異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
クッキー、沢山焼いておいてよかった。お茶を喫みにくるお客さんが多かったのだ。
ついでに、帰りがけにお土産としてクッキーを買っていくひとも多数。おいしいからね!
でもどんどん目減りしていくなあ。俺のくう分がなくなりそう。それはいやだ。
仕方ないので、再びクッキーの量産にはいる。小麦粉もお砂糖も大量に買っておいてよかった。ラードが足りないかもなあ。
クッキーを焼きまくっていると、ダストくんとハーバラムさんが、買い付けを終えてやってきた。ついでに、グロッシェさんとセロベルさんが借金をしている相手について、情報を持って。
ふたりともお茶のセットを注文してくれた。
話があるらしいので、クッキーにけりをつけてから食堂へ行く。
ほかのお客さん達はもう居なくて、ふたりはクッキーをさくさく食べていた。ハーバラムさんが椅子を示す。「マオ、こっち。お菓子もおいしいねえ」
隣へ座る。頭を撫でられた。「食べていいよ」
断れない。いちまいとってかじった。おいしい。
ハーバラムさんがテーブルへ片肘をついた。
「おつかれ?」
「……まあまあです」
「無理しちゃだめだよ。あと、今からの話で、あんまり腹をたてないでおくれ」
??
ハーバラムさんは声を低める。「ダスト坊で充分だからね。……昨日、グロッシェさんに、どこから金を借りたのかを聴いてね。商人仲間に色々と情報をもらったんだ」
ハーバラムさんを見る。ハーバラムさんは微笑んでいるが、つくりわらいだ。ダストくんはと云えば、険しい表情でクッキーを噛んでいる。
「借りた相手は、ラッツァク商会。金融協会でも一・二を争う金貸しだよ」
ラッツァク商会は、レントで一番大きな金貸し。
現商会長はウロア。四十代で、創業家とは血縁ではなく、功績を認められて会長になった。
商売は、ハーバラムさん曰く「品行方正」。
無理な貸し付けはしない。無茶な取り立てもなし。どころか、返済が滞りはじめたら、場合によっては商売の仲介をするなど、人道的な行いをすることで有名。
「ラッツァクに限っては、貸しはがしだの、夜逃げだのとは無縁だって評判だね」
「でも……」
「うん。だから、ここだけこんなに借金がふくれあがってるのはおかしい。だろう?」
頷く。
ハーバラムさんはちょっと目を瞑る。息を吐いて、開く。「その、ウロアってのは、わたしも顔見知りでね。ひとつだけ異常なとこがある」
異常?
「耳持ちに相当な執着があるんだ」