7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
大人たちがカインとの共闘を巡って紛糾する司令部の片隅。
年端のいかない次世代の子供たちは、張り詰めた空気を敏感に感じ取り、身を寄せ合っていた。
「……父上たちが、あんなに揉めるなんて」
クロノス(12歳/闇)が、壁に寄りかかりながら呟く。
「カイン……。歴史の授業で習った、父上を陥れた悪い人だよね」
ミスティ(6歳/闇)が、兄の袖を掴む。
彼ら子供たちにとって、カインは「過去の教科書に出てくる悪役」でしかなかった。だが、親たちのこの反応は、それが単なる過去の話ではないことを物語っていた。
「ねえ、リオ兄ちゃん。カインって、そんなに嫌な奴なの?」
リベル(7歳/風)が、無邪気な瞳で尋ねる。リオ(8歳/風)は、腕組みをして難しい顔をした。
「ああ。が言ってた。『あいつは自由を履き違えた、一番タチの悪いストーカーだ』って」
「ストーカー? ……ふうん、よくわかんないけど、パパをいじめる悪いやつなんだね」
リベルはそう言うと、壁際で暗い顔をしているクロノスの元へとトコトコ歩み寄った。
「ねえ、クロノスお兄ちゃん」
リベルはクロノスのマントの裾をきゅっと掴んだ。
「お兄ちゃん、怖い顔してる。……カインが怖いの?」
クロノスは一瞬驚いたように目を見開き、すぐにフンと鼻を鳴らして視線を逸らした。
「……まさか。僕は闇の眷属だぞ。恐怖などない」
「うそだ。だって、手がぎゅってなってるもん」
リベルは無邪気にクロノスの固く握りしめられた拳を指差す。
「……こ、これは、武者震いだ」
「ふふ、お兄ちゃんは強がりだなぁ」
リベルはニコッと笑うと、クロノスの拳を両手で包み込んだ。
「大丈夫だよ! もし悪いやつが来ても、リベルの風でお兄ちゃんを守ってあげるから!」
「……は? 逆だろ。年下の、しかも女の子に守られてどうする」
クロノスは呆れたように言うが、その耳は微かに赤くなっていた。
「いいの! だって、私はクロノスお兄ちゃんのことが大好きだもん! 騎士様は私が守るの!」
「……お、おいっ、声が大きい!」
クロノスは慌てて周囲を見回すが、リベルの手を振り払おうとはしなかった。その掌から伝わる小さな温もりが、張り詰めていた彼の心を少しだけ解きほぐしていく。
その横で、ユリウス(13歳/人)は、じっと大人たちの会話を聞いていた。彼はレオーネの息子として、カインという存在が母やに与えた傷の深さを、誰よりも理解していた。
「……毒を飲む覚悟、か」
ユリウスは、自分の万年筆を強く握りしめた。
「父上は、この国を守るために、一番嫌いな相手と手を組むんだ。……僕たちが、しっかりしなきゃ」
「ユリウス君……」
ソイル(12歳/土)が、心配そうにユリウスの手を包み込む。
「大丈夫。私たちがついてるよ。大人の毒が回ってきたら、私たちが浄化してあげるの」
「……ああ、そうだね」
その少し離れた場所では、ライオス(13歳/炎)が腕を組み、不機嫌そうに壁を睨んでいた。その隣には、シズク(11歳/水)とマリン(11歳/水)の双子が並んでいる。
「気に食わねぇな。あんな声だけの奴に、父上が頭を下げるなんてよ」
ライオスが吐き捨てるように言う。
「感情的にならないで、ライオス兄さん。父様は頭を下げたわけではありません。……利用すると決めたのです。これは、高度な政治的判断です」
シズクは眼鏡を直しながらそう言ったが、その声は少し震えていた。
「シズク、お前だって本当は怖いんだろ? 無理すんなよ」
ライオスがぶっきらぼうに言いながら、ちらりとシズクを見る。その視線には、幼馴染への不器用な気遣いが滲んでいた。
「……怖くなどありません。私は、論理的に状況を分析しているだけです」
シズクは顔を背けたが、その耳は微かに赤くなっていた。ライオスに心を読まれたような気がしたからだ。
その二人の様子を、双子の妹であるマリンが静かに見つめていた。
「お兄ちゃん、大丈夫だよ。パパもママたちも強いもん。それに……」
マリンは一歩踏み出し、ライオスの腕にそっと手を添えた。
「お兄ちゃんが守ってくれるんでしょ? 私たちのこと」
マリンは上目遣いでライオスを見つめる。その瞳には、隠しきれない好意と信頼が宿っていた。
「お、おう! 当たり前だろ! 俺の炎で、カインだろうが何だろうが焼き払ってやる!」
ライオスはマリンの真っ直ぐな視線に少し照れながらも、力強く答えた。しかし、すぐに視線をシズクに戻す。
「シズクもだ。お前の計算高い頭脳は頼りにしてるけどよ、危なくなったら俺の後ろに隠れてろ。……守ってやるから」
「……余計なお世話です。でも……計算に入れておきます」
シズクはツンとした態度を崩さないが、その表情は少しだけ和らいでいた。
マリンは、ライオスの視線が常にシズクに向いていることに気づき、小さく胸を痛めた。
(お兄ちゃんは、いつもお姉ちゃんばっかり……。私だって、お兄ちゃんのこと……)
しかし、マリンはすぐに笑顔を作り、二人の間に入った。
「うん! 私たち三人なら、最強だもんね! バグでも何でも見つけちゃうよ!」
「おう! 任せとけ!」
「……ええ。私たちの連携なら、論理的に勝率は高いです」
ライオスを中心とした微妙な三角関係。だが、今はその想いよりも、迫りくる脅威への不安と、互いを守ろうとする絆が勝っていた。
「でも……リリアさんが震えてる。あんなの、初めて見た」
ライオスの指摘に、シズクもマリンも黙り込み、視線を大人たちの方へと戻す。
子供たちの視線は、大人が背負う苦悩と、未来への希望、その両方を映し出していた。
「最悪の共闘」という決断は、次世代の竜たちに、「愛を護るためには、時に清濁併せ呑む強さが必要である」という、苦い現実を突きつけていた。
ヒカルは、リリアの震える肩を抱き寄せ、そして子供たちに視線を送った。
(見せてやるさ。毒すらも飲み干して、未来の糧にする王の姿を)
ヒカルは再び通信機のスイッチを入れた。
「……カイン。聞こえているな。交渉成立だ。ただし、勘違いするなよ。これは共闘ではない。……『相互利用』だ」
『ククク……。それでいい、ヒカル。その歪んだ顔が見たかった』
通信機から響くカインの嘲笑は、王都の空に広がる不気味なノイズと重なり、新たな波乱の幕開けを告げていた。
【第172話へつづく】