異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「敬意って」
「だって、職場の先輩だし、セロベルさんのお母さんだし、年長者だし、敬意ははらいますよ」
なんかおかしいか? 挨拶と相手へのリスペクトは大事だぞ?
セロベルさんは額へ手を遣る。耳がぴょこぴょこした。
「獣人だぞ。気にならないか?」
「気になるって……まあ、ならないと云えば嘘になるかなあ」唸る。「普通にお肉のはいったご飯にしちゃったけど、大丈夫かなあとか」
ハーバラムさんが発作的な笑い声をたてた。え? え?
セロベルさんはぽかんとしている。ダストくんは呆れ顔。「マオって、やっぱりただものじゃないな」
「なに? どうして笑うんですかハーバラムさん」
「ご、ごめん。今のマオの言葉を聴かせたら、ひっくり返りそうな連中に、こ、心当たりがあってさ」
???
グロッシェさんは、お肉は少量なら食べられるそう。よかった。
で。
この世界における獣人というのは、グロッシェさんみたく、外見がかなり動物寄りのひと達のこと。昔は「けものづら」と呼んだんだけれど、それは差別的な意味合いがあるらしく、今は獣人と呼ぶ。
獣人は数が少ない。しかも、見た目にまったく動物要素がない夫婦も獣人を授かることがある。で、獣人の子どもは多かれ少なかれ動物っぽい部分があらわれる。羽持ちとか耳持ちとかだ(勿論、そういう子どもが外見が人間の夫婦の間に生まれることもある)。
「獣人と縁続きになることを嫌うひとは多くて……」
グロッシェさんは、おずおずとだがこちらを見て話した。「夫は、親族より、わたしを選んでくれました。そのことは、嬉しかったけれど、とても心苦しくて……」
グロッシェさんと、セロベルさんの父親・ヤイルさんは、ともに入山経験者。出会いはだった。グロッシェさんは「清掃人」、ヤイルさんは「料理頭」、お互い、適職がひとつで、とてもめずらしい。
グロッシェさんは、人間の両親の間に生まれたが、獣人であったために井に預けられた。井は孤児院みたいなこともやっているらしい。へ行くのはこわかったが、適職がひとつしかないので、それを生かすための勉強をしたかった。
はじめは、今みたいにフード付きのローブで、成る丈外見を隠していた。でも、は獣人に対してフラットなひとがほとんどで、いやな思いをすることはなかった。友達もできたし、勉強も楽しかったと云う。