余、ダンジョンコアにつき侵入者には死んでもらう。 ~ゴブリン二十匹から始める最弱迷宮譚~
魔神進軍鐘が鳴った。
ごん。
その音は、前回とは違っていた。
エリラの木の前で鳴った時は、守るための鐘だった。
赤金の実を背負い、動く場所を限られた魔神戦王が、己を奮い立たせる音だった。
だが今は違う。
ここは偽天猟庭。
本物のエリラの木から離れた、ロードが作った迎撃区画。
ガルザヴェインは、エリラの木を背負っていない。
木を傷つけないよう、拳の角度を選ばなくていい。
実に破片が飛ばないよう、咆哮を抑えなくていい。
この庭は、魔神戦王が暴れるために作られた。
白い花弁が黒く染まる。
重泥霧が低く沈む。
逆星骨が床下で鳴る。
反響喰いの薄膜が、ノアの呼吸を待つ。
連結焼きの火灰が、六人の繋がる瞬間を待つ。
そして中央に、ガルザヴェインが立っている。
「イヌ」
魔神戦王が、金色の目で六人を見た。
「マタ、キタ」
ロウエンは空糸を指に絡め、静かに答えた。
「ああ」
「トル?」
「取る」
「トラセナイ」
「なら、越える」
その瞬間、ドランが前へ出た。
前回、胸を裂かれた男。
魔神爪に肺を潰され、死の淵まで行った風壁師。
その胸には、まだ大きな傷跡が残っている。
けれど彼は笑っていた。
無理にではない。
恐怖を押し潰すためでもない。
もう一度、壁として立てることを確かめるような笑みだった。
「今度は簡単に割らせねえぞ」
ガルザヴェインが拳を握る。
「カベ」
「そうだ」
ドランが両腕を開いた。
「天蓋の壁だ」
ノアの骨拍が、六人の内側で小さく鳴る。
とん。
とん。
とん。
外へ響かない拍。
反響喰いの薄膜へ歌を渡さないための、声にならない歌。
ロウエンの帰猟線が、六人を薄く結ぶ。
強くは結ばない。
連結焼きの火灰を警戒している。
セラは右目を半分だけ開く。
偽星避の片眼鏡が、赤金の偽反応を濾す。
ミトは低く伏せ、ガルザヴェインの足の匂いを嗅ぐ。
アゼルは小天蓋を開かず、足元に伏星を沈める。
天蓋の猟犬は、前回と同じではない。
だが、迷宮も同じではない。
◇
白い部屋で、余は息を殺すように見ていた。
「ガルザヴェイン」
《契約線、接続安定》
「分かっているな」
「ワカッタ」
「一人だけを見るな。六人を見るな。六人が一つになる瞬間を殴れ」
「ツナガル、トキ、ナグル」
「そうだ」
「ロク、ヒトツ。ヒトツ、ワル」
「それでいい」
フィルエが森灰観測室から言った。
「ロード、庭がちゃんと動いてる」
「ああ」
「でも、猟犬も前より慎重」
「分かっている」
分かっている。
この戦いは、前回の続きではない。
互いに傷を覚え、対策を持ち寄った再戦だ。
ここで勝つ。
いや、ここで殺す。
エリラの実へ近づける前に。
◇
先に動いたのは、ガルザヴェインだった。
前回のように、相手の出方を待たなかった。
床を蹴る。
重泥霧が、魔神性に押し潰される。
白い庭石が割れる。
ガルザヴェインの巨体が、黒い弾丸のようにドランへ突っ込んだ。
「魔神拳――黒牙砕!」
黒い拳が、風壁へ叩き込まれる。
ドランは風壁を正面に立てなかった。
低い。
斜め。
薄い。
前回のような巨大な壁ではない。
「風壁術――斜犬盾!」
黒い拳が風壁に触れた瞬間、壁が横へ滑る。
衝撃を受けず、流す。
ガルザヴェインの拳がわずかに逸れる。
その横からミトが飛び込んだ。
