7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
ガイア総司令のもと、人類混成軍が防衛円陣を固め、必死の抵抗を続けている最中、戦場の南側から地鳴りのような咆哮が響き渡った。
「グオオオオオッ!!」
砂煙を巻き上げ、突撃してきたのは、屈強な獣人たちの軍勢だった。
先頭を行くのは、かつてガイアと拳を交えた『族』の獣王ヴォルグ。
「待たせたな、竜の戦友よ! 我ら獣人族、盟約に従い助太刀致す!」
ヴォルグだけではない。彼の背後には、これまで中立を保っていた、より好戦的で獰猛な部族たちの姿があった。
鋭い牙と俊敏な動きで戦場を駆ける『族』。
しなやかな筋肉と暗殺術ごとき隠密性を備えた『族』。
巨体と怪力で敵を粉砕する『族』。
多種多様な獣人たちが、それぞれの特性を活かした武器を手に、天竜族の群れへと雪崩れ込んでいく。
「ヒャハハハ! 神の兵器だか何だか知らねぇが、食いちぎってやるぜ!」
餓狼族の族長、隻眼のガルフが双剣を振るい、天竜族の硬質な装甲に斬りかかる。
「遅い。貴様らの動きは、止まって見える!!」
黒豹族の女族長、シャカが影のように背後へ回り込み、関節部分へ毒の短剣を突き立てる。
これまでの戦いでは見られなかった、野性的で予測不能な攻撃の数々。
画一的な動きしかしない天竜族にとって、獣人たちの変幻自在な戦法は、計算外の脅威となった。
「ヴォルグ殿! 恩に着る!」
ガイアが叫ぶと、ヴォルグは豪快に笑い飛ばした。
「礼には及ばん! ヒカル王は我らの友だ! その友が危機に瀕している時、牙を研がぬ獣はいない! それに、あの可憐な『ソイル様』の涙を、これ以上見たくはないのでな!」
ヴォルグの言葉に、後方で治療にあたっていたソイルが顔を上げた。
◇◆◇◆◇
獣人族の参戦により、戦線は膠着状態から反撃へと転じようとしていた。
だが、神のシステムは甘くはなかった。
『脅威度上昇。殲滅モード、レベル2へ移行』
天竜族の背部ハッチが開き、そこから無数の小型飛行ユニットが射出された。
それらは雨あられと地上へ降り注ぎ、無差別な爆撃を開始する。
「ぐあああっ!」
「ひるむな! 散開しろ!」
爆発の中、一人の獣人の少年兵が逃げ遅れ、瓦礫の下敷きになっていた。 部隊からはぐれたのか、モグラ族の志願兵だ。まだ幼さの残る顔立ちだが、手にはしっかりと武器を握っている。 迫りくる天竜族の無機質な足音が、彼に近づく。
「いけない……!」
ソイルは、反射的に飛び出していた。
「ソイル様! 危ない!」
テラナの静止も間に合わない。
ソイルは少年兵の元へ滑り込み、その体を抱きしめた。
「ッ!!」
彼女の叫びと共に、地面から堅牢な土壁が隆起し、二人を覆うドームとなる。
ドォォォォン!!
直後、天竜族の光線が土壁に直撃した。
激しい衝撃がソイルを襲う。
「うぅっ……!」
障壁に亀裂が走る。BPI強化されたソイルの防御力でも、神の兵器の直撃には耐えきれない。
だが、彼女は決して障壁を解かなかった。
「痛くないよ……大丈夫だよ……」
震える少年兵の頭を撫でながら、ソイルは必死に魔力を注ぎ続ける。
かつて、獣人族の子供に拒絶された記憶。
「弱者の情けなど不要」と言われた言葉。
それでも、彼女は諦めなかった。
(痛みを知ることが強さなら……。私は、その痛みを分かち合う強さが欲しい!)
