徒然とはいかない喫茶いしかわの日常
今日は久々に、環と出かけられるゆかりは朝からうきうきしていた。
お互いの買い物などを済ませ、ゆかりひとりではちょっと敷居の高さを感じてしまう、アフタヌーンティーが評判の品の良いお店の個室に入った。
いかにもな三段の食器に並んでいる一口大のサンドイッチや細工の見事なケーキ、マカロンなどは見ているだけでときめいて、何枚も写真を撮ってしまった。
ほんの少しの照れくささを見せながら、美味しいアフタヌーンティーに世間話のあれこれを口にのせる。
環がいたずらっぽい表情で口を開いた。
「そういえば、主人から聞きましたよ。毎年九月に旦那様から下着をプレゼントされてるって」
「あぁ、ふふっ。ええそうなの。九月にメンズバレンタインデーっていう日があって、その日に毎年。和樹さん、すごく張り切って選ぶのよ。そういえば何年か前に長田さんに、和樹さんが休憩時間に女性下着のサイトを穴が開くほど見つめてて心配してしまいましたよって苦笑交じりに言われたことあったわね」
「まあ、そうなんですね。今年はうちの主人がゆかりさんのご主人に『最愛の妻なら繋ぎ止めるための努力は当然だ』って下着のプレゼントをオススメされたらしくて。散々困り果てた顔で一緒に買いに行くかい? って言われましたよ」
「それはそれは。長田さんも環さんもいい迷惑ですよねぇ?」
「そんなことないわ。ついでにいろいろ買い揃えたから」
くすくす笑いながら顛末を教えてくれた環につられるように、ゆかりもくすくすと笑う。
「ちなみにゆかりさん、今年はどんな下着だったんですか?」
「それがねぇ……今年はなんと、サニタリーショーツのセットアップだったの」
「え。それはまた……珍しいですね」
「ですよねぇ。なんかね、和樹さんなりにいろいろ考えたり観察したりした結果らしいんですけど、サニタリー用品を使ってるときの私は下着にあまり気を遣えてないのがバレちゃって。気分や体調がすぐれないときも、好きな下着なら少しはテンションあがるでしょって」
「なるほど」
「というか、どうも本音はね、“僕としたことが、ゆかりさんが僕が選んでない下着を身に着ける期間がひと月に一週間もあるなんて!”だったみたい。気付けてなかった自分が悔しかったんですって」
環はちょっと困った表情をした後に、一言。
「さすがというか、愛されてますね」
「うふふ。彼、独占欲強くて過保護だから」
「……ああ、そう、ですね」
環もさほど長くない付き合いの中で何度も見たそれを思い出した。
「でも、最近のはまだ穏やかなほうですよ。昔は加減を知らなかったというか……長田さんが巻き込まれたとんでもエピソードは枚挙に暇がありません。わたしたち、環さんのご主人にはご迷惑かけっぱなしなんです」
そこからゆかりは、長田に世話になったエピソードをいくつも環に伝える。
環はほんの二時間ほどで、一週間分くらいの驚きと納得と笑いを体験した気がした。
じんわりと温かい気持ちになった環は、そのいくつかのエピソードの中に出てきた、ゆかりが安心して出産に臨めたという産院を紹介してもらおうと決めて口を開いた。