「爪牙技――踵噛み!」
狙いは足首。
前回、彼女が入れた傷の場所。
だが、ガルザヴェインは見ていた。
足を上げない。
避けない。
逆に踏み込む。
ミトの爪が足首へ届く寸前、重泥霧がぐっと沈んだ。
「重い!」
ミトの足が、ほんの一瞬だけ遅れる。
その一瞬に、ガルザヴェインの膝が飛んだ。
ミトは腕を交差して受ける。
骨が軋む。
体が吹き飛ぶ。
だが、アゼルの伏星が彼女の背後で光った。
「伏星標――受星!」
星がクッションになる。
ミトの体が空中で止まる。
ノアの骨拍が二拍。
ミトの呼吸が戻る。
「まだ動ける!」
ミトは着地した。
だが、腕は痺れている。
ガルザヴェインはそれを見て笑った。
「マエ、ヨリ、ハヤイ」
「そっちもね」
ミトは牙を剥くように笑い返した。
◇
ロウエンの帰猟線が走る。
一本ではない。
細い糸がいくつも、ガルザヴェインの周囲へ散る。
直接縛らない。
前回のように、傷を結んで動きを鈍らせるだけでは足りない。
今回は、ガルザヴェインが次に動く空間を先に狭める。
「空糸技――猟場囲い」
見えない糸が、ガルザヴェインの周囲の空間へ刺さる。
右へ出れば肩が引っかかる。
左へ出れば足が遅れる。
前へ出れば、胸の傷に糸が触れる。
だが、偽天猟庭の重泥霧がその糸へ絡んだ。
空糸が、いつもより重くなる。
ロウエンの指に負荷がかかる。
皮膚が裂け、血が滲む。
「……重いな」
ロウエンは呟いた。
それでも糸を離さない。
ガルザヴェインは、囲われた空間を見た。
そして、拳を振るわなかった。
咆えた。
「魔神咆哮!」
黒い咆哮が、空糸へ向かう。
だが、ロウエンはそれを待っていた。
糸を一斉に緩める。
咆哮は空糸を焼けない。
代わりに、庭の壁へ当たる。
反響喰いの薄膜が震える。
その反響が、ノアの骨拍へ干渉しようとした。
ノアが顔をしかめる。
「反響を回してきた……!」
骨拍が一瞬乱れる。
そこで、連結焼きの火灰が赤く熱を持つ。
ロウエンの糸。
ノアの骨拍。
ドランの風壁。
三つが一瞬だけ強く繋がった。
熱が走る。
「切れ!」
ロウエンが叫ぶ。
ノアが拍を切る。
ドランが風壁を消す。
だが、間に合わない部分があった。
ロウエンの左手の指先が焼ける。
ノアの胸奥が焦げるように痛む。
ドランの風壁の残滓が赤く弾ける。
「っ……!」
ノアの膝が揺れた。
ミトが支えようとする。
しかし、ミトも腕が痺れている。
ガルザヴェインは、その揺れを見逃さなかった。
「ツナガッタ」
彼は低く言った。
「ソコ」
魔神戦王の拳が、ノアへ向かう。
ドランが割り込む。
胸の傷が痛む。
それでも前に出る。
「風壁術――犬門!」
壁が立つ。
しかし、重泥霧が壁を沈める。
ガルザヴェインの拳が、沈みかけた風壁ごとドランを叩いた。
どん、と鈍い音。
ドランの体が後退する。
胸の傷が開きかける。
ノアが反射で歌おうとする。
だが、歌えば連結焼きが来る。
彼女は歯を食いしばって、声を出さなかった。
代わりに、腰の小さな鈴を鳴らす。
ちりん。
治癒補助鈴。
声を使わず、短い振動だけで傷の開きを押さえる道具。
オルバが作ったものだ。
ドランの胸の出血が、ほんの少し止まる。
「助かる」
ドランが低く言った。
「まだ無理しないで」
「無理しないと潰される」
その会話の間にも、ガルザヴェインは迫る。
◇
アゼルが伏星を三つ踏んだ。
