7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
統一王国の南端。絶望的な撤退戦の最前線で、人類軍総帥リヒターは孤立していた。
彼の周囲には、共にを務める辺境連合軍の兵士たちが、ドワーフの技術で強化された魔導外骨格を纏い、無数に降り注ぐ天竜族の光線を懸命に防いでいた。
彼らの外骨格は、エルフの予測演算回路によって天竜族の攻撃軌道を先読みするが、一撃の威力がそれを上回るため、装甲が貫通し、内部の肉体から光の粒子となって消えていく。
「計算が追いつかねぇ! もう防御シールドは持たねぇぞ!」
「それでも一秒稼げ! ヒカル王の撤退が最優先だ! 命の論理なんざ、知ったことか!」
彼らの動きは、普通の人間兵士のそれを遥かに凌駕し、その奮闘ぶりは竜族の精鋭が驚愕するほどだった。
後方で援護射撃を続ける爆炎龍将軍フレアは、その壮絶な献身を通信を通じて聞き、激しく唇を噛んだ。
『ちくしょう! 奴らのBPIは人間とは比べものにならねぇ! あんな力、俺たちでも一瞬で燃え尽きちまう!』
『だが、俺らはそれでも退かない! 鉄の骨格は砕けても、魂の誇りで立ち続けている!』
しかし、その防御は神の兵器の前におとりにしかならず、魔法防御のほとんどは敵の無機質な論理に無力化され、兵士たちは次々と光の粒子となって消滅していく。
リヒターの全身を覆う『対竜用魔導外骨格』は、既に天竜族の集中砲火を受け、その装甲のいたるところが溶解し、黒く煤けている。外骨骨格の魔力炉は限界を超えて唸りを上げ、リヒターの肉体を最後の闘いへと駆り立てていた。
「ハッハッハッ! やはり神の兵器はタフだ! だが、武人の魂は、お前たち無機質な論理には、決して屈せん!」
リヒターは、最後の力を振り絞り、演習用ブレードを天竜族の群れへ向けて振り下ろした。彼の攻撃は、常識的にはありえない速度と精度で繰り出されるが、天竜族の硬質な鱗に弾かれ、有効打を与えられないまま逆に無機質な光線がリヒターの胸部に直撃する。
「ぐっ……! 所詮、おとりにしかならない、というのか……!」
外骨格の防御が限界を超えて破壊され、リヒターの肉体は深いダメージを負う。彼の「消去」が始まるのは、時間の問題だった。
◇◆◇◆◇
後方で撤退中の盟約軍司令部。ヒカルは、リヒターの魔力反応が急速に低下しているのを感知し、通信魔術を最大限に増幅させた。
「リヒター総帥! もう十分だ! 撤退せよ! 貴様の武功は、必ず王国の勝利で報いる!」
『……フン。王よ。武人の誇りは、貴様が築く未来に託される!』
リヒターの通信が途切れがちなノイズと共に響く。彼の外骨格は、最後の力を一つの目的のために集約し始めた。
「シリウス! 貴様は王の命を護れ! これが、私の最後の授業だ!」
『対竜用魔導外骨格』の装甲が砕け散る中、リヒターは通信機に最後のメッセージを叩き込んだ。
最前線では、リヒターの配下の兵士たちが、溶解した外骨格の隙間から露出した血肉を晒しながらも、最後の防衛線を死守していた。彼らの瞳は、恐怖を通り越し、狂気的なまでの献身の炎を宿している。
「くそっ、効かねぇ! 光線が防げねぇ!」
「構うな! 俺たちは、ドワーフの技術とエルフの知恵を借りた! この命、竜の王の恩に報いるための楔だ!」
「テラ王妃の優しさが、俺たちを人として扱ってくれた! 逃げるな! 竜の王の背中を護れ!」
リヒターの通信が途切れる直前、数百人の兵士たちが、まるでリヒターの魂の叫びに同調するかのように、自らの外骨格の安全装置を解除した。
「総帥に続け! 我ら人類軍の誇り、自爆特攻で証明する!」
「王の優しさこそが真の力だ! 奴らの無機質な論理に、俺たちの命の熱量をぶつけるぞ!」
数百の魔導外骨格が同時に制御不能な爆弾と化し、天竜族の群れへ向かって最後の突進を開始した。彼らの魔力炉は、自らの肉体を光の粒子へと変えながらも、天竜族を道連れにするという狂気の論理を貫いた。
天竜族の無機質な光線が、彼らの肉体を次々と光の粒子へと変えていく。壮絶な血の舞いが砂漠に広がる中、リヒターは、その散っていく仲間たちの魂の叫びを力に変えた。
「王よ! この装甲をよく見ておけ! これは、ドワーフ族が提供した骨髄改変合金と、エルフ族が設計した予測演算回路、そして我々人類の魔導工学が五年の歳月をかけて完成させた、絆の結晶だ!」
「人類の知恵が、竜族の力を護る盾となった証だ! 貴様らのユニゾンだけが力ではない! 我々人類の貢献は、貴様が信じた通り、最強の力だ! 貴様がこの力を未来で使いこなすのだ!」
リヒターは、自らの命を犠牲にする「最後の授業」として、外骨格に蓄積された魔力と、天竜族の光線を同時に吸収した。魔導外骨格は、神のエネルギーとリヒターの魂の力が、そして散った兵士たちの生命エネルギーが融合し、制御不能な爆弾と化す。
「我が武人の魂よ! 爆ぜろぉぉぉッ!」
リヒターは、燃えるような笑顔を浮かべ、自爆の道を選んだ。
ドオオオオオオン!!!
