余、ダンジョンコアにつき侵入者には死んでもらう。 ~ゴブリン二十匹から始める最弱迷宮譚~
白砂が撒かれた。
迷宮の入口に、さらさらと。
乾いた音がした。
戻り水を疑う者が持ち込む、白い粉。
水が流れれば、砂が濡れる。
水が戻れば、砂の筋が崩れる。
血が逆流すれば、砂に赤い線が残る。
つまり人間どもは、戻り水を見るための目を持ち込んだ。
「……厄介だな」
《はい》
「厄介だぞ」
《はい》
「だが、向こうが自分で撒いたものだ」
《利用可能です》
「そういうことだ」
白い部屋の監視面には、調査侵入班の姿が映っていた。
人数は五人。
前衛一人。
盾持ち一人。
封迷技師見習い一人。
水音を測る小さな鐘を持った女が一人。
そして、若い測量士。
聖杭技師はいない。
だが、指示は残しているのだろう。
彼らの動きは前より慎重だった。
まず入口に白砂を撒く。
それから細い鎖を垂らす。
鎖の先には、小さな白い鐘。
水が動けば鳴る。
戻り水が逆流すれば、音が戻る。
そういう道具か。
「マネ」
「ギ」
「鐘の音を覚えろ」
「ギィ」
「本物より少し遅らせて鳴らせ。戻ったように聞かせるな。逆に、戻っていないように聞かせろ」
「ギ?」
「分からん顔をするな。余も少し分からん」
《説明します。実際の戻り水の音を隠し、通常水流のように偽装するという意味です》
「それだ」
「ギィ!」
マネが喉を震わせる。
ちりん。
ちりん。
白い鐘そっくりの音。
少し高い。
少し遅い。
マネは馬鹿ではない。
いや、ゴブリンなのでかなり馬鹿だ。
だが、音だけは覚える。
その一点では、余の配下の中でもかなり使える。
「影縫い大蜘蛛」
天井の奥で、巨大な脚が動いた。
「白砂を全部消すな。人間に見える程度に残せ」
糸が垂れる。
細い。
目に見えぬほど細い。
その糸が、白砂の一部を静かに拾い上げた。
足跡の端。
水の線の横。
進路を示すような筋。
残す。
消す。
残す。
消す。
それだけで、白砂の記録は嘘になる。
若い測量士が膝をついた。
「……砂が、変です」
来た。
やはり気づく。
前衛が苛立ったように言った。
「濡れていないだろう」
「濡れていないのに、筋が途切れています」
「風だ」
「洞内に風はありません」
盾持ちが周囲を見た。
「糸か?」
いい判断だ。
だが遅い。
カゲヌイが、白縫い針を構えた。
白砂の上に落ちた前衛の影。
その影の縁を、針が床下から縫う。
《砂戻しの影縫い、起動》
前衛の足が止まった。
「……あ?」
「どうした」
「足が、動かねえ」
前衛が足元を見る。
見るな。
見たな。
影縫いは、足を止めるだけではない。
止まった者は、足元を見る。
足元を見れば、視線が落ちる。
視線が落ちれば、天井を見ない。
「大蜘蛛」
影縫い大蜘蛛の糸が、すっと降りた。
前衛の首筋に触れる。
前衛が顔を上げようとした瞬間、盾持ちが叫んだ。
「上だ!」
盾が上がる。
糸は盾にかかった。
前衛は助かった。
「ちっ」
《失敗です》
「まだだ」
失敗ではない。
盾が上がった。
つまり、盾の留め具が見えた。
「赤錆噛み」
《待機中》
「盾持ちの左留めを噛め」
《了解》
壁裏の細穴から、赤錆色の小さな影が走った。
赤錆噛み。
灰噛みネズミから変質進化した、迷靄洞の小さな歯。
戦わない。
壊す。
盾の裏側。
白金具の留め。
