7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
王都『調和の座』に、ヒカル王が消失したという絶望が、重い霧のように立ち込めていた。
紅蓮の激情竜姫レヴィアの檄によって、辛うじてパニックは収まったものの、全軍の指揮系統は寸断されたままだ。最高戦略官アクアと後方司令官シエルが必死に情報の再構築を試みているが、神のシステムによる通信妨害と、前線の混乱は極限に達していた。
「前線からの報告が途絶えています! 第3防衛ライン、維持困難!」
「負傷兵の収容が追いつきません! テラナ様、防御結界の補強を!」
王城の作戦会議室。かつてない混乱の中、一人の男が重厚な足音を響かせ、中央の席に着いた。
不動の防衛将、ガイアだ。
彼は、かつてのリヒター総帥の遺志を継ぎ、人類混成軍を統率してきた歴戦の武人である。その巨躯から放たれる圧倒的な安定感は、揺らぐ会議室の空気を一瞬で鎮めた。
「静粛に願います!」
ガイアの低い声が響き渡る。
彼は玉座を見上げ、そこに主がいない事実を噛み締めた後、円卓に集まった六龍姫たちに向き直り、片膝をついて深々と頭を下げた。
「王妃の皆様。王不在の今、このガイアに軍事指揮の全権をお預け願いたい」
ガイアの言葉に、レヴィアが眉を吊り上げた。
「ガイア。貴様、王の代わりを務めるつもりか?」
「滅相もございません」
ガイアは顔を上げ、揺るぎない瞳でレヴィアを見つめ返した。
「王の代わりなど、誰にも務まりません。ですが、王妃様方はそれぞれの『愛の義務』を果たすため、全力を注がねばなりません。レヴィア様は士気の維持を、アクア様は戦略の再構築を、テラ様は結界の維持を。……現場の指揮という『泥仕事』は、この武骨な盾にお任せください」
アクアが眼鏡を直し、冷静に分析する。
「なるほど、論理的に……妥当です。私たちが個別に部隊を動かすよりも、人類軍や獣人族とも関わりの深いガイア殿に統帥権を一元化し、私たちはそれぞれの専門分野で全力を出す方が、生存確率は上がります」
テラもまた、慈愛に満ちた瞳で頷いた。
「ガイア。わらわの背中を、貴方に預けます。王が戻る場所を、死守してください」
「感謝いたします」
ガイアは立ち上がり、戦況図を指し示した。その背中には、リヒターから受け継いだ人類軍の誇りと、竜族の将としての責任が重くのしかかっていた。
「全軍、へ移行せよ。無駄な突撃は許さん。我々の目的は、王が帰還するまでの『時間』を稼ぐことだ。一人も死なすな。生きて、王を迎えるのだ!」
「「「御意!!」」」
ガイアの号令が、動揺していた兵士たちの魂に火を灯した。
「我らが守るのは王の命だけではない! 王の愛したこの国だ!」
「ガイア将軍に続け! 鉄壁の盾となれ!」
人類、竜族、獣人、エルフ、ドワーフ。種族の垣根を超えた混成軍が、ガイアという巨大なを中心に、再び強固な一枚岩となって結束した。
◇◆◇◆◇
総司令就任の直後、ガイアは二人の若者を呼び出した。
爆炎龍将軍フレアの息子、シリウス。
そして、人類側摂政レオーネ皇女の息子、ユリウスだ。
二人は、父や母から受け継いだ才能を既に開花させつつあったが、実戦の指揮経験は浅い。ガイアの前に立つ二人の顔には、を失った悲しみと、重責への不安が入り混じっていた。
「シリウス、ユリウス。前へ」
「はっ!」
ガイアは、岩のような手で二人の肩を叩いた。
「お前たちを、私の直轄幕僚に任命する」
「えっ……!?」
シリウスが目を見開き、ユリウスが息を飲む。
「そ、総司令! 僕たちはまだ士官学校を出たばかりです! そのような大役は……」
「無理です! 他に経験豊富な将校が……」
