7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
「王立・竜の子学園」の放課後。
茜色に染まり始めた教室で、ライオス(炎/八歳)が不満げに机を叩いた。
「……ねえ、なんか変じゃない?」
ライオスが唇を尖らせて呟く。
「父上も母上たちも、最近ピリピリしてる。ウィンドランナーのおっちゃんが変な残骸を拾ってきてから、城の空気も重いし……。何か隠してるだろ、絶対」
「論理的に推測して、緊急事態への警戒レベルが引き上げられています」
シズク(水/六歳)が、教科書を閉じながら冷静に同意する。だが、その眉間には不安のしわが寄っていた。
「アウラ先生やソフス様たちが、地下の解析室にこもりきりなのも気になります。……ただの魔獣じゃないわ」
「怖いね……。パパたち、また戦いに行っちゃうのかな」
ソイル(土/七歳)が、隣に座るユリウス(人/八歳)の袖をギュッと掴む。ユリウスは無言で彼女の手を握り返したが、その表情は硬かった。
彼は母レオーネから、帝国の古い記録に記された「神話の災厄」について少しだけ聞いていたからだ。
「……僕たちが、もっとしっかりしなきゃいけないんだ」
生徒会長のシリウス(十歳)が、黒板の前で拳を握りしめた。
「たちが守ってくれている間に、僕たちも力をつけないと。……でも、僕たちに何ができる?」
重苦しい沈黙が教室を支配した。
彼らは「竜の子」として強大な力を持っている。だが、その力を「何のために」「どう使うか」という覚悟は、まだ定まっていなかった。
「――迷っているようですね、皆さん」
その時、教室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、いつもの教師陣ではない。清楚な王室メイド服に身を包んだ、リリア・シャイニングだった。
「リリアさん!」
「リリアお姉ちゃん!」
子供たちの顔が一斉に明るくなる。
彼らにとってリリアは、単なる王室メイド長ではない。生まれた時からおむつを替え、ミルクを与え、夜泣きをあやしてくれた「もう一人の母」。
いや、偉大すぎる実の母(竜姫)たちよりも身近で、どんな些細な悩みでも受け止めてくれる、絶対的な安心感の象徴――「みんなの乳母」だった。
「どうしたの、リリアさん? おやつ?」
食いしん坊のグラウンド(土/三歳)が期待に目を輝かせる。
「いいえ、グラウンド様。今日のおやつは後ほど……」
リリアは慈愛に満ちた微笑みでグラウンドの頭を撫でると、教壇に立った。
その瞳は、いつもの優しい乳母の目ではなく、かつてヒカルと共に死線を潜り抜けた「戦友」の光を宿していた。
「今日はアウラ様の代理で、ホームルームを担当します。……皆さん、不安ですか?」
リリアの問いに、ライオスが俯いたまま答えた。
「……悔しいんだ。父上たちは何かを守ろうとしてる。でも、俺たちは『子供だから』って守られるだけだ。俺の炎は、こんなに強いのに!」
ボウッ!
ライオスの掌から炎が噴き上がる。それは行き場のない焦燥そのものだった。
「ライオス様。……力があるから、守れるのではありませんよ」
リリアは静かにライオスの席まで歩み寄り、燃え上がるその手に、自分の手を重ねた。
火傷しそうなほどの熱。だが、リリアは眉一つ動かさず、その炎を優しく包み込んだ。
「えっ……!? リ、リリアさん、熱くないのかよ!?」
ライオスが慌てて炎を消そうとするが、リリアは手を離さない。
「熱いですよ。でも、離しません」
リリアは真っ直ぐにライオスの目を見つめた。
「守るということは、敵を倒すことだけではありません。大切な人の痛みを、恐れずに受け止めること……。傷つくことを覚悟して、それでも隣に立ち続けることなのです」
教室が静まり返る。
リリアは、かつて自分がヒカルと共に逃げ、そして守れなかった過去。絶望し、それでも再び立ち上がってヒカルの盾となった日々を、静かに語り始めた。
それは、子供たちがまだ生まれる前の、「弱かったパパ」と「強かったリリア」の物語。
「私は弱いです。竜姫様方のような魔法も、六天将のような武術もありません。……でも、ヒカル様が傷つく時、私は一番近くでその血を拭う覚悟を持っています」
彼女の声には、魔力とは違う「強さ」が宿っていた。
それは、優しさという名の鋼。
子供たちは、いつも優しく微笑んでいるリリアの中に、母たち(竜姫)とは違う種類の、揺るぎない芯の強さを見た。
「皆さんが持つその強大な力……。それは、誰かを傷つけるためでも、自分を誇示するためでもありません。誰かの涙を拭うために、誰かの震える手を握るために使ってください」
リリアは、ソイルとユリウス、シズクとマリン、そしてクロノスたち一人一人を見渡した。
その眼差しは、彼らが赤ん坊の頃から注ぎ続けてきた愛情そのものだった。
「力は『壊す』ためではなく、『繋ぐ』ためにあるのです。……ヒカル様が、そうして世界を変えたように」
その言葉が、子供たちの心に火を灯した。
ライオスが、自分の掌を見つめる。
(俺の炎は……敵を焼くんじゃない。みんなを温めるための、父上みたいな太陽になるんだ)
「……分かったよ、リリアさん。俺、もう迷わない」
ライオスが顔を上げた。その瞳からは、焦燥という濁りが消え、澄んだ決意の光が宿っていた。
「論理的に……理解しました。力は手段であり、目的は『守護』にある」
シズクが眼鏡を押し上げる。その指先はもう震えていない。
「僕たちも、パパの背中を追いかけるんじゃなくて、パパの隣に立てるようにならなきゃね」
シリウスが頷く。
教室の空気が変わった。
不安という霧が晴れ、そこには「次世代の守護者」としての自覚が芽生え始めていた。
リリアは、そんな子供たちを見て、満足げに微笑んだ。
(ヒカル様。……貴方の蒔いた種は、確かに育っていますよ)
「さあ、明日は『防衛演習(運動会)』の本番ですよ。大人たちに、皆さんの覚悟を見せてあげましょう!」
「「「はいッ!!」」」
子供たちの元気な返事が、夕暮れの空に響き渡った。
リリアは、成長した彼らの姿に、かつてのヒカルの面影を重ね、そっと目頭を押さえた。
彼らはもう、ただ守られるだけの子供ではない。
未来を担う、小さな英雄たちなのだ。
【第147話につづく】