ぎり。
ぎりぎり。
盾持ちは気づかない。
頭上の糸に意識を取られている。
若い測量士が叫んだ。
「盾を下げないで! 金具を確認――」
遅い。
留め具が外れた。
盾の左側が、がくんと落ちる。
その瞬間、前衛の影縫いが強まった。
カゲヌイの針が、二本目を刺す。
白砂の上に、黒い線が走る。
「足が!」
前衛の膝が折れた。
盾持ちが庇おうとする。
だが盾は傾いている。
その隙間へ、白灰這いが滑り込んだ。
数を減らしたばかりの白灰這い。
だから無駄には使わない。
狙うのは喉ではない。
足具の隙間。
湿灰を流し込む。
「ぐっ、足が熱い!」
「下がれ!」
封迷技師見習いが白い札を取り出す。
まずい。
白光系の簡易封じ札。
灰灯喰い蟲を出すか。
いや、まだ早い。
「マネ」
「ギ」
「鐘」
「ギィ!」
ちりん。
ちりん。
白い鐘の音が鳴った。
だが本物ではない。
マネの音だ。
女が持つ水音鐘が、その偽音に反応して揺れた。
「水が動いてる!」
「どこだ!」
「右――いえ、左? 違う、後ろ?」
音の位置が狂う。
女が振り返る。
封迷技師見習いも一瞬、札を構える手を止めた。
「今だ」
床下の灰灯喰い蟲が、一匹だけ出た。
幼蟲ではない。
生存していた成体。
白光を食える個体。
封迷技師見習いの札が光る前に、灰灯喰い蟲がその札の端へ飛びついた。
ちり、と白い火花が散る。
「蟲!」
封迷技師見習いが札を投げ捨てる。
灰灯喰い蟲は札ごと白光を吸い、腹を膨らませる。
限界まで使うな。
「戻れ」
《灰灯喰い蟲を床下へ退避》
灰灯喰い蟲は戻り水の湿りへ落ち、床下へ消えた。
よし。
今のは消耗ではない。
運用だ。
若い測量士は、戦闘中でも床を見ていた。
足跡。
白砂。
戻り水。
糸で消えた砂の筋。
彼は、息を荒くしながら呟いた。
「砂を……選んで消している」
「何だと?」
盾持ちが叫ぶ。
「水じゃない。糸です。水の流れを見せるための砂が、別の何かに触られている」
「なら焼け!」
「焼いたら、水の跡も消えます!」
いい。
揉めろ。
もっと揉めろ。
だが、若い測量士はすぐ判断した。
「砂を捨てます」
「は?」
「砂を信用するのをやめます。全員、鎖だけ見てください。足元は見ない。影を見ない」
「足元を見ずに歩けるか!」
「見たら止められます!」
こいつ。
本当に厄介だ。
「管理音声」
《はい》
「あいつ、やはり早めに殺すべきではないか」
《生かす方針です》
「今だけ方針を変えたい」
《保留対象です》
「余の声で余を止めるな」
だが、若い測量士を殺すには一手足りない。
奴は前に出ていない。
盾持ちと封迷技師見習いの間にいる。
糸も針も届くが、殺すには浅い。
なら、別の者を殺す。
「前衛を落とせ」
《影縫い継続中》
「湿骨兵」
横穴の奥で、骨が鳴った。
湿骨兵が、槍を構える。
魔力で派手に動かない。
封迷に強い。
物理で刺す。
前衛は影縫いで片膝をついている。
足具に白灰這いの湿灰が入り、踏ん張れない。
盾持ちは盾の留め具を壊され、守りがずれている。
今だ。
「刺せ」
横穴の薄壁が崩れた。
湿骨兵の槍が突き出る。
前衛の脇腹。
鎧の継ぎ目。
赤錆噛みが少し前に齧っていた留め具の隙間。
そこへ、骨槍が入った。
「がっ――!」
前衛が血を吐いた。
盾持ちが叫ぶ。
「引け! 引け!」
