余、ダンジョンコアにつき侵入者には死んでもらう。 ~ゴブリン二十匹から始める最弱迷宮譚~
黒い羽のような影が、壁に揺れていた。
羽そのものではない。
影だ。
白い壁に、黒い羽根が何枚も張りついているように見える。
それは揺れ、伸び、縮み、時折、鳥の形にも見えた。
暁鴉の。
黒弓使いネイザが率いるAランクパーティ。
その名を、迷宮が真似ているようだった。
ベルグが双斧を握り直す。
「趣味が悪いな」
ネイザは、壁の影を見たまま答えた。
「こちらを狙っている」
「だろうな」
サラナは死んだ。
トーマも死んだ。
暁鴉の弦で残っているのは、ネイザとベルグだけ。
光砂術師も、薬師も、もういない。
視界を開く光もない。
迷宮干渉を鈍らせる薬もない。
残ったのは、弓と斧。
遠くを射抜く者と、近くを砕く者。
アレクは白銀の剣を構え、静かに言った。
「無理に前へ出るな」
ベルグが鼻で笑う。
「前へ出るしか能がねえんだよ、俺は」
「なら、三歩までだ」
ネイザが言った。
ベルグは顔をしかめる。
「お前までそれか」
「サラナが死んだ理由を忘れたか」
ベルグの表情が固まった。
忘れるはずがない。
サラナは、光路を繋ぐために死んだ。
トーマは、その道を開くために死んだ。
リンドは、帰路の裂け目を見つけるために死んだ。
ガルドスは、仲間を通すために残った。
エリシアは、氷の道を最後まで維持して死んだ。
この迷宮では、一歩が命を取る。
ベルグは奥歯を噛み、低く言った。
「分かってる」
ネイザは頷いた。
その声は、いつも通り低く冷たい。
だが、アレクには分かった。
ネイザも怒っている。
ただ、その怒りを矢の先へ細く絞っているだけだ。
調査隊三人は、二人の後ろにいた。
査定官マルク。
魔力盤技師リーゼ。
浄化鑑定官オルフェン。
彼らはもう、完全に護衛に頼るしかない。
マルクは記録板を抱えている。
リーゼの魔力盤は半分壊れている。
オルフェンの祈祷布は黒く汚れ、白い部分の方が少なくなっていた。
それでも、彼らはまだ生きている。
そして、そのことがアレクの足をさらに重くしていた。
◇
回廊の奥で、羽の影が動いた。
ふぁさ。
ハイハネの羽音。
だが、姿は見えない。
上か。
奥か。
壁の向こうか。
ネイザは弓を引いた。
「――」
矢を放つわけではない。
弓弦を軽く鳴らす。
低い音が白い回廊に広がり、霧の中で反響する。
ネイザは、その反響で空間の形を読む。
弓手でありながら、音で敵を探る技。
視界を奪う霧への対策として、彼が磨いてきたものだ。
音が返る。
壁。
床。
天井。
霧。
そして、何か大きな羽。
右上。
いや、右上に見せかけて、奥の反響が薄い。
「奥だ」
ネイザが矢を番える。
「黒弓技――」
黒い矢が、音のない速度で放たれた。
霧を抜け、壁の影を突き破り、その奥へ飛ぶ。
ふぁさ。
羽音が乱れた。
当たった。
完全ではない。
だが、ハイハネの羽の端を裂いた。
《灰霧追導蛾ハイハネ、羽部軽傷》
白い部屋で、管理音声が告げる。
「やはり、あの弓手は危険だ」
余は壁面のネイザを見た。
「姿を見せていないハイハネへ届かせたか」
《音響反響による位置特定と思われます》
「厄介だな」
フィルエの声がした。
「ネイザ、冷静。サラナとトーマが死んでも、狙いがぶれてない」
「だから先に殺す」
「ベルグは?」
「ネイザが死ねば、あれは揺れる」
