7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
統一王国の南端。リヒター総帥と人類軍の壮絶なの戦いは、天竜族の追撃を一時的に断ち切った。盟約軍は、リヒターの犠牲が残した血の代償を背負い、王都へ向けて絶望的な撤退を続けていた。
司令部では、ヒカルが右腕の『調律の剣』を握りしめ、天竜族の追撃再開に備えていた。リヒターの爆発で敵は混乱したものの、神のシステムの猛烈な自己修復能力が、すぐに追撃態勢を立て直すだろう。
「くそっ、リヒター総帥の犠牲が、時間稼ぎにしかならないというのか……!」
最高戦略官のアクアが、悔しさに机を叩く。その時、彼女の解析盤に、突如として奇妙なノイズが走った。
「な、なんですって!? この波形は……消滅したはずの、アウラの魔力のです!」
アクアの鋭い悲鳴が響き、司令部がざわつく。
「王よ! アウラのコードが……! 彼の論理破壊ウィルスが、天竜族の広域ネットワークに強制接続しました!」
後方で撤退中の深海の戦術師シエルが、通信越しに驚愕の声を上げた。
『アウラ様が生きていた!? しかも、神のシステム中枢へ!? 論理的にありえません!』
人類側摂政のレオーネ皇女も、信じられないという表情で解析盤を凝視する。
『アウラ殿……! あなたは、私たちを欺いていたのですね!?』
そう、アウラが命を賭した『システム内での戦い』が、リヒターが稼いだ時間を使って、ついに火を噴いたのだ。
司令部がざわつく中、アクアはヒカルの元へ詰め寄った。
「王よ! ルーナ様がこれほどまでに動揺している! アウラ殿のこの特攻作戦、あなたは事前に知っていたのですね!?」
ヒカルは隠すことなく、冷徹に答えた。
「その通りだ、アクア」
ヒカルは、通信魔術に全神経を集中させた。
「アウラは、自身の起源が神の端末であることを解析し、この『論理破壊ウィルス』の作戦を私に極秘裏に伝えていた。アウラの戦略は、私という『バグの核』を王国の安全な場所へ撤退させるための時間稼ぎとして、この作戦を立案したのだ」
レオーネが、苦渋の表情でヒカルに訴える。
「ヒカル王! ならば、なぜ私たち司令部にも情報を開示しなかったのですか!? ルーナ様をあそこまで追い詰める必要があったのですか!?」
「違う、レオーネ。アウラは、作戦の成功条件を『作戦に関わる人間の情動の排除』だと断じた。貴様たちの心が、アウラへの愛着や、作戦のリスクへの恐れで一瞬でも揺らげば、神のシステムにその情報が漏洩する」
ヒカルは、レオーネの言葉を静かに遮り、王の孤独な決断を説明した。
「特にルーナ。彼女の光の調律が、アウラへの愛着で揺らげば、アウラの存在自体が神の追跡プログラムに捕捉される。アウラの献身は、誰にも悟らせない、王と彼だけの『論理的な秘密』でなければならなかった」
ヒカルは、特にルーナには気を使っていた。彼女の長年の副官であったアウラについて、彼女に知らせなかったことに、ヒカルも思うところがあったからだ。夫婦である彼女に、この事実を伝えられなかったことに、彼自身も引っかかってもいた。
「アウラの機能停止は、私たちが撤退を完遂し、神のシステムを欺くための、最も非情な戦略だったのだ」
ヒカルは通信越しに、自らの孤独な決意をアウラに伝えた。
「アウラ! 貴様は、最後まで、王の命令に従ったな!」
ヒカルの問いかけに応答したのは、天竜族のネットワークを介した、静かで冷徹なアウラの声だった。
『王よ。通信は、これが本当に最後です。リヒター総帥が稼いでくれた時間、そして人類の愛という熱量を、私は無駄にはしません』
アウラの意識は、既に光のプログラムと化し、天竜族のネットワーク内部深く、その「制御タワー(敵旗艦)」へと侵入していた。
『神の論理を破壊するには、外部からの攻撃では不可能。システム中枢に、論理を超越した「愛という名の鍵」を強制的に挿入するしかない』
その時、ヒカルの隣に座っていた純白の調和聖女ルーナが、激しい精神的な苦痛に顔を歪ませた。アウラは、ルーナとの間に築いた精神的な絆を通じて、最後の別れを告げていたのだ。
「アウラ……! どこへ行くの!? なんで勝手に……!?」
ルーナは、その透き通るような白金の瞳を大きく見開き、驚愕と痛みに声を震わせた。アウラは、彼女にとって副官であり、光の魔術を教え、共に王の理念を支えた恩師でもあった。
「貴方を失う論理的な悲しみは、私の調律でも癒やせない! 貴方は、私の最も大切な存在なのに、どうして私に相談せずに、一人で道を決めるのですか!? こんなの、論理的じゃない!」
ルーナの悲痛な叫びは、いつも優雅で冷静な彼女からは想像もつかないほど感情的だった。ヒカルは、ルーナのこの子供のような取り乱し方に、驚きと同時に、ルーナにとってアウラがいかに大きな存在であったかを痛感する。
アウラは、彼女の悲痛な叫びに、通信越しに穏やかな光を返した。
『ルーナ様。貴女の光は、私に「愛」の意味を教えてくれた。私は、貴女の笑顔を護るため、機能停止の役割を選びます』
アウラの声は、静かに、しかし決意に満ちていた。
『これは、私に与えられた唯一の役割です。貴女とヒカル様の、そして次世代のアルテミス様方の未来を護るためには、私の本来の役割である「神の端末」としての宿命を、ここで断ち切る必要があった』
『私の愛は、貴女の光の中に在る。ルーナ様、私の光は……貴女の中に』
その言葉を最後に、アウラの魔力信号は、ノイズと共に完全に途絶えた。ルーナの精神的な絆から、アウラの存在が根こそぎ引き抜かれたのだ。
「アウラ……アウラァァアアア!!」
ルーナは、その場で崩れ落ち、顔を覆って子供のように泣きじゃくった。その悲痛な泣き声は、普段の王妃としての威厳からはかけ離れており、ヒカルは驚きと同時に、ルーナにとってアウラがいかに大きな存在であったかを痛感する。
「ルーナ、すまない。……アウラは、お前の愛を証明するために、最後までプロフェッショナルだった」
ヒカルはルーナを抱きしめ、優しく頭を撫でた。
その瞬間、戦場の空で、巨大な天竜族の旗艦(制御タワー)が、内部から異常な光を放ち始めた。
アウラの自己消去プログラムが、旗艦のシステム中枢に到達したのだ。
ドオオオオオオン!!!
轟音と共に、天竜族の旗艦は制御を失い、内部から崩壊していく。その巨体は、光の粒子となって砕け散り、神の軍勢の指揮系統は完全に麻痺した。
「王よ! 天竜族の動きが止まりました! 旗艦の崩壊により、敵の統制が瓦解しています!」
最高戦略官のアクアが、驚愕と安堵の混ざった声で叫ぶ。
「アウラ……お前は、最期までだったな。さらばだ、そして、本当にありがとう……」
ヒカルは、アウラの献身的な愛と、リヒターの犠牲が、絶望的な戦局を一変させたことを悟った。盟約軍は、アウラの特攻が作った最後の好機を利用し、王都への撤退を完遂する。
六天将の一人、アウラ・アウラム。彼は、己の体を鍵として神のシステムに挑み、その命を王国の未来のために捧げた。
【第168話へつづく】