若い測量士が即座に鎖を投げる。
前衛の腕に絡め、後ろへ引こうとする。
助ける気か。
なら、その鎖も道具だ。
「赤錆噛み、鎖は噛むな」
《噛まないのですか》
「今は噛むな。引かせろ」
《了解》
前衛は引きずられる。
血が白砂に落ちる。
普通なら、奥へ流れる。
だが戻り水が、ほんの少しだけ動く。
血を奥へ行かせず、足元へ戻す。
若い測量士がそれを見る。
見てしまう。
彼の目が見開かれる。
「やっぱり、戻って――」
「言わせるな」
マネが叫んだ。
「うしろだ!」
声は若い測量士の声だった。
全員が一瞬、後ろを見る。
若い測量士本人も、反射的に振り返った。
その隙に、前衛の体を引いていた鎖へ、影縫い大蜘蛛の糸が絡む。
鎖が少しだけ持ち上がる。
角度が変わる。
前衛の体が横にずれた。
横穴の口へ。
湿骨兵の二撃目が入る。
今度は首。
骨槍が喉を抜いた。
《対象一名、死亡》
《ソウル獲得:二十二》
「よし」
余は短く言った。
派手に喜ぶな。
まだ終わっていない。
だが、殺した。
一人。
確実に。
ソウルが増えた。
迷宮が育つ。
前衛の死体を回収しようと、盾持ちが前に出る。
若い測量士が叫んだ。
「死体を置いて下がって!」
「仲間を置いていけるか!」
「死体を餌にされています!」
その通りだ。
だが、人間は死体を置けない。
前にも見た。
死体は重い。
心にも、腕にも。
「グズ」
入口側で、グズが棍棒を持ち上げた。
「出るな。ただ吠えろ」
「グオオオオオオッ!」
通路が揺れた。
ただの咆哮。
だが、入口側から大型の魔物が来るように聞こえる。
盾持ちが焦る。
「挟まれるぞ!」
若い測量士が首を振る。
「違う、音だけ――」
マネが続けた。
「グオオオオオオッ!」
グズの声を、少し遠くから。
さらに別方向から。
音が増える。
若い測量士の判断が、一拍遅れた。
その一拍で十分だった。
影縫い大蜘蛛の糸が、死体の足へ絡む。
死体を少しだけ奥へ引く。
盾持ちは反射的に掴みに行く。
白砂の上に、盾持ちの影が伸びる。
カゲヌイの針が、その影を縫った。
「しまっ――」
盾持ちの足が止まる。
封迷技師見習いが叫ぶ。
「札を使います!」
「使うな、蟲が来る!」
女が水音鐘を鳴らす。
ちりん。
今度は本物の音だ。
その音に、マネが偽音を重ねる。
ちりん。
ちりん。
ちりん。
本物と偽物が混じる。
水の位置が分からない。
音の戻りが分からない。
若い測量士だけが、耳を塞いだ。
「音を捨てて!」
こいつは毎回、捨てる判断が早い。
砂を捨てる。
音を捨てる。
死体を捨てろと言う。
人間らしさより、生存を選び始めている。
……少し、ロードに近い。
「嫌な奴だ」
『似てる?』
フィルエの声が混じった。
「似ていない」
『そう?』
「似ていない!」
盾持ちを殺せるか。
影縫いで足は止めた。
盾の留め具は壊れている。
死体を掴もうとして、体勢が前へ傾いている。
湿骨兵の槍は届く。
だが、封迷技師見習いが今度こそ札を構えている。
灰灯喰い蟲を出せば吸える。
だが、さっき一度使った。
二度目は警戒される。
ここで追跡者か。
いや、まだ早い。
追跡者は第二層の奥で使う。
逃げ道を覚えさせ、封鎖線の歪みを追わせるために。
「……いや」
余は気づいた。
逃げ道。
今、奴らは逃げようとしている。
封迷箱で固定された外縁。