「うん。たぶん、すごく揺れる」
ベルグは怒りを力へ変えるタイプだ。
ネイザは怒りを絞るタイプだ。
残すならベルグ。
先に折るならネイザ。
「ハイハネを下げろ」
《灰霧追導蛾ハイハネ、遠隔霧制御へ後退》
「カゲヌイ、羽影を増やせ。ネイザに撃たせろ」
《実行》
白い壁の羽影が増えた。
一枚。
二枚。
十枚。
百枚。
壁一面が、黒い羽の影で埋まっていく。
そのどれかに本物の霧の流れがある。
どれかは偽物。
どれかは影針。
どれかは白磁根の前触れ。
ネイザはそれを見て、表情を変えなかった。
「増やしてきた」
ベルグが言う。
「撃てるか」
「全部は無理だ」
「なら?」
「本命だけ撃つ」
ネイザは三本の矢を指に挟む。
息を止める。
回廊が静かになる。
羽影が揺れる。
霧が流れる。
戻り水が床下で鳴る。
その中で、ひとつだけ影の揺れと霧の流れが噛み合っていない場所があった。
ネイザの目が細くなる。
「そこだ」
三本の矢が放たれる。
「黒弓技――」
一本目が羽影を裂く。
二本目がその奥の影針を撃ち落とす。
三本目が、隠れていた白磁根の芽を貫いた。
罠が不発に終わる。
ベルグが笑った。
「相変わらず気味悪い目だ」
「褒め言葉として受け取る」
「褒めてる」
そのやり取りの直後、床が鳴った。
かた。
湿骨軍列ではない。
もっと小さい音。
薄い骨。
矢だ。
骨でできた矢が、壁の羽影から飛び出した。
ネイザの矢を真似たような軌道。
ただし、狙いはネイザではない。
リーゼの魔力盤。
「っ!」
ネイザが即座に矢を放つ。
骨矢を撃ち落とす。
だが、二本目が来る。
三本目。
四本目。
壁の羽影から、次々に骨矢が飛ぶ。
ネイザはそれを撃ち落とし続ける。
彼の矢筒の矢が減る。
減る。
減る。
トーマがいれば、補助薬で射撃速度を上げられた。
サラナがいれば、光で射線を固定できた。
だが、今はネイザ一人だ。
それでも撃つ。
リーゼを守るため。
魔力盤を守るため。
記録を守るため。
「ネイザ、矢は!」
アレクが叫ぶ。
「残り九」
「下がれ!」
「下がれば、盤が割られる」
ネイザは冷静に答えた。
骨矢を撃ち落としながら。
「外へ持ち帰る情報が減る」
ベルグが吠えた。
「なら俺が前に出る!」
「三歩までだ」
「分かってる!」
ベルグが走る。
一歩。
二歩。
三歩。
そこで双斧を振るう。
「双斧技――!」
斧の旋風が壁の羽影ごと骨矢の発射点を砕く。
白磁壁が割れ、影が散り、骨矢の雨が一瞬止まる。
だが、ベルグは三歩で止まった。
止まったからこそ、霧に呑まれなかった。
ネイザが短く言う。
「よし」
「偉そうに」
「偉いからな」
その瞬間、軍帰路喰らいの落武者が現れた。
ベルグの背後ではない。
ネイザの正面。
灰白の刃を構え、音もなく。
「ネイザ!」
アレクが叫ぶ。
ネイザは弓を引く。
矢は残り六。
落武者が斬るのは肉ではない。
帰路。
射線。
目的。
ネイザは、それをもう知っている。
だから、彼は矢を一本だけ放たなかった。
三本同時でもない。
連射でもない。
弦を引き絞ったまま、待つ。
落武者の刃が動く。
その刃が、ネイザの射線を喰おうとした瞬間。
ネイザはあえて矢を放たなかった。
射線が存在しない。
喰うものがない。
落武者の刃が、ほんの一瞬だけ空を切る。
「――」
次の瞬間、矢が放たれた。
射線を作る前に、矢そのものが影の中を飛ぶ。
