異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「しかし」
「あのね」にっこりしてやった。「おこさまに払える額じゃないから」
リッターくんは、ゆっくりとお財布を仕舞った。子どもっぽい後悔らしい表情が一瞬見えた、けど、すぐになくなる。「……悪かった。どう償えばいい」
「別にいいよ。ただ、賭場は関係ないから、完全に通りに出たところで捕獲してね。騒ぎが起こったら困るの」
ウロアを引きずり出すためには、余分な騒動はそれこそ邪魔だ。シアイルの貴族ともめて賭場をひらかなくなりました、なんてことになったら、俺の計画がおじゃんだもの。
リッターくんは瞬いて、解った、と云った。
まあ。悪い子ではないんだけど……これは、誤解を受けやすいだろうなあ。
収納空間から、クッキーの包みを出した。マシュマロをはさんでいるやつ。「これあげる」
「……何故」
「さむいのにおつかれさまって意味。じゃあね」
包みをおしつけて、今度こそ繁みから出た。ううっ、葉っぱまみれだ。
リッターくんは小さく、ありがとう、と云っていた。悪い子じゃないんだけど、いらいらさせられるなあ。
通りを北へ。そうすると、レントの東西にのびる通りに出る。南北の大通り程ではないが、かなりの道幅だ。
かじかんできた手に息を吹きかけた。寒い。もう日付けが変わったかも。……異世界では日付けは朝にかわるのかもしれん。ややこしい。
「君」
肩を叩かれた。振り仰ぐ。「そのかっこう……マオ?!」
ラールさんだった。ヨーくんも居る。
あちゃあ。まずいかも?
すぐ近くの、警邏隊詰所へ連行された。
トーリュス邸あと近くはうすぐらくて解らなかったのだが、リッターくんとのやりとりのせいで、俺の服はだいぶ汚れていた。マントに土がたっぷりついているし、頭のてっぺんからずぼんまでいたるところに葉っぱがくっついている。
窃盗犯……とでも疑われたかなあ、と思ったのだが、下にも置かぬ扱いをうけた。
まず、暖炉のある部屋へ通された。空気が暖かい。しかも、ふかふかの座面の椅子に座るよう云われる。そして、ヨーくんが涙ぐみながら運んできたあったかいお茶と、大きなビスケットの表面にアイシングがかかったものを提供された。
「ど。どうぞ」
ヨーくんはなんだか哀しそうだ。髪は、綺麗にあみこんでからみつあみにしてあった。
お礼を云って、お茶をすする。お砂糖たっぷりで、あったかい。「おいしい」
「よ、よかったです……こわい思いしたでしょう。もう大丈夫ですからね。今、マルロさんが、セロベルさんに……」
ヨーくんが泣き崩れた。え?
「あの……?」
「う。きちんと見まわりしていたのに、マオさんを襲う不埒者が居たなんてっ!」
……はあ。