戻り水で濡れた床。
白砂で記録された足跡。
影縫いで止めた一瞬。
これ全部、追跡路になるのではないか。
「灰刃追跡者」
奥で、灰色の刃が鳴った。
《投入しますか》
「まだ姿は見せるな。封鎖線の歪みだけを読め」
《実戦記録に接続》
灰刃追跡者が、刃を床へ当てた。
封迷箱の白い圧が残した線。
戻り水が乱した線。
白砂の上に残った足跡。
影縫いで止まった影。
それらが、刃に映る。
灰色の刃の上に、細い白線が浮かんだ。
《灰刃追跡者、追跡路補正開始》
「行け」
姿は見せない。
だが、追跡の圧だけが走る。
通路の奥から、ぞわりと冷たいものが流れた。
盾持ちが振り返る。
「何か来る!」
若い測量士が青ざめた。
「違う……来てない。まだ来てない。でも、追われてる」
分かるのか。
厄介だ。
だが、恐怖は入った。
盾持ちが死体を離した。
前衛の死体が床に落ちる。
よし。
「死体を回収」
《白灰這い残数が少ないため、アンデッドゴブリンを使用しますか》
「使え」
通路脇から、アンデッドゴブリンが這い出た。
死んだゴブリンが復活した魔物枠。
鈍い。
臭い。
だが、死体を引きずるには十分。
前衛の死体に群がり、奥へ引く。
盾持ちが叫ぶ。
「返せ!」
戻ろうとした。
若い測量士が、盾持ちの腕を掴んだ。
「行ったら死にます!」
「仲間が!」
「もう死んでます!」
冷たい言葉だった。
だが正しい。
盾持ちの顔が歪む。
その怒りが、迷宮に向いた。
「この、くそ迷宮が……!」
「来い」
余は呟いた。
「怒れ。足元を忘れろ」
盾持ちが一歩踏み込む。
白砂の筋が途切れた場所。
影縫い大蜘蛛がわざと残した空白。
そこに足を置く。
床が沈む。
落とし穴ではない。
浅い。
ただ、足首まで。
そこへ戻り水が流れ込む。
湿灰。
蟲殻。
血。
足が滑る。
盾持ちの体が崩れる。
カゲヌイの針が影を縫う。
湿骨兵の槍が、盾の隙間から突き出る。
胸。
浅い。
致命傷ではない。
「足りぬ」
余は歯噛みした。
殺しきれない。
封迷技師見習いが、ついに札を発動した。
白い光が広がる。
灰灯喰い蟲を出すか。
いや、距離が悪い。
蟲が焼ける。
「戻り水を止めろ」
《停止》
湿りが引く。
白光が水面に反射せず、床へ吸われる。
その代わり、床下の蟲分巣を守る。
盾持ちは負傷したまま、若い測量士に引かれて下がる。
逃げる。
ここで追うか。
「灰刃追跡者」
灰色の刃が、また鳴る。
《追跡路補正、継続》
「一歩だけ追え」
《姿を露出します》
「一歩だけだ」
通路の奥に、落武者の影が現れた。
割れた兜。
灰の刃。
白い封鎖線の歪みを刃に宿した追跡者。
その姿を見た瞬間、調査班の全員が固まった。
盾持ちが呻く。
「何だ、あれ……」
若い測量士が震える声で言った。
「見ないで。逃げて」
灰刃追跡者が、一歩だけ進んだ。
たった一歩。
だが、その一歩は封迷箱で固定されたはずの通路の線を踏み越えた。
封じられた道。
縛られた外縁。
歪んだ白線。
それを、追跡路として読んだ。
《条件達成》
《灰刃追跡者、能力拡張》
《新能力:封線追い》
「封線追い」
《封迷箱・白杭・測量線などにより固定、歪曲された通路情報を追跡路として利用可能》
「つまり、人間が道を縛るほど、追える」
《限定条件下で可能》
灰刃追跡者の刃に、白い線が刻まれた。
