異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
それはどうもと返すと笑われた。
「なに?」おにいさんは顔をこちらへ向けた。「もめごとでも起こしたか? やばくなって足を洗おうと?」
「は?」
「ま、座っといてもらうだけだからな。いいか」
おにいさんは伸びをして、すっと立ち上がった。
背、たっっっっっか!!
2mくらいあるんじゃねえの? ひょろっとしてる。そんで髪なげえ。もっさりふわふわな髪をハーフアップにしている。動物の毛っぽい。格好は、キルトの服に、皮の軽鎧、それに腰には剣。異世界っぽーい。
すいと手を差し出された。「セロベル。ここの主。宜しく」
「マオです。宜しくお願いしますセロベルさん」
握手する。セロベルさんはにやっとして、掌を擽ってきた。ぱっと手を引っ込める。
「なんだよ、慣れてるだろ」
「……業務内容は?」
「この席に座る。そんだけだ」
いまのってセクハラ?
ま、いいや。ふくよかな女性が好きらしいから。で、座ってるだけって?
セロベルさんはもう一度欠伸をした。
「ア、それと、借金取りを追い返すのもな。適当にあしらっとけ。座ってんのは、朝のお祈りの時間から、夕方まででいい。座ってるならなにしててもいいぞ。ただし客はとるなよ」
朝の七時くらいから、夕方ってことは五時か六時かな?
セロベルさんはぐきぐきと首を鳴らした。「そんで、給金は月に銀貨20枚。寝るとこ付きだからその分引いた。座ってるだけだから上等だろ。文句は?」
「ありません」
住み込みならありがたい。宿代の心配がなくなった。食堂ってことは台所があるのだし、市場で食材を買ってきて料理すれば食費も浮く。
セロベルさんは、文句を期待していたらしい。耳がへたった。
「あの、台所つかってもいいですよね?」
「ア? ああいいぜ。ただし客はほんとに来ねえぞ」
それ大丈夫なの? 宿として成り立ってなくないか?
セロベルさんは眠そうにうーんと唸る。「奥にばばあがいるけど気にすんな。自分でなんでもできる。出てきたらベッドに戻るよう云っとけ。あとは……まあそんなもんかなあ。わりい、俺寝るわ。じゃ、後よろしく」
え?
停める間もなく、セロベルさんはカウンタ奥のアーチの向こうへ消えた。
……えーと。
一応雇ってもらえたみたいだし……。
「よし」
初仕事しよう。
踵を返して外へ出た。従業員募集のはり紙をはがすためだ。