凄まじい爆発が砂漠を揺るがし、天竜族の先鋒隊を巻き込んで光の粒子へと変えた。リヒターの肉体は、その光と共に霧散し、彼の武人の魂は、ヒカル王の理念という風に乗って、大地へと還った。
◇◆◇◆◇
爆心地から遠く離れた撤退ルート。盟約軍の兵士たちは、天を焦がす爆発の閃光と、司令部への通信が途絶えた事実に、静かなる絶望に襲われる。
「リヒター総帥……!」
磐石の守護龍テラは、大地が血を流すかのような悲鳴を上げた。彼女にとって、リヒターはユグドラと同じく、王の理念を支える人類側の最高の武人であり、その献身は母性的な愛の対象であった。
「あの外骨格部隊の奮闘……人間の力を超えていた。彼らの犠牲は、決して無駄にはしません!」
テラは、大地に跪き、リヒターの魂を受け継いだガイアと共に、撤退ルートへの防御結界をさらに強固に構築する。
不動の防衛将ガイアは、ユグドラの死に続き、人類側の武人の誇りを体現したリヒターの死に、涙を流す。
「リヒター総帥! 貴様の武人の誇り、このガイアが大地と共に継承する! 王を護る盾として、俺は絶対に屈しない!」
彼の重厚な防御は、悲しみと怒りを力に変え、天竜族の追撃を物理的に食い止める。
そして、司令部で撤退ルートを護衛していたシリウス(15歳、生徒会長)は、通信機を握りしめたまま、立ち尽くしていた。リヒターは彼にとって、武人としての厳しさと誇りを教えた師であった。
「……嘘だろ。総帥……」
シリウスの瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
リヒターの最後の言葉。「シリウス! 貴様は王の命を護れ! これが、私の最後の授業だ!」が、少年の脳裏に焼き付く。
「――リヒター総帥、爆散……! 人類連合軍、左翼より崩壊を始めました!」
悲痛な報告が響く中、シリウスは師の最期を目の当たりにし、その場に崩れ落ちていた。
「嫌だ……嘘だ、リヒター師匠! まだ、何も教わってない……ッ!」
だが、戦場は少年の涙を待ってはくれない。指揮系統を失った人類兵たちは、神族の圧倒的な威圧感の前に、じりじりと後退を始めていた。
の時、背後から静かな、しかし有無を言わさぬ声が響いた。
「総員、怯むな! 崩壊した左翼は我ら竜族が埋める。不動の防衛将ガイアの名において命じる。盾を掲げよ、友の死を無駄にするな!」
ガイアの剛毅な号令が、パニック寸前の兵士たちの正気を繋ぎ止める。
ヒカルは、愛剣を握りしめながらガイアを見据えた。
「ガイア。これより人類混成軍の全指揮権をお前に委ねる。種族を超えた絆を、十五年かけて築いてきたお前にしか、この軍は託せない」
「……御意。王よ、この命、リヒターの遺志と共に捧げましょう」
ヒカルは頷き、次にまだ震えているシリウス、そして冷静に状況を分析しようと努めているユリウスへと視線を向けた。
「シリウス、ユリウス。お前たち二人はこれより、ガイア閣下の『幕僚』に入れ」
「えっ……? でも、父上……僕たちはまだ……」
戸惑うユリウスを、ヒカルの鋭い視線が射抜く。
「甘ったれるな! だが、責任を負うのはガイアだ。お前たちは戦場の泥を、兵の痛みを、その目で見てこなければならない。ユリウス、お前はレオーネの知恵を継ぎ、人類軍の軍師として閣下を支えろ。シリウス、お前はフレアとシエルの力を継ぎ、連絡幕僚として最前線を駆けろ」
ヒカルは二人の肩に手を置いた。それは王としての命令であり、一人の父親としての切実な願いだった。
「王の子としてではなく、一人の士官候補生としてだ。リヒターが命を懸けて守ったこの軍が、どう動いているのか、しかと学んでこい」
悲しみが、少年を総司令官の役割へと駆り立てた。シリウスの瞳には、師の死という重い現実を乗り越え、王の息子として、そして次世代の指揮官として、王の命を護り抜く揺るぎない決意の炎が宿っていた。
盟約軍は、アウラ(知恵)とリヒター(武力)という二つの大きな柱を失い、絶望的な敗北を喫した。しかし、その犠牲は、次世代の魂に、王の理念を継承させるという、新たな光を灯したのだった。
【第167話へつづく】