落武者の兜を撃ち抜いた。
灰白の兜が砕ける。
落武者が一歩下がる。
《軍帰路喰らいの落武者、頭部損傷》
白い部屋で、余は目を見開いた。
「今のは何だ」
《射線を形成せず、発射直前まで意図を消す技と思われます》
「帰路喰らいの干渉を逆手に取ったか」
《はい》
「Aランクめ」
面白い。
そして、危険だ。
ネイザは、落武者の性質に対応した。
帰路だけではない。
射線を喰う刃にも、対応した。
放っておけば、さらに読む。
「殺せ」
《実行》
◇
落武者が下がった瞬間、ネイザの背後で霧が割れた。
湿骨軍列ではない。
白磁根でもない。
小さなが、床に置かれていた。
いつの間にか。
ネイザは振り返らない。
「ベルグ、後ろ」
今度は本物のネイザの声だった。
ベルグが反応する。
だが、白灰匣は開かない。
箱の中から出たのは、音だった。
ごん。
銅鐘のような音。
に似せた、小さな残響。
本物ではない。
ガルザヴェインは出ていない。
だが、十万の魔物を導いた鐘に似た音は、それだけで人間の本能を揺らす。
リーゼが悲鳴を飲み込む。
マルクの手が止まる。
オルフェンの祈祷布が震える。
そして、ベルグが一瞬だけ固まった。
彼は戦場で、その鐘を遠くに聞いている。
ガルザヴェインが軍勢を動かした音。
蒼穹の楔を退けた魔神の音。
その似姿。
ネイザだけは、即座に動いた。
「偽物だ!」
彼は白灰匣へ矢を撃った。
箱が砕ける。
音が止まる。
だが、それが目的だった。
ネイザの矢は残り五。
さらに一本使わせた。
同時に、彼の意識を一瞬だけ背後へ向けさせた。
正面の落武者が、再び刃を構える。
影軍縫いカゲヌイの針が、ネイザの足元ではなく、彼の弓の影へ落ちた。
弓そのものの影を縫う。
ネイザが引こうとした弦が、わずかに重くなる。
「ちっ」
彼は力で引く。
引ける。
だが、半拍遅れる。
その半拍で、白い霧の上から骨矢が降った。
一本はアレクが斬る。
一本はベルグが砕く。
一本はネイザ自身が避ける。
最後の一本が、リーゼの魔力盤へ向かう。
ネイザは、それを見た。
撃てば、自分の防御が遅れる。
撃たなければ、魔力盤が壊れる。
彼は迷わなかった。
矢を放つ。
魔力盤へ向かった骨矢を撃ち落とす。
その瞬間、落武者の刃が動いた。
ネイザの帰路ではない。
射線でもない。
弓手としての間合い。
彼が次に矢を番えるための一呼吸。
それを斬った。
ネイザの動きが止まる。
ほんの一瞬。
そこへ、影針が彼の足を縫った。
さらに、床下から骨槍。
ベルグが叫ぶ。
「ネイザ!」
ベルグは三歩の制限を忘れて踏み出した。
一歩。
二歩。
三歩。
四歩。
霧が、彼と仲間の間に入り込む。
ネイザはそれを見た。
自分が助かるためにベルグが踏み込みすぎた。
このままでは、ベルグも分断される。
ネイザは残りの矢を全部抜いた。
四本。
指の間に挟む。
「ベルグ」
「黙ってろ!」
「戻れ」
「うるせえ!」
ネイザは、初めて少しだけ笑った。
「命令だ」
ベルグが止まった。
暁鴉の隊長としての声だった。
ネイザは四本の矢を同時に放つ。
「黒弓奥義――暁落とし(あかつきおとし)」
四本の矢が、それぞれ違う方向へ飛ぶ。
一つはベルグの前の霧を裂く。
一つは影針を断つ。
一つは落武者の刃を弾く。
最後の一つは、白い回廊の天井へ刺さり、黒い光を落とした。
