7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
統一王国の王都『調和の』。リヒターとアウラの壮絶な犠牲の後、ヒカルは撤退を完了し、司令部で戦力再編の緊急会議を開いていた。
最高戦略官アクア、深海の戦術師シエル、そして人類側摂政レオーネ皇女が、リヒターの残した対神兵器の青写真と、アウラの「論理破壊ウィルス」の残滓を解析している。
「アウラ様のウィルスは、敵の指揮系統を一時的に麻痺させましたが、神のシステムの猛烈な自己修復が始まっています。猶予は長くありません」
シエルが冷静に報告するが、その瞳は、師の論理を継承できずにいることへの悔しさで揺らいでいた。
その時、特別解析室の全魔力解析盤、そしてヒカルの持つ通信水晶が一斉に、高周波のノイズを上げた。ノイズはすぐに収束し、澄んだ、しかし歪んだ男性の声が響き渡った。
『久しぶりだな、ヒカル』
司令部の空気が一瞬で凍りついた。その声の主は、ヒカルが憎悪を乗り越え、魔王軍との戦いで討ち滅ぼしたはずの仇敵――カイン・グリムウッドだった。
「まさか、カイン!? 馬鹿な、貴様は魔王城で消滅したはずだ!」
ヒカルは反射的に剣に手をかけるが、カインの魔力は、物理的な空間ではなく、解析盤のデータと通信回線の中から響いていた。
『フン。貴様のユニゾンは強力だったが、私の知恵はそう簡単に滅びぬよ、ヒカル。貴様が私を討つ直前、私の意識は魔王のシステムを構成する「データの海」へとバックアップしていた。そして、今、私はカイン・グリムウッドという存在の記憶を受け継いだ、神のプログラムに巣食う「悪性ウィルス」のようなデータ体だ』
カインの言葉は、ヒカルが築いた世界の常識を根底から揺さぶるものだった。
「な、なんだと? データ体だと? 貴様は、肉体を失いながら、そのような形で存在し続けているというのか!? 古代の技術でも、そんなことが可能だったとは……」
ヒカルは、カインの非物理的な存在論に強い戸惑いを見せた。彼の理解を超えた、常識外の論理だった。
『フン。貴様のいう「古代の技術」では無理だ。だが、魔族や、この世界の全てを統べる神たちのシステムそのものが、私というデータ体を存在させ続けている。私は過去のカインと同一の記憶を持つが、もはや肉体に縛られぬ、神のプログラムを利用する「別の存在」だ』
「貴様が、アウラの仕掛けた論理破壊ウィルスを逆利用したのか!」
アクアが激しく動揺する。彼女にとって、カインは論理的な敗北をもたらした最大の屈辱の象徴だった。
『逆利用? 違うな、水の竜姫よ。アウラという「神の失敗作」が、私という「人類の狂気」を神のに呼び込んだ。感謝すべきは私の方だ。貴様らのいう「神のシステム」とは、私にとっては最高の遊び場だった』
カインは、ヒカルの心を抉るように言葉を続ける。
『貴様は、私を討ち、憎悪という毒を世界から排除したつもりだろう。だが、私の憎悪は、神の論理という巨大な脅威を前に、「生存の論理」へと昇華した。私の知恵こそが、貴様らの脆弱な愛のユニゾンを、勝利へと導く「究極の知恵の盾」となる。そして、その知恵を使い、私なりの理想の世界を構築するには、最も力を持ち、私の論理と対等に渡り合える貴様の存在が不可欠だ。……ヒカル。私の頭脳を借りろ』
カインからの提案。それは、憎悪と裏切りを繰り返した仇敵の頭脳を借りるという、ヒカルの倫理的な葛藤を再び突きつけるものだった。
◇◆◇◆◇
ヒカルは、通信機をアクアとシエル、レオーネへと渡し、静かに問いかけた。
「アクア、シエル。この提案を、戦略的にどう判断する?」
シエルは、冷静に解析盤を操作し、カインのデータが天竜族のネットワークに及ぼす干渉の論理的価値を弾き出した。
『王よ。カインのデータは、今や神のシステムの「内部情報」を知り尽くしています。彼の知恵を借りることは、論理的に見て、戦局を五分に引き上げる唯一の手段です。悔しいですが、倫理的な問題はありますが、戦略的勝利のためには、彼の頭脳は不可欠な資産です』
