異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
なんだろうねこの子! 凄く苛々する!
危うく手が出るところだった。
いやいや。いいんだ。勘違いについては措いておこう。きちんと謝りもしているし。ごめんなさいできるのは偉い。いいこ。
でもなんかこう。ああーいらいらする。
立った。「警邏隊に届けるから」
「やめてくれ」
「夜道でひとに抱きついておいてなんなの?」
繁みを出ようとするとローブを掴まれて、また、リッターくんの腕のなかに逆戻りだ。膂力!!
しかし、流石にお説教が効いたのか、リッターくんはぼそぼそと喋った。
「解った。話せることは話す。ただし目当ての人間が来たらそこでおしまいだ。俺はそいつを連れて帰らなければならない。抵抗されるだろうから、その時は隠れていろ」
なんか物騒なこと云ってない? こわい。
リッターくんのたどたどししい語りをまとめると。
リッターくんは、シアイルの貴族。で、貴族の護衛としてレントに来た。あとどれくらい滞在するかは解らないが、きちんと護衛としての務めを果たすべき部下が(確かに部下と云っていた。中学生に部下ってまじかよシアイル)、夜になると邸を抜け出してどこかへ行っている。賭けごとをしている、と別の部下から報告があった。由々しきことだとあとを追ったらここについた。でも、邸の扉は閉ざされているし、どうやってはいったらいいか解らなかったので、待っていれば出てくるだろうと思った。
その部下は、フードを目深にかぶって、こそこそとはいっていった。背格好が似ていて間違えた、だそう。
「それがほんとだって証拠は」
「ない。それに、これは国の恥だ。口外しないでくれ」
あのな。
いや、俺は市場でリッターくんを見ていて、たしかに俺くらいの身長のひとがあの時居たと思うし、間違っても仕方ないのかもしれないってのは解る。豪華な馬車も見たし、貴族かなーと思った。
解るけど、それは俺がリッターくんを一度見ているからだ。この子の口下手さは色々と拙い気がする。
頭をおさえてしまっていた。
「邪魔をしておいて、帰れは失礼だった。すまない」
「じゃま?」
「……俺とこうやって話すより、客をとりたいだろう」
「あー……」
めんどくさいなこれ。
リッターくんはなにを思ったか、ごそごそと懐をさぐり、お財布をとりだす。「幾らだ?」
「……は?」
「払う」
お財布を開けようとする手をぺちんとはたく。「いらない。しまって」