足元の星が連なり、ガルザヴェインの踏み込み先に小さな星の罠を作る。
「伏星術――星杭!」
床から、白い星の杭が突き上がる。
狙いは、ガルザヴェインの膝。
だが、逆星骨が床下で鳴った。
星杭の軌道が少しずれる。
これは迷宮側の逆星骨ではない。
アゼル自身が、逆星骨の反応を読んでわざとずらした。
星杭は、ガルザヴェインの膝ではなく、踏み込む寸前の足裏へ入った。
魔神の足が跳ねる。
「グ……!」
ガルザヴェインの体勢が崩れる。
ミトが低く走る。
「爪牙技――喉抜き!」
狙いは喉ではない。
魔神性の呼吸が通る、胸の白銀傷の下。
アレクが残した傷と、今回の戦闘で開いた黒い魔力の流れ。
セラが見つけた。
ミトが嗅いだ。
アゼルが足を崩した。
今なら入る。
ミトの短爪が、ガルザヴェインの胸へ触れた。
だが、ガルザヴェインは笑った。
「ソコ、シッテル」
胸の白銀傷が黒く光る。
闘傷成長。
アレクの傷は、もはやただの弱点ではない。
戦歴として、魔神性を蓄えている。
ミトの爪が入った瞬間、傷跡から黒い魔力が噴き出した。
ミトの腕が弾かれる。
皮膚が裂ける。
血が飛ぶ。
「っ!」
彼女はすぐに下がる。
だが、ガルザヴェインの爪が追う。
ロウエンの帰猟線が彼女の腰を引く。
セラが叫ぶ。
「上!」
アゼルの伏星がミトの足元で光る。
彼女は半歩上へ跳ぶ。
ガルザヴェインの爪が、空を裂いた。
だが、完全には避けきれない。
ミトの脇腹が浅く裂ける。
ノアの鈴が鳴る。
ちりん。
治癒は遅い。
歌ほど強くない。
だが、歌えば焼かれる。
天蓋の猟犬は、確かに追い詰められていた。
セラが右目を開く。
痛みが走る。
偽星幕の赤金がいくつも視界に刺さる。
だが、彼女はそれを無視した。
見ているのは、ガルザヴェイン。
魔神戦王の魔力の流れ。
傷。
足。
拳。
そして、守ろうとする方向。
「ロウエン」
「何だ」
「あいつ、前より自由。でも、まだ奥を守ってる」
「分かるか」
「分かる。動く時、必ず奥へ戻る線を残してる」
ロウエンの目が細くなる。
「そこを使う」
「うん」
ドランが笑った。
「やっぱり、守るやつは動きが読めるな」
「お前が言うと重い」
「壁だからな」
◇
白い部屋で、余はセラの言葉を聞いていた。
「読まれている」
《はい》
「ガルザヴェインが守ろうとする線を見られている」
《はい》
「偽天猟庭でも、奥を守る意識が出ているのか」
《ガルザヴェインはエリラの位置を認識しています。偽天猟庭内でも、防衛意識が本物方向へ残っています》
「まずいな」
フィルエが言う。
「ガルザヴェイン、ちゃんと守ろうとしてるから」
「それが読まれる」
「うん」
「なら、守る方向を偽る」
《可能です》
「偽星幕をガルザヴェインにも被せろ。奥へ戻る線を三つに増やす」
《実行》
偽天猟庭の赤金の星が、三方向へ揺れた。
ガルザヴェインの意識に、偽の守るべき方向を薄く重ねる。
本物は一つ。
だが、見た目には三つの守護線。
これでセラの読みを乱す。
ガルザヴェインが少しだけ眉をひそめた。
「ロード」
「混乱するな。本物は余が示す」
「ワカッタ」
「お前は、今は猟犬を殴れ」
「ワカッタ」
ガルザヴェインの魔神性が、さらに濃くなる。
◇
ガルザヴェインの動きが変わった。
奥へ戻る線が三つに増える。
右。
左。
正面奥。
セラが顔をしかめる。
「守る線が増えた」
