攻略組が帰った後から始まるVRMMO 〜イベントに遅れた俺だけが、誰にも拾われなかったユニークを見つける〜
「え、持ってるの?」
最初に《由来不明の物体》を出したヒュームの男性が驚いたようにこちらを見る。
頭上の名前はリック。
俺は頷きながら、自分のインベントリから取り出す。
完全に同じ形というわけではない。
俺の方が少し厚く、リックの方は細長い。それでも色と表面の質感はとてもよく似ていた。
「……待て。俺も似たの持ってるぞ」
銀ゴツネの狐耳がぴくりと動く。
インベントリから取り出したのはもう一つの《由来不明の物体》。
三つ目。
「これ、三つとも《由来不明の物体》か?」
「俺のも同じ名前ですね」
拾った場所はそれぞれ違う。
俺は崩れた岩場。
リックは水路から離れた場所。
銀ゴツネは北側の崩れた見張り台の近くだったらしい。
俺たちは広場の端にある机へ三つを並べてみた。
どれも手のひら程度の大きさだが、形はそれぞれ違う。
平らな板ではなく、少しずつ曲面を作っている。縁の厚さにも違いがあり、片側へいくほど薄くなっていた。
「これ、明らかに何かの一部じゃないか?」
銀ゴツネが並んだ物体を見る。
ロヴェルがそのうちの一つを持ち上げ、裏側を確かめた。
「三つ並ぶと、急にそれっぽく見えてくるねえ……」
「で、結局何なんだろ、これ?」
リックが首を傾げる。
「そこまで分かれば《由来不明》じゃないだろうな」
「――ちょっと、それ見せてもらっていいですか?」
すぐ近くから声がした。
振り向くと、別のパーティのプレイヤーがこちらを覗き込んでいる。
「それ、私も似たの拾いました」
「え?」
「これ……ですよね?」
取り出された物体を見て、周囲から声が上がる。
「やっぱり同じじゃない?」
「四つ目だね」
少し横幅は広いが、暗い灰色の表面も緩く曲がった形もよく似ていた。
「どこで拾ったんですか?」
「荒原の西側だったかな……。大岩の密集地帯の奥だったと思います」
「また別の場所か」
銀ゴツネが机の上の四つを見比べる。
いつの間にか隣のパーティからも何人か集まってきていた。
「ねえねえ、何それ?」
「探索で拾ったやつらしい」
「全部同じもの?」
「そうみたいだ」
人が集まれば、さらに別の人が足を止める。
「……あれ?」
通りかかったプレイヤーが並べられた物体を見て立ち止まった。
「それ、うちのパーティのやつも持ってたような気がする」
「ほんとですか?」
「たぶん。ちょっと呼んでくるわ」
そう言って人混みへ消えていく。
「……なんか大ごとになってきましたね」
「こういうのもイベントっぽくていいじゃないか」
ロヴェルは楽しそうだった。
少しして、さっきのプレイヤーが数人を連れて戻ってきた。
「これのことだよな?」
「あ、それだ!」
新しく来たプレイヤーがインベントリから取り出す。
五つ目。
形は少し違って、先端へ向かって少し細くなっている。
「ここに置いてみて」
五つ目も机の上へ並べられる。
曲面の向きや薄くなっている縁。
表面に残る細かな凹凸。
形は違っても、五つとも同じ特徴だった。
「結局何だったんだこれ」
「探索支援で見つかったのなら、何か関係ありそうだけど……」
そんな声が飛び交った、その直後だった。
―――――
【探索情報が更新されました】
複数の調査物から共通情報が確認されました。
―――――
「え?」
「なんか出た」
「名前が……」
五つを持ち寄った俺たちの前に更新通知が現れていた。
周囲が一気に騒がしくなる。
アイテムを確認すると、さっきまで《由来不明の物体》だった調査物の名称が変わっている。
――《大鎧蜥の外殻》
「大鎧蜥の……外殻?」
「名前が変わってる」
リックが自分の表示を確認する。
「俺のもだ」
銀ゴツネも続いた。
五つを持ち寄ったプレイヤー全員に同じ更新が反映されていた。
「鎧蜥って……」
誰かが《共同討伐クエスト》の一覧を開いた。
