異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
そういうこと。
意味が解らなくてぽかんとしていると、ハーバラムさんが赤くなって、両手で顔を覆った。ふいと顔を背けてしまう。
「ああもう。ばかな男にいやらしい目で見られて災難だったねってこと」
「……あ」
あー、なるほど。
理解した。はいはい。女装に見える訳だものね。たしかに紛らわしいかも。
ん? 「でも、指環とか、腕環とか」
「耳飾り付けてないだろ。それが印」
ダストくんが低声で云った。えー。困ったなあ。ピアス穴なんてこわくてあけられない。
「でも、普通は、首飾りも指環も腕環もつけてるし、勘違いしねーよ。そのあんちゃん、酔ってたんじゃねえの」
「ああうん。多分。お酒臭かった」
普通なら平気なのな。裾野はお酒呑むひと少ないらしいから大丈夫か。
……でも、もしかしたら、あれかなあ。食堂の女の子に鼻で笑われたの、そういう勘違いをされてたのかなあ。
まあいいけど。職業がばれるより二億倍くらいまし。
魔王だからね、てへっ。
ほんとつらい。せちがらい。
冒涜魔法があるからいざとなったらほんとにそういう稼ぎかたもできなくはないなあ、捕まったりしないのかなあ。いやむりかなあ、体力要りそうだもんなあ。
「マオ、怒ってるのか」
「え?」
「いや、……その失礼な男にさ」
「いや、あんまり」
紛らわしいのはこっちだからね。
あの女の子に感謝だ。腕力ではお兄さんに敵わなかったと思うし、そうしたら最悪あのまま完遂されていたかもしれん。異世界こわい。
「ところで売春って捕まったりしないの?」
ふたりともむせてしまった。あらあら。
捕まったり罰せられたりはしないそう。とはいえ、嫌っているひとは多い商売ではある。
ついでに、悪いことしたらどうなるの? と訊いてみた。
単純。自治体の首長に罰せられる。もとの世界でいうと、首長に裁判所と検察を兼ねたような権限がある。裾野の話だから、ほかの地域では違うけど。
罰は損なったもの×1.2が下限、追放が上限。
魔法で家を壊した!となったら、家をもとの状態に戻したうえで、慰謝料を払う、みたいな刑罰が普通。原状回復を優先するのだ。
どうあがいても元に戻せない殺人は、情状酌量の余地なしの場合、荒れ地への追放刑。死刑じゃないのは意外だが、よく考えたら荒れ地は危ないところだ。魔物は出るし、水もない。そこにひとりで放り込まれたら、余程運でもよくない限り死ぬ。