異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
話しこんでしまっていた。からのお皿をワゴンへ移し、さがろうとすると、新しくお客さん達が這入ってくる。「いらっしゃいませ」
「定食を、五人前頂戴な」
「かしこまりました」
お辞儀してから、ワゴンを押して厨房へ戻る。注文した、髪を布で覆い隠している女のひとは、満足げにこっくり頷いていた。
グロッシェさんへ汚れた食器を渡し、定食を拵えてワゴンへのせる。セロベルさんがお茶を淹れ、運んでいった。
クッキーの包みをかごへ詰め、カウンタへ持っていく。「遅れたわ。サキさま、こちらへ」
「もう注文は済ませておきました」
「ありがとう……おいしそうね」
聴き覚えのある声に目を遣ると、金髪美少年が居る。
本屋さんで喋った、サキくんだ。相変わらずきらきらしてる。髪は今日も左へ寄せたみつあみで、飾り気はない。
さっきのテーブルか。サキくん以外は女性だ。三人は大人で、ひとりは本屋さんでも見た、厳格そうな女性。
ひとりだけ、サキくんくらいの年齢の子がいた。
サキくんより濃くてミューくんより淡い金の髪を、長ーく伸ばしている。椅子の背凭れが完全に隠れるくらい。左右の耳の上くらいに、幅広の赤いリボンを結びんでいた。茶色の瞳で目が大きく、少女漫画のヒロインみたいな可愛さで、表情豊かだ。
サキくんが隣り合った女の子の鼻先をつついた。「リオはご機嫌だね」
「うふふ。だって、巧くいった気がするの! わたし、試験の時冴えてたわ」
「リオがそう云うなら、巧くいっているんだろう」
「サキちゃんは?」
リオちゃんは胸の前で手を組み、サキくんをきらきらとした目で見る。
「わたしより成績よかったもの、巧くできたでしょう?」
「さあ……」サキくんは頬杖をついて、にこっとした。「どうだろう。同じ組に、とても優秀なひとが居たよ。入山できるのなら、彼とお近付きになりたいな」
「まあ! どんな子? どんな魔法をつかってたの?」
リオちゃんは肩を上下させた。
「黒と、白の、斑な髪の毛でね……こんなふうに切ってあって、……飾りはたっぷり」
「あらおかたですこと」
リオちゃんはつんとそっぽを向いた。仕種がいちいち芝居がかっているが、違和感はない。「わたし、気が合わないみたい」
「そう? 差別や偏見は、入山の妨げだよ」
「差別でも偏見でもないわ。単に苦手と云うだけ。わたし、髪を切りたくないのだもの」
ぷくっとふくれてしまう。おつきらしい、髪を布で覆った女性がたしなめた。「お嬢さま、そうきかないでは、旦那さまに叱られてしまいますよ」
「お父さまは関わりないわ。髪を伸ばしてきたのはリオよ。リオの体の一部をどうして好きにしてはいけないの?」
進歩的な考えのお嬢さんだ。おつきの女性は困り顔で首をすくめた。