異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
隊長さんもやってきた。意外にも女性だ。
と云っても、身長は180cmよりあるだろうし、がっちりしている。ついでに、大きな剣を背負っていた。
肌はカフェオレ色で、焦げ茶のウェービーロングヘアを頭頂部で束ねている。飾りもつけてはいるが、男性ほど華美ではない。顔に傷痕があって、引き攣れていた。
隊長登場にまわりの空気がはりつめる。
「あなたがセロベルの?」
声は低くて掠れていた。
セロベルの……なんだろう。解らないので首を傾げた。お弁当を差し出す。「どうぞ」
「……どうもありがとう。セロベル、好いひとに来てもらったね」
セロベルさんがむっとした。「隊長、変なことは云わないでください。マオはうちの厨房担当です」
「そう?」
なんかよく解らん会話してる。ま、いっか。
にこっと笑った。「おいしいお食事用意いたしますので、いつか四月の雨亭にお越しください」
営業した。任務達成!
隊長さんだけでなく、まわりに居たひと達もみんなきょとんとしてしまった。何故。
お弁当を配り終えた。早速食べているひとも居る。ライティエさんとか。
「じゃ、帰りますね」
「ああ。ヨー!」
ヨーくんがひょこひょこ走ってきた。セロベルさんは小首を傾げる。「お前、みち覚えてるだろ。マオのこと送り届けろ」
「え」
「だいじょうぶですよー、ひとりで帰れます」
「だめだ。頼んだぞ」
ヨーくんは一瞬嬉しそうににやっとしたが、すぐに表情をひきしめる。「はい」
作戦は、夜までかかるらしい。遅くなるし、給仕はできないから食堂は閉めとけ、と云われた。セロベルさんが居なくてお客さんが来たらてんてこまいだ。忠告には従うつもり。……クッキーの販売はしようかな。
バルドさんが挨拶に来た。丁寧に会釈してくれる。「マオ、おいしいものをありがとう」
「いえ。今度、食べに来てくださいね」
「かならず行こう。ヨー、マオに何事もないよう気を付けろよ」
「解ってます! マオさん、行きましょう」
ヨーくんは鼻息が荒い。先輩たちに課せられた任務にはりきっているよう。子どもっぽくて可愛い。
バルドさんに会釈し、セロベルさんに頑張ってと云い、ヨーくんと一緒に北へ向けて歩き出す。四月の雨亭までは大通りがほとんどだ。危険なんてないのに、セロベルさんも心配性なんだから……。
どんとなにかがぶつかってきた。
子どもだ。
ん?
子どもはなにも云わずに走って逃げる。今の……。ヨーくんが叫んだ。「待て!」
あ。嘘。
見覚えがあった。俺はあわててメニューを開く。持ちもの一覧。
ケータイがなくなっていた。