異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
サッディレくんは、客室をひとつもらって、そちらで寝起きすることになった。
セロベルさんが強硬にそう決めたのだが、サッディレくんは文句も云わないで、素直に従った。お隣かなー向かいかなー斜向かいかなーとちょっと楽しみにしていたのだが。
翌日、朝から盛況だった。
理由は単純で、警邏隊が詰めかけたのだ。ちゃっかりライティエさんとメイラさんも居た。
警邏隊は鎧着用でクッキーおまけ、と、昨夜お弁当をうけとりに来た巡回組のひとへ伝えたところ、それが瞬く間に警邏隊にひろまったらしい。海老で鯛を釣るならぬ、クッキーで警邏隊をおびき寄せる。
傭兵等級2以上で、一度でも警邏隊として働けば、鎧は協会からもらえるらしい。一年間警邏隊としての勤務がなかったり、傭兵等級が下がったら没収されるから、偽警邏隊の心配はない。
「マオ、いいのかい、こんなにもらって?」
バルドさん、ヨーくん、大地魔法をつかっていたひと、のテーブルへ定食を運ぶと、トレイの端からはみだしているクッキーの包みを、バルドさんが示した。
「大丈夫ですよ。警邏隊頑張って下さい」
「ああ……昨日はお弁当をありがとう。おいしかったらしいね」
「俺も食べたかったです」
ヨーくんが口をへの字にした。食欲が旺盛なのはいいよな。生きてる感じする。
にっこりヨーくんへ笑みかけた。「今日もおいしいのつくるから。へそまげないで」
ヨーくんは真っ赤になって、あわあわとなにやら云っていた。よくききとれない。食欲ははずかしいことじゃないよ!
大地魔法をつかっていたひとは、ラールさん。裾野生まれ裾野育ちの沃野士。入山の一歩手前まで行ったのが唯一の自慢だと胸を張っていた。ラールさんが受験したときは三次試験まであって、その三次試験で落ちてしまったのだとか。
「まあ、沃野士なんざめずらしくもねえし、俺あ魔力が低かったからな」
「はしにも棒にもひっかからなかったわたしよりは凄いよ」
「バルドにゃデンシがあるからいいじゃないか」
デンシ、は、伝糸。バルドさんの特殊能力で、接触したことのあるひとに自分の声を送れる。この間も、そうやっていたらしい。あの時は三人、伝糸をつかえるひとが居て、相互に連絡を取り合えた。凄く便利な能力だ。
ただし、距離や精度はひとによる。バルドさんは500㎞くらいなら飛ばせるそう。でも凄く疲れるよ、とのこと。
「間に交換手がはいってくれたら、もっと遠くまで飛ばせるけれどね」
「交換手はめずらしいからなあ」
へえー。いろいろあるんだなあ。