「黙れ」
ガイアが一喝する。
「経験など、戦場で積めばいい。私が求めているのは、過去の実績ではない。未来を切り開く『覚悟』だ」
ガイアは、シリウスの瞳を覗き込んだ。そこには、父フレア譲りの熱い正義感と、母シエル譲りの冷静な判断力が同居している。
「シリウス。お前には『現場指揮』を任せる。最前線で兵の痛みを知り、その命を背負え。父のような猪突猛進ではなく、母のような冷徹さだけでもない。お前だけの『守るための戦い』を見つけろ」
次に、ユリウスに向き直る。彼の瞳には、母レオーネ譲りの知性と、父ヒカルへの深い尊敬が宿っている。
「ユリウス。お前には『作戦参謀』を任せる。カインの冷徹な論理と、王の温かい理想。その狭間で苦悩しろ。そして、誰も見捨てない『王道の戦略』を導き出せ」
ガイアは、二人を抱きしめるようにして言った。
「王の子としてではなく、一兵卒として泥を啜れ。血と汗に塗れろ。……それが、次代を担うお前たちへの、私からの最初で最後の教育だ」
「……はいッ!!」
「承知いたしました、総司令!」
二人の少年の瞳から、迷いが消えた。
親の威光に守られた「子供」ではなく、一人の「武人」としての覚悟が決まった瞬間だった。
◇◆◇◆◇
その日の午後。王都の北門付近で、小規模な戦闘が発生した。
天竜族の別動隊が、手薄な防壁を突破しようと強襲を仕掛けてきたのだ。
「敵襲! 数は三十! 防壁が持ちません!」
「シリウス隊、出撃! ユリウス、指示を!」
初陣だ。
シリウスは、震える手で剣を握りしめ、最前線へと飛び出した。
「怯むな! 盾を構えろ! 僕が先頭に立つ!」
シリウスの剣が、炎と蒸気を纏って天竜族を薙ぎ払う。BPI強化された彼の力は、既に一般兵を凌駕していた。だが、敵の数が多い。
「シリウス、右翼が薄い! 3番隊を回して!」
後方から、ユリウスの通信が入る。彼は震える指で戦術盤を操作し、カインの思考パターンを応用した最適解を弾き出していた。
「敵の狙いは一点突破だ! 誘い込んで、側面から叩く! 『』!」
「了解! 3番隊、展開!」
シリウスの武勇と、ユリウスの知略。二つの才能が噛み合い、劣勢だった戦局が覆る。
天竜族の別動隊は、若き双星の連携の前に孤立し、各個撃破されていった。
「やった……! 勝ったぞ!」
「撃退した!」
兵士たちの歓声が上がる。初めての勝利。
シリウスとユリウスは、泥だらけの顔を見合わせて笑い合おうとした。
しかし、その視線の先で、一人の兵士が力尽き、倒れ込むのが見えた。
「おい! しっかりしろ!」
シリウスが駆け寄るが、兵士の体は冷たくなっていた。カインの論理に基づき、囮として配置された部隊の生き残りだった。
「……ごめん。ごめん……!」
シリウスは兵士の手を握り、涙を流した。勝利の代償。命の重み。
ユリウスもまた、唇を噛み締めて立ち尽くしていた。
「僕の采配が遅れたから……。もっと早く、気づいていれば……」
これが、戦争。
教室でのシミュレーションとは違う、生々しい現実。
二人は、勝利の喜びよりも深く、重い「指揮官の業」を、その魂に刻み込んだ。
「泣くな、とは言わん」
いつの間にか、ガイアが後ろに立っていた。
「その涙を忘れるな。失われた命を背負って、それでも前へ進むのが、上に立つ者の義務だ」
「……はい」
「……覚悟は、できています」
シリウスとユリウスは、涙を拭い、顔を上げた。
その表情は、出撃前とは明らかに違っていた。少年の幼さが消え、戦士の、そして指揮官の顔つきになっていた。
「よし。……行くぞ。戦いはこれからだ」
ガイアと若き双星。
世代を超えた絆が、王不在の戦場に新たな希望の灯火を点そうとしていた。
【第174話へつづく】