進化ではない。
完全な別名になるほどではない。
だが、確かに強くなった。
封じられた道を追う刃。
封鎖線を、逃げ道ではなく追跡路に変える魔物。
いい。
非常にいい。
「今日はそこまでだ」
灰刃追跡者は止まった。
追わない。
追えると見せる。
それだけでいい。
調査班は逃げた。
前衛の死体を置いて。
盾持ちを負傷させたまま。
白砂も、鎖も、鐘も、一部を置き去りにして。
《敵調査班、撤退》
《死亡一名》
《重傷一名》
《獲得ソウル:二十二》
《回収物:白砂袋一、測水鐘一、細鎖二、封迷札破片》
《損耗:白灰這い一体損傷、灰灯喰い蟲一体軽度膨張、赤錆噛み損耗なし》
「悪くない」
《はい》
「いや、よい。今回はよい」
余は監視面を見た。
前衛の死体が、アンデッドゴブリンに引きずられていく。
白砂は影縫い大蜘蛛の糸に絡め取られている。
測水鐘はマネが興味津々で覗き込んでいる。
「食うなよ」
「ギ」
「鳴らすなよ」
「ギィ」
「絶対に鳴らすなよ」
ちりん。
「おい!」
白い部屋の床に、新しい記録が刻まれた。
⸻
新規罠:
《砂戻しの影縫い》
概要:
白砂による水流検知を逆利用し、砂跡を蜘蛛糸で改竄。足元を確認する侵入者の影をカゲヌイが縫う。
追加連携:
・マネによる測水鐘偽音
・赤錆噛みによる盾留め具破壊
・湿骨兵による横穴刺突
・戻り水による血痕逆流
・灰刃追跡者の封線追い
⸻
さらに、別の文字が浮かぶ。
⸻
灰刃追跡者
能力拡張:《封線追い》
封迷箱や白杭によって歪められた通路情報を、追跡路として読む。
⸻
「封じれば封じるほど、追われるか」
《相手にとっては厄介です》
「余なら二度と入りたくない」
《侵入者側の感想ですね》
「だが、あいつらはまた来る」
《はい》
若い測量士は生きて帰った。
戻り水。
砂の改竄。
影縫い。
追跡者。
多くを見た。
だが、全部は見せていない。
灰灯喰い蟲の分巣の本当の位置。
赤錆噛みの走路。
カゲヌイの針路。
第二層の奥。
そして、灰刃追跡者がまだ一歩しか進んでいないこと。
『ロード』
フィルエの声がした。
『若い測量士、たぶん次は報告を分けるよ』
「どういう意味だ」
『一つはギルドに出す報告。もう一つは、聖杭技師にだけ渡す報告』
「ますます面倒だな」
『でも、迷ってる』
「何を」
『死体を置いて逃げたこと』
余は少し黙った。
人間は死体が重い。
心にも、腕にも。
若い測量士は正しい判断をした。
だが、その正しさは人間の中では痛みになる。
「……使えるな」
『悪い顔してる』
「顔はない」
『でも悪い』
「なら、よい」
余は監視面の奥を見た。
灰刃追跡者が、置き去りにされた前衛の死体の前で止まっている。
その刃に、まだ白い封鎖線が残っている。
追跡者は、死体を斬らない。
ただ、見ている。
逃げた者の匂い。
鎖の跡。
白砂の乱れ。
戻り水に濡れた血。
それらを覚えている。
「次に来た時」
余は静かに言った。
「若い測量士の前で、追跡者を走らせる」
《殺害しますか》
「まだだ」
《では》
「選ばせる」
殺される側でいるか。
迷宮に読まれる側でいるか。
それとも――
「迷宮のために記録する側へ回るか」
白い部屋が静まり返った。
マネの測水鐘だけが、小さく鳴った。
ちりん。
今度は、止めなかった。
その音は、次の獲物を呼ぶ鈴のようだった。