異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
もしやばくなったら冒涜魔法つかお。それでだめならその時だ。減るもんじゃねえ。
自分は悪い人間、と考えていたら、本当にそんな気がしてきた。なりきってるってやつ? 子役時代にこれができてたらなあ。
だめか。俺向上心ないし。
トーリュス邸あとの近くはうすぐらく、静かだった。繁みとかにつれこまれたらどうしようもないな。「ここ? わ、おおきいおやしき」
「うん……こっちだよ」
おにいさんたちはあしもとが覚束ないが、頭はまだはっきりしているらしい。
三階か四階はありそうな建物で、窓が丸い。石造りっぽい。
おにいさんたちはその建物へ這入らず、裏手にまわった。「こっち」
「えー? なにこれー」
わざとらしく驚いてみせた。成程ね。
裏手の壁を押すと、ざっとこちら側へ開いた。隠し扉だ。その奥に、上へ続く階段が見える。かなり急。
「すごーい」
「へへ……上でやってるんだ」
「そうなんだあ」
あんまりにもばかっぽすぎるだろうか、と思ったが、おにいさんたちには好評みたいだ。じゃあこのキャラでいこう。
階段をのぼる。おにいさんのひとりが手を引いてくれた。お姫さま扱いである。
なんか楽しいかも?
上の階についた。ローブのフードを目深にかぶった、華奢な体形の人物が居る。「こんばんは」
「こんばんは。いつもお世話さま」
「あんた、初めてだよね?」
ゆびさされた。にこっとして頷く。
「じゃ、これに名前書いて。云っとくけど、俺は生き証人だからね」
「ここ?」
「そう」
芳名帳みたいなのだった。しかも筆書き。ますます芳名帳っぽい。
ほかのひとが名前だけ書いているようなので、マオ、とだけ書いた。生き証人さんが頷いて通してくれたから、いいのだろう。……生き証人まで職業? まじで?
アーチをくぐると、別世界だった。
お酒と、お香? の匂い。それに、吊り下げられた綺麗な灯。ほおずきみたいな形。シャンデリア、とまではいかないけれど、きらびやかだ。
背の高いテーブルが幾つかあって、這入って右の壁は酒壜の詰まった棚に占拠されている。その前にカウンタがあって、バーテンのおねえさんがお酒を提供していた。
その場にいるのは男性がほとんど。年代も服装もばらばらだが、所謂サロンというか、クラブという感じ。秘密基地感ある。楽しくお喋りする社交の場でもあるのだな。目を血走らせて賭けごとに興じているのはひと握りだ。
あと、髪が短くて、耳飾りをしていない青年(少年?)が多数。お客さんではないみたい。賭けで勝ったひとに近付いていって、こそこそと話している。売りこみだろう。営業努力。うまく話がまとまったのか、揃って奥のほうにあるドアから出て行った。
おじさんと腕を組んで楽しそうにお喋りしながら呑んでいる子も居た。大丈夫かなああれ。ぐいぐいいってるけど。