異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
はり紙は、なにでくっついているのか、なかなか剥がれない。
ぐいぐい引っ張っているとぱちんと音がして、半分剥がれた。こいつ根性あるな。
息を吐いて門を見上げる。「四月の雨亭」とあった。結構大きいし、建物も古いけど立派だった。食堂部分はひろびろしてテーブルも沢山あったし、きちんとしてればそれなりの宿っぽいのに、どうしてお客が居ないんだろう。あと、ばばあって誰?
「ちょっと!」
びくっとした。
声のしたほうを見る。大柄でふくよかな女性が立っていた。銀髪を低い位置でお団子にして、淡いピンクのリボンをかけている。目はマスカット色。把手がふたつの籐かごを持っていた。
おねえさんはつかつかやってくると、もの凄い剣幕で怒鳴る。
「なにしてるの?!」
「え」
「誰に云われて……セロベル!」
ぱっとなかへ走りこんでいった。なんですかね?
……まあいいや。セロベルさんの知り合いだろう。
はり紙を再び引っ張る。強情っぱりめえ。
ぱちんと音がして完全に剥がれた。やった!
「……あ」
もしかして借金とり?
慌てて走る。食堂へと駈けこむと、セロベルさんとおねえさんがもめていた。「なんだよ、リエナ。お前が店番雇えって云ったんだろ」
「だからってどうして」
「客はとらねえって云ってたし、大丈夫だって。なんかしくじっておんだされたんだろ」
「セロベル、あんた真面目に考えてないでしょ? 大体わたしは、料理人でも雇ったらって云ったの。それを、職業不問だなんて書いて!」
「いいんだって。どうせ借金とりしか来ねえし、それも俺がなんとかする」
「体壊してからじゃ遅いのよ」
おねえさん=リエナさんが、最後には涙ぐんでそう云い、ぷいと顔を背ける。「おばさまにご飯渡してくるわ。セロベルも……」
「ああ」セロベルさんは溜め息を吐いた。「いつもありがとう。でも、俺はいいよ」
リエナさんは口を引き結んで、別のドアから出て行った。
……えーっと、借金とりではないか。
セロベルさんが欠伸をする。「おー、マオだっけ? おどかしたな。あいつ、隣の肉屋の娘。リエナっつって、幼友達なんだわ。お前のこと借金とりと思ったみたいだ」
「はあ」
「あのな、云い忘れてたけど、彼奴が今くらいの時間と、夕方に、ばばあの飯届けてくれるからよ。夕方リエナが来たら、お前の業務は終了な」
「はい」
お隣さんで、「ばばあ」のご飯を届けてくれているひと、と。「で、ばばあって誰です?」
セロベルさんは面倒そうに口を開いた。
「俺の母親」