7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
統一王国の王都、。
ヒカルがレオーネ皇女をカインとの対話役、すなわち「カインの知恵の制御装置」とすることを決断した後、司令部は重苦しい沈黙に包まれた。
かつて世界を憎悪で染め上げ、ヒカルを陥れた元凶であるカイン。その彼を、神に対抗するためとはいえ「味方」として受け入れるという決断は、ヒカルを愛する者たちにとって、生理的な嫌悪と猛烈な拒絶反応を引き起こすものだった。
特に露骨な嫌悪感を示したのは、ヒカルの背後に控えていた王室メイド長リリアだった。
彼女は普段の穏やかな微笑みを完全に消し去り、蒼白な顔で震えていた。彼女にとってカインは、かつて自分をマインドコントロールし、愛するヒカルを自らの手で殺させようとした、悪夢そのものだからだ。
「ヒカル様……。あの男は、貴方を裏切り、世界を混乱させただけではありません。私の心に土足で踏み入り、貴方への愛を利用して……貴方を殺させようとしたのです」
リリアの声は、恐怖と怒りで掠れている。
「あの男の言葉は、すべてが毒です。協力など……魂を売り渡すのと同じです」
その言葉に、磐石の守護龍テラが静かに、しかし重々しく同意した。彼女は大地を踏みしめ、不快感を隠そうともしない。
「リリア殿の言う通りです。よ。カインは、わらわたちが築き上げてきた『信頼』と『絆』を根底から嘲笑う存在。リヒター殿が命を賭して守ろうとしたこの国に、あのような穢れた裏切り者のデータを招き入れるなど……大地の理が拒絶反応を起こしております」
テラにとって、カインはリヒターを殺した直接の敵ではない。しかし、リヒターのような武人が守ろうとした「高潔な精神」の対極にいる存在として、生理的に受け入れ難いのだ。
純白の調和聖女ルーナもまた、痛ましげに胸を押さえた。アウラを失った悲しみが癒えぬ彼女にとって、カインの邪悪な波長は耐え難いノイズだった。
「ヒカル様……。カインの心には、光がありません。あるのは、自分以外の全てを見下す冷たい暗闇だけ。あのような存在と回線を繋ぐだけで、私たちの『愛の調律』まで汚染されてしまいそうです……」
人類側の信仰を代表するシルヴィアも、ルーナの言葉に深く頷いた。かつて聖女アリアを死に追いやった元凶の一端でもあるカインに対し、彼女の信仰心は激しい拒絶を示している。
「王よ。カインは人類の信仰を『支配の道具』として利用しました。彼の論理は、人の心から希望を奪い、絶望を植え付けるものです。彼の手を借りることは、私たちが掲げる『優しさの秩序』を根底から揺るがしかねません」
その一方で、闇の特務機関を率いる深淵の孤高竜姫ヴァルキリアと、その補佐シェイドは、冷徹な視線で状況を見据えていた。
「フン……。光の連中は騒がしいな」
ヴァルキリアは腕を組み、不快げに鼻を鳴らす。
「だが、同感だ。私もカインの『闇』を評価しない。奴の闇は、孤高や静寂といった美しいものではなく、ただひたすらに粘着質で、他者をコントロールしようとする汚濁だ。……私の美学に反する」
シェイドが、影から静かに補足する。
「賛同します、姉さま。諜報の観点から見ても、カインは危険すぎます。奴は情報を『共有』する気などない。常に『独占』し、相手を操るための餌にする。……手を組むにしても、背中にナイフを突きつけ続ける覚悟が必要です」
疾風の遊撃竜姫セフィラは、珍しく不機嫌そうに宙を浮いていた。彼女の自由な翼が、カインの名前を聞いただけで重くなったかのように。
「あーあ、最悪。団長、あいつだけはヤだよ。だってあいつ、『自由』が大嫌いなんだもん」
「その通りです、セフィラ様」
物流総監ゼファーが、溜息混じりに同意する。
「カインの戦略は常に『盤上の支配』。不確定要素や自由意志を徹底的に排除し、全てを自分のシナリオ通りに動かそうとする。……私たち風の民とは、水と油以上に相性が悪い相手です」
技術のボルタと知識のイリスだけは、「使えるデータなら何でも使う(ボルタ)」「論理的に合理的であれば感情は挟まない(イリス)」と、特に意見を持たずに沈黙していたが、それ以外のほぼ全てのメンバーが、カインという存在に対して強いアレルギー反応を示していた。
そして、紅蓮の激情竜姫レヴィアは、単純明快に激怒していた。
「ふざけるな! あの男は、我の夫を『裏切り者』に仕立て上げ、殺そうとした張本人よ! 生かしておくだけでも腹立たしいのに、力を借りるですって!? 我の炎で、再びデータごと焼き尽くしてやるわ!」
司令部は、カインへの拒絶反応一色に染まっていた。
しかし、ヒカルは苦渋の表情を浮かべながらも、その決断を覆さなかった。
「みんなの言い分は痛いほどわかる。俺だって、あいつを許したわけじゃない。……だが、感情論で神には勝てない」
ヒカルは、通信機越しにレオーネ皇女と視線を交わす。
人類代表であるレオーネは、カインを重用した帝国の元皇女であり、彼に国を滅ぼされかけた被害者の一人でもある。その彼女が、唇を噛み締めながらも「利用する」ことを選んでいるのだ。
「毒を以て毒を制す。……アウラも、そう判断したはずだ」
ヒカルの言葉に、ルーナとソルニアがハッとして顔を上げた。アウラの遺志。その言葉だけが、彼女たちの拒絶を辛うじて押し留める鎖となった。
ヒカルは視線を巡らせる。そこには、大人たちの深刻な対立を、不安そうに見つめる子供たちの姿があった。
【第171話へつづく】