黒い光が、ベルグの足元に道を示す。
戻る道。
ほんの数秒だけの、黒い鴉の道。
「戻れ!」
ネイザが叫ぶ。
ベルグは歯を食いしばり、戻った。
戻れた。
だが、ネイザはもう矢を持っていない。
足は縫われている。
弓の影も縫われている。
落武者が、目の前にいる。
ネイザは弓を構えた。
矢はない。
それでも構えた。
落武者の刃が、彼の胸を貫いた。
《Aランク黒弓使いネイザ、死亡》
《獲得ソウル:1,620》
《取得:黒弓奥義片、無射鴉の記録、暁落としの記録、射線喰い対応経験》
◇
ベルグの声は、言葉にならなかった。
獣のような叫びだった。
ネイザが霧の中へ崩れる。
黒い弓が床へ落ちる。
弦が一度だけ震えた。
暁鴉の弦。
その最後の弦が切れたような音だった。
「ネイザああああ!」
ベルグが突っ込もうとする。
アレクが肩を掴む。
「駄目だ!」
「離せ!」
「ネイザが戻れと言った!」
ベルグの目が血走る。
「戻ってどうする! サラナもトーマもネイザも死んだ! 俺だけ戻ってどうする!」
「記録を持ち帰る!」
「俺は記録のために生きてねえ!」
ベルグの魔力が荒れる。
怒り。
喪失。
しかし、アレクとは違う。
ベルグの怒りは、まっすぐ燃える。
周囲を焼き、己も焼く炎。
彼は双斧を構えた。
「暁鴉は終わった」
ベルグの声が低くなる。
「なら、俺はもう隊列を守らなくていい」
アレクが叫ぶ。
「ベルグ!」
「悪いな、鋼旗の隊長」
ベルグは笑った。
泣いているような笑いだった。
「俺は、そういう器じゃねえ」
彼は、霧の奥へ踏み込んだ。
完全に。
三歩を越えて。
隊列から離れて。
ネイザが死んだ場所へ向かって。
迷宮の罠だと分かっていても。
それでも進んだ。
白い部屋で、余は静かに言った。
「来たか」
《ベルグ、隊列離脱》
「殺せ」
◇
ベルグは止まらなかった。
湿骨軍列が前に出る。
骨槍が並ぶ。
ベルグは双斧を振るう。
「双斧技――岩割旋!」
骨槍が砕ける。
さらに前へ。
影針が足元へ落ちる。
ベルグは足ごと床を蹴り砕く。
「双斧技――!」
白磁床が割れ、影針が弾け飛ぶ。
戻り水が噴く。
ベルグは構わず進む。
白磁根が腕へ絡む。
彼は腕の皮ごと根を引き裂く。
「邪魔だ!」
力任せ。
だが、強い。
Aランク前衛の全力。
怒りで限界近くまで押し上げられた肉体。
彼はネイザの黒弓を拾った。
片手に双斧。
もう片手に、折れかけた黒弓。
弓手ではない。
使えない。
それでも、彼はそれを持った。
「返すぞ、ネイザ」
何を返すのか。
誰に返すのか。
自分でも分かっていないのかもしれない。
軍帰路喰らいの落武者が、彼の前に立つ。
ベルグは双斧を構えた。
「お前が殺したんだな」
落武者は答えない。
刃を構える。
ベルグが踏み込む。
「――き!」
斧が二本、同時に振り下ろされる。
重い。
速い。
そして、怒りで鈍いはずなのに、妙に正確だった。
落武者の刃が一本を受ける。
だが、もう一本が肩へ入る。
灰白の鎧が割れた。
《軍帰路喰らいの落武者、肩部損傷拡大》
ベルグは吠える。
もう一撃。
さらに一撃。
落武者を押している。
Aランク前衛としての膂力は、本物だ。
だが、彼は孤立している。
サラナはいない。
トーマはいない。
ネイザはいない。
誰も彼の視界を開かない。
誰も霧を散らさない。
誰も退路を示さない。
そして、怒りで前へ進む彼に、迷宮は後ろから触れた。