ロウエンが言う。
「偽装か」
「たぶん。でも全部、薄く本物っぽい」
ミトが鼻を鳴らす。
「匂いも混ぜてる。嫌」
アゼルが小さく笑う。
「向こうも本気だね」
「笑ってる場合じゃない」
ノアの声は低い。
連結焼きの火灰を警戒して、彼女はまだ大きく歌えない。
ドランの胸も、ミトの腕も傷ついている。
ロウエンの指も焼けている。
セラの目も痛む。
アゼルの伏星も消耗している。
だが、彼らの心は折れていない。
むしろ、ガルザヴェインが強いほど、奥にあるものの価値が確かになる。
リーネを目覚めさせるかもしれない実。
それを守るために、Sランクの魔神戦王が立っている。
なら、取る価値はある。
命を賭ける価値がある。
「ロウエン」
セラが言った。
「一瞬だけでいい。右目を全開にする」
「負荷は」
「高い」
「その後は」
「しばらく見えなくなるかも」
「却下」
「見ないと抜けない」
「別の手を使う」
「ある?」
ロウエンは少し黙った。
その間にも、ガルザヴェインが来る。
拳。
風壁が受ける。
沈む。
ドランが耐える。
ミトが足を狙う。
弾かれる。
アゼルの伏星が踏み込みをずらす。
ガルザヴェインが爪で星を砕く。
ロウエンの空糸が肩へ入る。
重泥霧で重くなる。
ノアの骨拍が一拍だけ強くなる。
連結焼きが熱を持ちかける。
すぐに切る。
戦いが、細かく、重く、激しく続く。
ロウエンは、判断した。
「セラ、三呼吸だけだ」
「十分」
「見たら目を閉じろ」
「分かった」
「全員、セラを守る。三呼吸」
天蓋の猟犬の空気が変わった。
連携を薄くしていた六人が、再び一つへ寄ろうとする。
それを待っていたように、連結焼きの火灰が赤く熱を持つ。
だが、ノアが小さな鈴を三つ鳴らした。
ちりん。
ちりん。
ちりん。
歌ではない。
鈴の響きが、連携の芯を三つに分ける。
一本の強い繋がりではなく、三つの小さな輪。
連結焼きは強く燃えない。
「そんな対策まで……!」
余は白い部屋で叫びかけた。
しかし、見なければならない。
セラが右目を開く。
全開。
偽星避の片眼鏡が軋む。
赤金の偽星が、一斉に彼女の視界へ刺さる。
血涙が噴き出した。
「っ……!」
一呼吸。
セラは偽の守護線を切り捨てる。
右は違う。
左も違う。
二呼吸。
ガルザヴェインの足の重心を見る。
偽装しても、本当に戻ろうとする時だけ、体の芯がほんの少し違う。
三呼吸。
見えた。
「正面奥!」
セラが叫んだ。
そして右目を閉じた。
片眼鏡にひびが入る。
彼女の体が揺れる。
ノアが支える。
ロウエンがすぐに動く。
「全員、正面奥を抜く!」
ガルザヴェインが吠えた。
「トラセナイ!」
◇
ガルザヴェインが、初めて大きく前へ出た。
正面奥を抜かれる。
そこは偽天猟庭を越え、本物の深部へ向かう線。
まだエリラの木までは距離がある。
だが、方向は正しい。
守るために、魔神戦王は動かざるを得なかった。
その瞬間を、ロウエンは待っていた。
「今だ」
ドランが前へ出る。
胸の傷を無視して、風壁を張る。
ただし、守るためではない。
押すためでもない。
横へ逸らすため。
「風壁術――犬流し!」
ガルザヴェインの突進が、ほんの少しだけ横へずれる。
ミトが足首へ入る。
今度は爪を立てない。
匂いをつける。
魔神の足へ、自分の血をこすりつける。
アゼルがその匂いを目印に、伏星を置く。
