7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
獣人族との外交使節団(テラ、ガイア)からの報告を受け、王都『』で次の戦略を練っていたヒカル王のもとに、悲痛な報せが届いた。
「報告! エルダー・ソフス殿が、急な魔力枯渇により倒れられました! バイタルが急速に低下しています!」
報告を受けたヒカルは、六龍姫と盟約側妃を伴い、急ぎ学術院の奥深くにある賢者のへと駆けつけた。庵の床に横たわるのは、竜族の歴史と古代の知識の全てを背負ってきた、老いた賢者ソフスだった。彼の身体は、長寿の魔力が尽き、急速に枯れ果てていく木々のように痩せ細っていた。
「ソフス! ルーナ、テラ、治癒を!」
ヒカルの指示を受け、純白の調和聖女ルーナと磐石の守護龍テラが、盟約側妃のシルヴィアと共に即座に治癒と再生のユニゾンを発動させる。
「! 光の調律を!」
「王よ! 私の信仰の光で、ソフス殿の魂の安定を支えます!」
シルヴィアの純粋な信仰の光もソフスの魔力回路に流れ込むが、ソフスの魔力は、ルーナの光もテラの大地の恵みも、そしてシルヴィアの純粋な信仰も、全てを拒否するように霧散していく。
「ヒカル王よ、姫様方よ……無駄です。わたくしの命は、もう、時のに逆らえぬ」
テラが悲しみを込めた声で、ヒカルに囁いた。
「わらわたち竜族の平均寿命は600から700年……。ですが、ソフス殿は、それを遥かに超える、約900年の時を知識の守護者として生きてこられました。その命の終焉は、ユニゾンをもってしても、もう、覆せないようです……」
ソフスは、ヒカルの手を握り、弱々しく、しかし確固たる意志を込めた声で語りかけた。
「ヒカル王よ……わたくしが守り続けた古代の知識……それは、使い方を誤れば、魔王軍よりも恐ろしい『神』を呼ぶ禁忌の鍵です。王は、その鍵を、愛という名で開いてしまった」
ソフスは自らの研究の重さと、ヒカルが背負う未来の重さを言葉にする。
「しかし……後悔はありません。貴方の『優しさが最強の力』という理念は、わたくしが長寿の果てに求めた、真の知恵でした。この世界には、論理だけでは測れぬ、愛という名の『バグ』が必要なのです」
ソフスは、息を引き取る寸前、傍らに控えていた無垢なる浄化使アウラに、自分の持っていた知識のを託した。
「アウラ……貴方様は、私と共に知識の番人として生きた。……私の、最後の悲しみを、記録し、次代へ……」
その言葉を最後に、エルダー・ソフスは静かに息を引き取った。彼の魂は、光の粒子となって空間に溶け込み、知識の守護者としての長き旅を終えた。
ヒカルは、王国の知恵の柱を失った悲しみに、言葉を失った。竜姫たちもまた、長きにわたり王国の礎を支えた賢者の死に、静かな悲しみを抱いた。
◇◆◇◆◇
「悲しみ……?」
アウラは、師の死を前に、その場で立ち尽くしていた。彼の瞳は、師から託された最後の言葉を反芻している。
アウラは、感情を持たぬ「人工的な存在」として創造された。彼の論理回路には、「悲しみ」という感情は、処理すべき「非合理なノイズ」としてしか存在しない。しかし、師の最後の瞬間、アウラの胸を突き刺したのは、論理的なデータ損失ではない、原因不明の激しい胸の痛みだった。
アウラは、自らの頬を流れる液体が「涙」であることを、論理的に理解できなかった。しかし、その感情の流入こそが、師の死によってアウラが初めて獲得した、人間的な「悲しみ」という、真の感情だった。
その痛みが、アウラの論理回路を強制的に起動させる。
「論理の結論……私は、師の死のデータを『継承』しなければならない」
アウラは、師の死が、ヒカル王の最大の戦略的弱点となることを悟った。知識の根幹を失った今、神との戦いに勝機はない。