カゲヌイの影針が、ベルグの背後の影を縫う。
ほんの一瞬、踏み込みが止まる。
落武者の刃が、彼の帰る意思を斬る。
ベルグは笑った。
「帰るつもりはねえよ」
刃の効きが鈍る。
だが、その言葉こそ、迷宮の思う壺だった。
帰るつもりがないなら、帰路を喰う必要はない。
肉を殺せばいい。
床下から、湿骨軍列の槍が出る。
ベルグは一本を斧で砕く。
二本目を足で踏む。
三本目が脇腹を貫く。
彼は止まらない。
落武者へ斧を叩きつける。
四本目が背中へ。
五本目が太腿へ。
六本目が腹へ。
それでも、ベルグは落武者の兜へ斧を振り下ろした。
兜が割れる。
落武者が大きく後退する。
「ざまあ……みろ」
ベルグは血を吐いた。
そこへ、白磁根が黒弓を絡め取ろうと伸びる。
ベルグは怒鳴った。
「触るな!」
最後の力で、黒弓をアレクたちの方へ投げた。
弓は霧を抜け、アレクの足元へ滑った。
「持って、帰れ……!」
その声は、かすれていた。
ベルグは、双斧をもう一度構えようとした。
だが、腕が上がらない。
湿骨軍列の槍が、彼の胸を貫いた。
軍帰路喰らいの落武者の刃が、首を落とした。
《Aランク双斧使いベルグ、死亡》
《獲得ソウル:1,520》
《取得:双斧奥義片、暁砕の記録、怒戦の残滓》
◇
回廊が静かになった。
暁鴉の弦は、全滅した。
サラナ。
トーマ。
ネイザ。
ベルグ。
誰も戻らない。
残ったのは、血に濡れた光砂筒と、アレクの足元へ投げられた黒弓だけだった。
アレクは、黒弓を拾った。
何も言わなかった。
言える言葉がなかった。
ネイザとベルグは、別のパーティだった。
だが、ここまで一緒に来た。
同じ撤退路を探し、同じ霧に閉じ込められ、同じ死者の声を聞いた。
そして、死んだ。
マルクが、震える手で記録板を開いた。
⸻
暁鴉の弦、全滅。
サラナ:分断阻止のため光路維持。死亡。
トーマ:命瓶割により一時撤退路を確保。死亡。
ネイザ:射線喰いへ対応するも、弓を封じられ死亡。
ベルグ:単独突撃。軍帰路喰らいに損傷を与えるも死亡。
備考:
Aランクパーティ一組が、浅層から中層境界相当の撤退戦で壊滅。
迷宮側防衛機能、Aランク基準を超過。
⸻
マルクは、書きながら涙をこぼしていた。
だが、筆は止めなかった。
オルフェンが静かに祈る。
リーゼは声も出せない。
アレクは、白銀の剣と黒弓を持ったまま立っていた。
残ったのは、四人。
アレク。
マルク。
リーゼ。
オルフェン。
鋼旗の四剣も、アレク一人。
調査隊も、半分を失った。
アレクは言った。
「進む」
リーゼが震える声で聞く。
「どこへ……?」
アレクは、ベルグが投げた黒弓をマルクへ渡した。
「帰るために」
その声は、ひどく静かだった。
怒鳴ることも、泣くこともできないほど静かだった。
「彼らの記録を、持って帰る」
白い霧の奥で、迷宮が静かに呼吸していた。
白い部屋で、余はアレクを見ていた。
もう、残りは少ない。
だが、アレクはまだ折れていない。
むしろ、静かになった。
その静けさが、少しだけ不気味だった。
「次だ」
余は言った。
「調査隊を折る」
フィルエが、低く答えた。
「アレク、そろそろ危ない」
「分かっている」
だが、余はまだ知らない。
人間が、ここからどう変わるのかを。
ただ、白銀の剣が、霧の中で少しずつ冷たい光を帯び始めていることだけは見えていた。