「伏星標――縛星!」
足元で星が光る。
ガルザヴェインの足が、ほんの一瞬だけ固定される。
ノアの鈴が鳴る。
三つの輪が、また一瞬だけ繋がる。
連結焼きが熱を持つ。
だが、ロウエンはその熱ごと使った。
焼ける空糸を、ガルザヴェインの腕へ巻く。
「空糸技――焼猟線!」
連結焼きで熱を帯びた空糸が、ガルザヴェインの腕に食い込む。
魔神性が弾こうとする。
だが、熱が傷を刺激する。
前回ロウエンが結んだ傷。
そこが一瞬だけ開く。
ガルザヴェインの拳が遅れた。
その隙に、天蓋の猟犬は横を抜けようとする。
「させん!」
余は白い部屋で叫んだ。
「骨鎖陣!」
《展開》
湿骨軍列・骨鎖陣が、正面奥の道を塞ぐ。
骨鎖が六人へ伸びる。
だが、アゼルの伏星が道の下で一斉に光った。
「伏星術――帰犬跳!」
星が跳ねる。
足場になる。
六人が、骨鎖の上を飛ぶ。
重泥霧が空を重くする。
だが、ドランが風壁を下へ張る。
風ではなく、押し上げる板として。
ノアの鈴が鳴る。
ミトが先に着地する。
ロウエンが全員を引く。
セラは目を閉じたまま、記憶だけで方向を示す。
天蓋の猟犬が、偽天猟庭の中央を抜けた。
◇
白い部屋で、余は凍りついた。
《偽天猟庭、中央突破》
「……」
《侵入者、深部正規線へ接近》
「……まだだ」
声が震えた。
だが、叫ばなかった。
まだだ。
まだ終わっていない。
偽天猟庭は突破された。
だが、完全に無駄ではなかった。
セラの目は傷ついている。
ロウエンの指は焼けている。
ドランの胸も開きかけている。
ミトの腕と足に傷。
ノアは鈴に頼り、歌を温存している。
アゼルの伏星もかなり使った。
削った。
確かに削った。
だが、止められなかった。
「ガルザヴェイン」
余は契約線を繋ぐ。
魔神戦王は、焼猟線を引きちぎりながら立っていた。
傷はある。
だが、まだ戦える。
「追え」
「ワカッタ」
「ただし、木の前までは行かせるな。次の層で止める」
「ワカッタ」
フィルエが静かに言った。
「ロード、次が本物の手前」
「分かっている」
「かなり近い」
「分かっている」
「落ち着いて」
「……落ち着いている」
嘘だ。
だが、取り乱している場合ではない。
天蓋の猟犬は、偽天猟庭を抜けた。
次は、エリラの木の秘匿圏手前。
そこで止めなければならない。
絶対に。
◇
天蓋の猟犬は、白い庭を抜けた先で一度だけ止まった。
全員、息が荒い。
無傷ではない。
だが、誰も倒れていない。
セラは右目を閉じたまま言った。
「方向は合ってる」
ロウエンが聞く。
「見えるか」
「今は見えない。でも、覚えた」
ノアがセラの目元へ手を当てる。
「これ以上開いたら危ない」
「でも、最後は開く」
「分かってる。でも、最後まで閉じて」
ドランが胸を押さえながら笑う。
「偽の庭、嫌な場所だったな」
ミトが頷く。
「まだ匂いが重い」
アゼルが伏星の残数を確認する。
「かなり使った。次は節約できない」
ロウエンは全員を見た。
傷ついている。
疲れている。
だが、目的は近い。
リーネを起こすための実。
エリラの実。
もうすぐそこだ。
「進む」
ロウエンは言った。
「ここからは、止まらない」
その言葉に、全員が頷いた。
白い霧の奥で、本物の赤金の香りが、ほんのわずかに強くなった。
そして、背後から魔神戦王の足音が近づいてくる。
ごん。
魔神進軍鐘が、低く鳴った。