異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
体はなんともない、と解ると、ふたりともほっとしたらしかった。
廊下からラールさんを呼ぶ声がして、ラールさんが出ていった。ヨーくんはぐすんと洟をすすり、目許をこする。
俺は出されたお茶をのみ、ビスケットをありがたくかじった。生姜風味でおいしい。
アイシングに生姜の搾り汁がまぜられているみたい。ビスケット自体は、硬く焼き締めてあって、かじるとかりっこりっと音を立てるほど。でも、すぐにぼろぼろに崩れていく。甘さは控えめ、ただしアイシングたっぷり。
「おかわり、ありますよ」
「……あの、ごめんね。なんでもないから」
「いえ、治安維持は我々の大切な仕事ですから」
ラールさんが戻ってきた。息を切らしたセロベルさんを連れて。
セロベルさんは、俺を待って起きていてくれたよう。きがえていなかった。
「この。ばかやろう」
開口一番叱られてしまった。俺は首をすくめる。「ごめんなさい」
「セロベルさん、マオさんはこわい目にあったんですから、いきなりそんな」
「うっせえ。このばか、無茶苦茶なことするから、こっちの心臓が保たねえ」
「まあまあ」ラールさんがセロベルさんの両肩へ手を置いた。「落ち着けって。ああ、マオちゃん、話が途中だったけどよ。一体全体、あんなとこでなにしてたんだ? 客待ちのほかに思い付かねえんだがな」
あー。そうですよね。それはいいわけ用意してなかったな。
俺が口籠ると、セロベルさんがぶっきらぼうに云った。「配達だ。こいつ、時間停滞の収納空間持ちなんだよ」
セロベルさんありがとう。賭場云々は警邏隊に云う訳にはいかない。今は。
「そうか、それでか」ラールさんは俺へにこっとしてから、セロベルさんを部屋の隅へと連れてゆく。「セロベル、あのな……」
ふたりは低声で言葉を交わす。さらわれ? とか、うる? とか、聴こえた。さらわれそうになったと思われてるのかも。あと、ピアスの話も出ているよう。ピアスをしていないと危険なのは解るのだが、穴をあけるのは無理だ。こわい。
ヨーくんがお茶のおかわりをいれてくれた。給仕さんみたいに手際がいい。……四月の雨亭に来てくれないかな? ヨーくん、元気だし、にこにこしてて、お客さんにも印象いいと思うんだよね。
またぼーっとしていた。
セロベルさんとラールさんは、表情が険しくなっている。夜間は出歩かないように、なんていわれたらどうしよう。困ったなあ。
「バルドさんっ?」
突然、ヨーくんが叫んだ。