それを見て、俺も自分の一覧を開く。
――《鎧蜥ドルガーレン》
「……これって今日の討伐対象じゃないか?」
「まだ決まったわけじゃないが名前的にはそうだよな」
「外殻ってことはこれ……剥がれたってことか?」
さっきまで俺たちの周りだけだった輪がさらに大きくなっていた。
何の話か分からず近づいてきた人へ、別の誰かが説明している。
「探索で拾ったやつ五個集めたら表示が変わったらしい」
「マジ?」
「見せて見せて」
「これ?」
「すげー硬そうだな」
近くで見ていたプレイヤーが一つを受け取り、指の関節で軽く叩いた。
コツコツ、と石を叩いたような音がする。
「これ、刃当ててもいい?」
「やってみてくれ」
リックが答える。
プレイヤーが腰の短剣を抜き、端へ刃を当てた。
キィイーン――硬そうな金属音。
刃先が滑っている。
「……硬っ!」
表面にはほとんど跡がない。
「外れた状態でこれか」
「本体もこれと同じなら……すげえ面倒そうだな……」
さっきまでの笑い声が少しだけ小さくなった。
「ロヴェルさん」
少し離れたところから声がした。
振り向く。
《Astra Regalia》の三つのパーティが集まっていた場所。
その中心で淡い水色の長髪をしたエルフがこちらを見ていた。
頭上の名前表示を見る。
青蘭。
攻略動画で何度か見たことがある男性プレイヤーだ。
淡い水色の長髪に、白と青緑を基調にした細身のローブ装備。
防具も杖も細部まで作り込まれていて、身につけているもの一つひとつが俺の装備とは明らかに違う。
どうやらいつの間にか大きくなっていた騒ぎに気づいたらしい。
ロヴェルと目が合うと、青蘭が机に並べられた外殻へ視線を落としている。
「ちょうどよかった。青蘭さん、少しいいかな」
「ええ、何か騒がしくなってましたが、何か見つかりました?」
「うちのパーティだけの話じゃないんだけどね」
ロヴェルが周囲のプレイヤーたちを見る。
「《探索支援》をやっていた人たちが少し面白いものを持ち寄ってくれたんだ」
リックが自分の外殻を差し出す。
青蘭は受け取ると、まず表示を確認した。
「《大鎧蜥の外殻》……?」
「五つ揃ったところでアイテムの表示が変わったんです」
俺が言うと、青蘭の視線が机に並んだ残りの四つへ移る。
「拾った場所は?」
「カルダの周辺ではあるんだが、全然違うらしいよ」
ロヴェルの言葉を聞きながら、青蘭は表面を指でなぞる。
それからさっき短剣を当てたことでついた小さな傷を見た。
「これ、もう試しました?」
「さっき軽くだけ。かなり硬いみたいだぞ」
リックが答える。
「もう少し試してみてもいいですか?」
「ああ。攻略に使えそうなら好きにやってくれ」
「ありがとうございます」
青蘭が少し離れた場所へ目を向けた。
「シグ」
一人のヒュームがこちらを振り向く。
頭上には――シグエルという名前。
前髪を目にかかるくらいの長さで整えた短い髪。
横や後ろは軽くまとめられていて、どこか中性的な印象がある。
黒を基調にした防具は体の動きを邪魔しない細身の作りで、腕や脚には薄い金属板が重ねられている。
身につけているものだけでも一目で高位の装備だと分かった。
でも、何より目を引いたのは腰にある武器だった。
短剣と呼ぶには長く、普通の剣よりはやや細い鞘。
装飾は派手ではない。
それでも鞘や金具の作りまで、周囲の装備とは明らかに雰囲気が違っている。
その武器には見覚えがあった。
――《灰冠竜の穿牙剣》
灰冠竜グラウム討伐戦。
あの戦いで、ワールドラストアタックを獲得したプレイヤーへ報酬として与えられたワールドユニーク装備。
全サーバーを通して目の前の一振りしか存在しない。
攻略後の動画や掲示板に貼られたスクリーンショットでも見たことがある。
でも、こうして目の前で直接見ると、周囲の高位装備の中にあっても明らかに別物だった。
青蘭がシグエルに《大鎧蜥の外殻》を手渡す。
「これ、通せる?」