異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ヨーくんはあらぬかたを見ている。狼狽えているのが解った。「バルドさん? どうしたんですか?!」
「おい、ヨー」
「バルドさんが! 様子がおかしいんです! 俺見てきます!」
ヨーくんは、いろんなものにぶつかりながら、廊下へ走りだしていった。
ラールさんがそれを追い、セロベルさんがちっと舌を打つ。「マオ、マルロに送らせる。とっとと帰れ!」
いいざま、セロベルさんは駈けてゆく。俺は茫然とするだけだった。
ぼーっとビスケットを咀嚼していると、たまごそぼろ色の髪の女性が這入ってきて、そのひとがマルロさんだった。
マルロさんは、俺と同じくらいの身長体格で、髪は肩口でばっさり切っている。ライティエさんのように、鎧の下はドレスだった。鼓笛隊のバトン? みたいなのを佩いている。
マルロさんが、俺を四月の雨亭まで送ってくれるそう。詰所にはほかに警邏隊が居るから心配ないとのこと。それに、マルロさんは伝糸持ちなので、なにかあったらすぐに連絡できる。「だから、心配ないですっ」
「はあ」
「マルロについてきてください!」
うすい胸を張って宣言したのへ、俺はこっくり頷いた。
夜道は寒い。
マルロさんはバトンを右手に持ち、警戒しながら俺を先導してくれた。大きな通りばかりを選んで、角を曲がるときには特に気を付けて、ゆっくりのんびりと進んだ。
四月の雨亭に辿り着く頃には、俺はほとんど寝ていた。お酒はとっくに抜けているが、そもそも夜起きているのが辛いタイプなのだ。
マルロさんにお礼を云い、警邏隊として当然ですっ、と元気のいい返事をもらった。しつれいしますと頭を下げて、厨房へ這入る。
「マオさん」
「ぅわ」
グロッシェさんだった。
ランタンを持って、佇んでいる。
俺はひょこっと会釈した。「どうも……すみません、遅くにでかけて」
「いえ。……セロベルは?」
「あ、よく解らないんですけれど、警邏隊のひと達とどこかへ」
「そうですか」
グロッシェさんは、ふよ、と、鼻を動かす。
俺は横歩きで、階段のほうへとじりじり移動した。「じゃあ……寝ますね」
「マオさん」
「はい」
「セロベルは誘わないでくださいね」
「はい?」
グロッシェさんは顔を背けた。
そのまま流れるようにランタンの火をふっと吹き消す。小さな体が闇に溶けた。
「あの?」
「開拓者に見捨てられたら、あの子が可哀相なので」
グロッシェさんは、おやすみなさい、とかたい声で云って、すーっと出て行った。