アクアもまた、冷静な理性で、その結論の残酷な合理性を認める。
「論理的には、シエルの言う通りでしょう。ですが、王よ! 彼に情報を開示することは、私たちの愛と築き上げてきた全てを、彼の憎悪に晒すことを意味します! 彼の目的は常に、王の愛を否定することにあるのですよ!」
レオーネは、アクアの感情的な訴えを静かに受け止めた後、現実的な論理を展開した。
「王よ。カインという存在は、もはや人間としての感情よりも、プログラムとしての論理に支配されています。彼の要求する協力は、現在の盟約軍にとって、リヒター総帥とアウラ殿の犠牲を無駄にしないための、唯一の現実的な選択です。彼の頭脳は、今、神のシステムに対する最強の武器となる。私もシエルさんと同じ意見です」
ヒカルは、アクアの感情的な愛と、シエルの論理的な忠誠の葛藤を受け止めた。
「俺は、カインの心など信じない。だが、その頭脳は人類の知恵だ。この世界を護るため、どんな手でも使う」
ヒカルは、再び通信機を手に取った。
「カイン。貴様を信じるわけではない。だが、貴様の知恵は、この世界を護るために必要だ。……貴様の目的を達成するための、条件を提示しろ」
カインの歪んだ声が、通信回線を通じて、勝利を確信したように響いた。
『フン、話が早くて助かる。私の目的は、貴様の愛の論理が、どこまで「冷徹な知恵」を扱えるか、見届けることだ』
ヒカルは、カインが再び自分を試していることを悟った。彼の愛のユニゾンが、どこまで非情な手段を受け入れられるか。
「貴様が望むものは何だ? 憎悪か、それともこの世界の支配か?」
カインの声は、愉快そうにノイズを立てた。
『私が望むのは、貴様の「愛の論理」の限界を見ること、ただそれだけだ。互いに利用し合おう、ヒカル。貴様が私を信じる必要などない。......それに、半分竜となった貴様に、人類の心や献身が真に理解できるのか、見てみたいものだ』
カインの鋭い揺さぶりに、アクアが感情を露わにした。
「黙りなさい、カイン! 王の愛は、人間であるかどうかを超えた、この世界全ての命を包む光です! あなたの歪んだ論理に、王の心を測れると思わないで!」
「アクア様、感情的にならないで。私たちは、彼の思惑に踊らされる必要はありません」
アクアの反論に対し、レオーネは静かに、しかし優しく彼女の肩に触れた。
『私の協力の条件は一つ。「レオーネ皇女」との対話だ』
カインの要求は、ヒカルの隣に控えるレオーネ皇女に向けられた。彼女はカインの元同僚であり、兄レオナルドの妹という、人類側の最も理知的な献身を体現する女性だ。
『貴様では、私の知恵を理解できぬ。レオーネ皇女の献身と、人類の未来を護るという、その論理的な愛国心こそが、私と対話できる唯一の人間だ。ヒカル。彼女を、私の戦略的パートナーとせよ』
カインの要求は、レオーネ皇女の知性と献身を、戦略的な軸とすることを意味していた。
レオーネは、静かに一歩前に出た。彼女の瞳には、かつての裏切り者への警戒と、人類の未来を護るという強い使命感が宿っていた。
「王よ。カインの要求を受け入れましょう。彼の論理は、我々の目的達成のための最高の道具です。私が彼の知恵を制御し、逆に利用してみせます。私の知恵を、カインの頭脳を制御するための『鎖』としてお使いください。カインの論理は、私の論理でしか打ち砕けません。彼の要求を、受け入れるべきです」
ヒカルは、レオーネの覚悟を受け止め、静かに決断した。
「分かった。カイン。貴様の頭脳を借りよう。そして、レオーネ皇女との対話を許可する。ただし、貴様の憎悪が、一瞬でもこの城にいる誰かに向けられた瞬間、この王が、貴様のデータ体を、世界の理から永遠に消去する」
『ハハハハ! 楽しみだな、ヒカル! 貴様の愛の論理が、どこまで非情な知恵を振るえるか、見届けてやろう!』
カインとの最悪の共闘が、ここから始まる。
【第170話へつづく】