異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
一応神話の本も読んだんだけど、まったく気付いてなかった。迂闊。
リエナさんが、おいしかったわ、とにこにこして帰っていった。グロッシェさんは客室のお掃除でいない。サッディレくんとアーレンセさんはお茶のおかわりを淹れてまわっている。
俺は出汁づくり。牛の骨をオーブンで軽くあぶっておいたので、それを煮出している。澄んだものにしたいので、沸騰させないよう気を付けて、浮いてきたあぶらをとりのぞく。
「なあ」
「はい」
「……昨日、ほんとに大丈夫だったのか」
「はい」セロベルさんへ顔を向けた。「セロベルさんこそ、単独行動はだめですよ。気を付けて下さい」
「ハ?」
「世のなかにはいろんなひとが居るもんですねえ」
「お前な。どうして、その……ふ。服装が乱れてたんだよ?」
そう云うふうに聴いたのか。
にやにやしてしまった。セロベルさんが赤くなっているのが可愛くて。
「なんだよ、笑うなよな」
「いいじゃないですか? 昨夜のは、あれは単なる誤解なので、心配いりません」
「だから、その誤解って?」
「人違いですよ人違い。謝られたし、向こうも反省してました」
シアイルの貴族だとか、そういう部分は省き、ざっくり説明した。
セロベルさんは、俺の指示で、お茶のでがらしを刻んでいる。
「賭場に行った仲間を捕まえに来てたやつに、間違って捕まった? それを信じろって?」
「真実ですもん」
「大体な、お前みたいなのがふらふら夜道を歩いてて、まったく無事で済む訳ねえ。夜うろうろするのはやめろ」
「自由時間はあると思ってましたけど、違うんですか?」
もう少し煮込んで、と。でがらしはクッキー生地に混ぜる。これくらいなら香りもいいかな。
天板に生地を落として、オーブンへいれた。クッキーは相当量売れるから、用意を怠ってはいけない。
「マオ」
セロベルさんが俺の襟首を掴み、いとも容易く向きを変える。ひとのことを操り人形かなんかと思ってる?
両肩を掴まれた。セロベルさんは少しだけ腰をかがめる。
「俺は本気で云ってる。お前はうちの事情とはかかわりねえ。あの姉弟ともだ。お前が危険な目に合う必要はない」
「危険がないとは云わないけど。じゃあ、セロベルさんこそ、俺が危険な目にあおうと無関係じゃないの?」
「だから、まきこみたくねえって云ってるんだろ」
「んー。でも、俺怒ってるから」
「ハ?」
昨夜の、あの話。思い出すだけでも吐き気がする。嘔吐剤でも平気なのに、不思議なものだ。