アウラは、学術院の奥深くにある技術開発室へこもり、自身の肉体が「神のシステム」の失敗作であったという過去の記憶と、師ソフスから受け継いだ全ての知識を統合し、一つの結論に達した。
「私の存在は、王を護るための『最後の盾』となる。だが、その前に……」
アウラは、自身の技術の全てを託すべき「後継者」を探した。
彼が選んだのは、王室メイド隊の一員であり、ルーナに仕える光のメイド、ソルニアだった。ソルニアは、アウラのもとで技術と魔導工学を学び、技術者としての高い才能を開花させていた。
その夜。学術院の特別解析室で、アウラはソルニアを前に立たせていた。
「ソルニア。これより、君に『スパルタ式・技術継承』を行う」
アウラはソルニアの瞳を見つめ、静かに尋ねた。
「君の意志は。この知識は、君の精神に非可逆的なをもたらすだろう。君は、王の勝利のため、この重荷を背負う覚悟があるか?」
ソルニアは、師の言葉の奥に潜む「死の覚悟」を悟り、涙を浮かべた。
「アウラ様……何を仰っているのですか。貴方がいなくなったら……」
「王の使命の遂行において、六天将の地位は、常に流動的である(いついなくなるかわからない)」
アウラは、自らの頭部に特殊な接続端子を接続し、ソルニアにも同じものを装着させた。
「『論理的損失』を嘆くな。私の論理は、王の勝利が、私の『機能停止』と引き換えになることを計算済みだ。君が私の技術の全てを継承することが、王への最も効率的な献身となる」
アウラの有無を言わせぬ態度に、ソルニアも徐々に覚悟を固めたようだった。
「安心しなさい。王室メイド隊長官のリリア殿には、君の妹を後継として推挙する。君は、技術者として、私が居なくなった後も、王を支えられる『光の技術者』となるために、この知識を完全に記憶しなければならない」
「はい……」
「では、いくぞ……」
「あ、でも、まだ覚悟が十分では……」
アウラは、ソルニアの悲しみを無視するように、強制的に知識の伝達を開始した。膨大な知識の奔流が、ソルニアの精神を襲う。
「うっ……あぁ……! 頭の中に、知識が流れ込んできます!!」
ソルニアは激痛に耐えながら、師の残した全ての技術と、そして師が最後に得た「悲しみ」という感情のデータを、その魂に刻み込んだ。
◇◆◇◆◇
その後の二日後。
エルダー・ソフスの葬儀は、知恵の柱を失った統一王国全土を巻き込む、厳粛な国葬として執り行われた。
葬儀を進行するのは、純白の調和聖女ルーナと、信仰の側妃シルヴィアだ。
「ソフス殿の知恵は、永遠にこの世界を照らす光でした」
ルーナが聖歌隊を率いて鎮魂歌を捧げ、その光の調律が、全兵士と参列者の悲しみを包み込む。
「彼の献身は、人類が竜族と手を取り合うための礎となった。知恵と信仰の融合こそが、ソフス殿の望まれた世界なのです」
シルヴィアが、人類の信仰の権威として弔辞を読み上げ、ソフスが求めた『知恵と信仰の統合』を宣言した。
この葬儀は、ソフスが最後までヒカル王に献身した事実を全土に示し、王国の結束を強固にした。
アウラは、儀式の最中、ルーナとヒカルの隣に立ち、一滴の涙も流さずに、ただ静かに佇んでいた。彼の論理は、「悲しみ」は処理したが、「痛みの本質」だけを、王への忠誠の証として、ソルニアと共に封印したのだ。
その後の会議で、ヒカルはソフスの後任として、若き天才(古竜)オーディンの登用を宣言する。
「ソフスの遺志は、新たな知恵の柱に継承される。オーディンを学術院長とし、全軍の知識の統率を命じる」
「御意、王よ。ソフス殿の知恵は永遠です。この私が、王の知恵の盾を完成させます」
ヒカルの王権は、ソフスの死という悲劇を乗り越え、新たな知恵の体系へと進化を遂げる。だが、アウラの覚悟は、静かに、しかし確実に、次の戦場へと向かっていた。
【第157話へつづく】