「種族なんて関係ない! 痛みはみんな同じよ!」
ソイルの叫びが、ひび割れた土壁を通して戦場に響く。
その献身的な姿は、戦っていた獣人たちの心を強く打った。
「あの方を見ろ! 竜の姫が、我らの同胞を命懸けで守っているぞ!」
「我らが引くわけにはいかん! 守れ! 姫を、若き戦士を守るんだ!」
餓狼族や黒豹族の戦士たちが、ソイルの周りに壁を作るように集結する。
しかし、敵の数は多すぎる。包囲網が狭まっていく。
「くっ……! もう、魔力が……!」
ソイルの意識が遠のきかけた、その時。
「ソイル!!」
一陣の風と共に、一人の少年が空から舞い降りた。
ユリウスだ。
彼は、まだ未熟な飛翔魔法を無理やり使い、ソイルの元へ駆けつけたのだ。
「ユリウス君……!」
「君は僕が守る! !」
ユリウスが杖を掲げると、ソイルの土壁の外側に、幾重もの光と風の障壁が展開された。
レオーネ譲りの知性と、アウラから学んだ術式理論を組み合わせた、即興の複合防御魔法だ。
帝国皇族の血筋が持つ、潜在的な魔力操作能力が、彼の知略を形にする力となっていた。竜族には及ばぬものの、その緻密な魔力構築は、人の身で到達しうる魔法の極致とも言える輝きを放っていた。
ガガガガガッ!!
天竜族の攻撃が、多重障壁に阻まれて弾かれる。
だが、その反動はユリウスの華奢な体に直接跳ね返った。
「ぐっ……うぅ……!」
口の端から血が流れる。
「ユリウス君! ダメ、君は体が弱いのよ! 無理しないで!」
ソイルが泣き叫ぶ。
しかし、ユリウスは血を拭い、ニカっと笑った。
「平気さ。……男の子だからね」
「それに、君との約束だ。……君が守ると決めたものは、僕の知恵で必ず守り抜く」
幼い頃、図書館で交わした約束。
「君の体は私が守る」
「君の未来は僕が叶える」
互いを想い合う心が、二人の魔力を共鳴させる。土の守護と、知恵の障壁。
二つの力が混ざり合い、強固な要塞となって戦場に屹立した。
ソイルは、目の前で必死に障壁を支えるユリウスの背中を見つめた。
いつもは本の虫で、体力もなくて、自分が守ってあげなきゃいけないと思っていた男の子。
けれど今、彼は誰よりも頼もしく、傷つきながらも自分を守ってくれている。
その横顔は、いつの間にか少年のそれから、一人の男性のものへと変わっていた。
(……かっこいい。私、また好きになっちゃったかも)
ソイルの胸が、戦場の恐怖とは違う種類の、甘く激しい鼓動で高鳴る。
「おおお……! 若き獅子たちの勇姿を見よ!」
ヴォルグが咆哮する。
「これこそが、我らが求めた真の強さだ! 全軍、あの二人を死守せよ! 我らの未来を、決して消させはせん!!」
獣人族の怒涛の反撃が始まった。
ソイルとユリウスを中心とした防衛拠点は、決して揺らぐことのない希望の灯火となり、戦線を押し返していく。
戦火が少し遠のいた一瞬の隙に、ヴォルグが豪快に笑いながら二人に近づいてきた。
「ガハハハ! いやあ見事な連携だったぞ、竜の姫よ! 以前会った時は泣き虫なお嬢ちゃんかと思ったが、立派な雌の顔になったもんだ!」
ヴォルグは、未だに強く握りしめられている二人の手と、互いを見つめ合う熱っぽい視線を交互に見て、ニヤリと牙を剥いた。
「なんだ、我の息子を婿にやろうかとも思っていたが……すでに『いい人』がおるのではないか!?」
「えっ……!?」
「あ、あの、これは……!」
ヴォルグの指摘に、ユリウスとソイルは弾かれたように手を離した。
二人の顔は、戦場の炎よりも赤く染まり、耳まで真っ赤になっている。
「ち、ちちち、違います! これは戦術的な魔力供給のための接触であって……!」
ユリウスが早口で言い訳をするが、動揺で杖を取り落としそうになる。
「そ、そうだよ! ユリウス君は幼馴染で……その、守ってあげなきゃいけない対象で……!」
ソイルも両手をブンブンと振って否定するが、その視線はユリウスから離せないままだ。
「ガハハハ! 若いというのは良いものだな! その熱さがあれば、魔族ごときに遅れはとらんわ!」
ヴォルグの豪快な笑い声が、戦場の緊張を和らげる。
二人は恥ずかしさで爆発しそうになりながらも、再びそっと手を繋ぎ直した。
その手は震えていたが、決して離れることはなかった。
幼い恋心が、確かな絆となって、戦場に奇跡の花を咲かせた瞬間だった。
【第175話へつづく】