
リヒターが豪快に笑う。
「王よ。……観客席の結界強度は大丈夫なのですか? レヴィア様の応援だけで、障壁にヒビが入っていますが……」
レオナルドが心配そうに天井を指差す。そこには、レヴィアの熱気で歪み始めた魔力障壁があった。
「……アウラ、結界出力最大で頼む。予算はギルティアに請求してくれ」
「了解です。……残業手当を申請します」
放送席のアウラが淡々と操作パネルを叩くのだった。
◇◆◇◆◇
競技が始まった。
第一種目は『魔導障害物競走』。
魔法を使って泥沼、炎の壁、飛行魔獣(召喚獣)などの障害を突破するレースだ。
「よーい、ドンッ!」
「行くぜぇぇッ! ジェット・バーン!」
ライオスが足裏から炎を噴射し、ロケットのように加速する。
「甘いです、兄さん! ウォーター・スライダー!」
シズクが水流のコースを作り出し、その上を滑るように追い抜く。
「風よ、運んで!」
リオとリベルは、障害物を全て無視して空を飛んでいく。
「あわわ……! ま、待ってぇ!」
ソイルは足元に土の橋を作りながら、懸命に走る。
グラウンドは爆発と水しぶきと暴風が入り乱れるカオス状態だ。
「行け行けライオス! 邪魔な障害物は全部燃やせ!」
「シズク! そこで氷結魔法を使って足場を固定! 摩擦係数をゼロに!」
親たちの応援(という名の指示)もヒートアップする。
「おのれアクア! 水を撒くな! ライオスの火が消えるじゃない!」
「レヴィアこそ! 熱波でシズクの集中力を乱さないでください!」
バチバチバチッ!!
観客席で、炎と水の魔力が衝突し、火花が散る。
「ひぃぃっ! 保護者同士が戦わないでください!」
審判役の王室メイド隊が悲鳴を上げる。
そんな喧騒の中、フィールドでは異変が起きていた。
「……ねえ、兄さん。なんか、空の色がおかしくない?」
シズクが走るのを止め、空を見上げる。
晴天だったはずの空に、赤黒いノイズのような亀裂が走っていた。
「ん? 母上の炎が映ってるんじゃないか?」
「違います。魔力波長が……『異質』です」
シリウスもまた、生徒会長席から立ち上がり、その異変に気づいていた。
「……嫌な予感がする。ただの演出じゃない」
シリウスがヒカルの方を振り返ろうとした、その時だった。
ズガガガガガッ!!
演習用魔獣の召喚ゲートが、不気味な音を立てて暴走を始めた。
本来なら小型の使い魔が出るはずのゲートから、どす黒いヘドロのような瘴気が溢れ出す。
「グルルルルル……!!」
這い出してきたのは、演習用の魔獣ではない。全身が幾何学的な紋様と金属質の骨格で構成された、異形の巨獣だった。
BPI測定不能。かつてウィンドランナーが拾ってきた「残骸」と同じ気配を持つ、神の尖兵のなりそこない――『エラー・ビースト』だ。
「な、なんだアレ!?」
「きゃあああッ!」
生徒たちがパニックに陥る。
「総員、退避! 子供たちを守れ!」
ヒカルが叫び、席を蹴って飛び出そうとする。
レヴィアやヴァルキリアたちも即座に戦闘態勢に入った。
だが。
ガキィィィィン!!
グラウンド全体を覆うように、赤黒い結界が展開された。
ヒカルたちの突入を、見えない壁が弾き返したのだ。
「なっ……!? 結界だと!? 我の炎が通じない!?」
レヴィアが炎を叩きつけるが、結界は傷一つ付かない。
「解析不能……! この術式は、こちらの魔力干渉を『拒絶』しています!」
アウラが叫ぶ。
「神の干渉か……! 大人は手出しさせないつもりか!」
ヒカルが歯噛みする。
結界の中に取り残されたのは、シリウスたち生徒のみ。
目の前には、殺意を剥き出しにした異形の魔獣。
「……くっ、みんな! 下がるんだ!」
シリウスが前に出るが、足が震える。
(勝てるのか? 僕たちだけで……。父上たちも入れないのに……)
絶望感が子供たちを包み込もうとした時。
「逃げるなッ!!」
ライオスの声が響いた。彼は震える手で拳を作り、魔獣を睨みつけていた。
「昨日のリリアさんの話、忘れたのかよ! 力は守るためにあるんだろ!?」
ライオスの全身から、炎が立ち上る。
「父上たちが見てるんだ! ここで逃げたら、一生後悔する! ……僕たちがやるんだよ!!」
その言葉が、シリウスの迷いを断ち切った。
「……ああ、そうだ。僕たちは『竜の子』だ!」
シリウスは、生徒会長の腕章を握りしめ、叫んだ。
「総員、戦闘態勢! これより防衛演習を『実戦』に切り替える! 僕たちの力で、この学園を守り抜くぞ!!」
【第148話につづく】